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【ぼくのお日さま】を三幕構成で読み解く

#ネタバレ

結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。

登場人物
タクヤ(越山敬達):主人公。小学6年生。
さくら(中西希亜良):フィギュアスケートを習う少女。中学生。
荒川(池松壮亮):元オリンピック強化選手のスケーター。現在は事情があるのか田舎で子供にフィギュアスケートのコーチをしている。


まずは、物語を三幕8場構成に分解します。

一幕

1)吃音持ちの小学生タクヤは注意散漫で野球でもアイスホッケーでも周囲に馴染めない。体も小さく周囲にいじめられている。そんなタクヤはある日、ホッケーの練習後にフィギュアスケートを練習するさくらに見惚れてしまう。コーチの荒川はそんなタクヤに気づく。

2)ホッケー用の靴でスピンを練習するタクヤに見かねた荒川は自分が昔使っていた靴を貸してやる。

二幕

3)翌日からタクヤは荒川に師事するようになり、やがてホッケーへの参加を辞めてフィギュアに集中するようになる。タクヤはどんどん上達していく。

4)古い雑誌を見かけた荒川はインスピレーションを受けて、さくらをアイスダンスに転向させて、二人で練習させる。二人の技術はどんどん向上して、数日後にアイスダンス競技の出場資格をかけた試験が迫る。

5)さくらは街で偶然、荒川が恋人らしき男性と親しく過ごしているのを遠くから見かける。翌日、さくらは荒川に小学生男子に女子のスポーツをさせて楽しんでいるのかと問い詰めるが、荒川は何も返答できない。

6)さくらはアイスダンスの試験をすっぽかす。閉館まで待ちぼうけたタクヤは、本当はさくらは嫌だったのだろうかと落ち込む。後日、さくらの母親が荒川に会いに来て、特に理由は明言せずにコーチ契約の解除を告げる。ヤクヤはホッケー教室に戻る。生徒が一人も居なくなった荒川に、同居人はこのままこの街に居座る意味張るのかと問う。

三幕

7)冬が終わり、春が来た。タクヤは中学校に上がりサイズの大きい学ランを着て歩く。たまたま引っ越しで旅立つ荒川と鉢合わせたので、二人はキャッチボールする。靴を返すと言うタクヤに荒川はあげると答える。

8)スケート会場で踊るさくら。柔らかな光がさくらを包み込む。タクヤはスケーツ靴を抱えてスケート会場に向かう。向こうからさくらが歩いてくる。タクヤは何か言おうとして言葉に詰まる。

FIN

2024年製作/90分/G/日本
配給:東京テアトル
劇場公開日:2024年9月13日

「僕はイエス様が嫌い」で第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞した奥山大史が監督・脚本・撮影・編集を手がけ、池松壮亮を主演に迎えて撮りあげた商業映画デビュー作。

▼解説・感想:

一幕
 一場:状況説明
 二場:目的の設定
二幕
 三場:一番低い障害
 四場:二番目に低い障害
 五場:状況の再整備
 六場:一番高い障害
三幕
 七場:真のクライマックス
 八場:すべての結末

参考:ハリウッド式三幕八場構成

1-1:タクヤは注意散漫で野球でもアイスホッケーでも周囲に馴染めない
1-2:さくらのフィギュアスケートに見惚れるタクヤに荒川は靴を貸す
2-3:荒川はタクヤに練習をつけるようになる
2-4:荒川はさくらにアイスダンスに転向させて二人で練習させる
2-5:さくらは街で荒川を見かけて、荒川が同性愛者だと知る
2-6:さくらは荒川に決別して、アイスダンスの試験もすっぽかす
3-7:中学に進学したタクヤは街を去る荒川とキャッチボールをする
3-8:スケート会場に向かう途中でタクヤはさくらと再会する

まっすぐに恋や夢に向かっていく十代と、人生色々あって少し疲れた大人の物語。若い二人のフレッシュな演技とスケート技術も素晴らしかったですが、元オリンピック選手クラスという設定に恥じないほど高い池松壮亮の身体能力も見応えがありました。

無理ない同性愛要素の組み込みにも感心しました。映画の序盤では匂わせ程度なのですが、映画が進むにつれて直接的な恋愛描写になっていく演出が見事でした。

そして特筆すべきは雪や氷や自然光をうまく使った、幻想的で美しい照明ですね。これは『僕はイエス様が嫌い』の時からそうでしたが奥山大史監督の得意技と言えるでしょう。

細かいことを言うと、アイススケート場を普段使いでライトを消して窓の自然光だけに頼るなんてまずあり得ない(笑)ので、映画のための演出かなーと思いますが、それが監督が表現したい世界なので、これで良いのでしょう。

画面アスペクトが常に4:3なのも良かったです。物語の規模が小さい時はこのサイズがしっくりきますね。

(了)

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