記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

氷がすべてを隔てても(Against the Ice)

おっっっそろしいほど映像が綺麗な映画です。

4K HDRで配信されているので、環境がある方は視聴して損はしないでしょう。

白銀の世界。美しい山々と空と太陽の自然風景が拝めます。

ただし注意点が大きく2つあります。

1つ目はワンコがとても可哀想な目に遭います。
それも一度や二度ではありません。

2つ目はポスターから想像できるような
「遥かな北国の大地を舞台にした冒険ロマン」は途中までで、
映画のほぼ半分が小屋での孤独なサバイバルになっている点です。
すでに何人かに指摘されていますが後半はほぼ『ライトハウス』です。

どちらも楽しい気持ちになりたくて観た人には
ショックな内容となるでしょう。

ただしレーティングは掛かっておらず
直接的な暴力描写やエロ描写はありませんので
そこはある程度は安心して観られるようになっています。

▼背景の解説

https://en.wikipedia.org/wiki/Greenland
https://en.wikipedia.org/wiki/Peary_Land

グリーンランドは「世界で一番大きなアイランド」です。大体、北海道26個分の広さになります。この次に大きい陸地はオーストラリアで、こちらは「世界で一番小さい大陸コンチネント」ということになります。

20世紀初め。もともとグリーンランド島は16世紀からデンマーク王国の植民地でしたが、アメリカ合衆国が「北のペリーランド(Peary Land)はグリーンランド本島とは海峡(Peary Channel)で分断しているからグリーンランド領ではない。発見者のロバート・ペリーはアメリカ人だったので、ここはアメリカの領土である」と主張していました。

時はまだ2つの世界大戦の前ですし、アメリカも領有権(領海権・領空権)を確保することに躍起になっていたのでしょう。ここを押さえることができれば欧州諸国やロシア帝国に対して睨みを効かせやすくなります。

しかしデンマークとしてはこの土地を他国に譲ることは避けたいため、アメリカが主張する『ペリー海峡』が本当に存在するのかを調査するために探検隊を送りました。しかし、その探検隊が悲劇にも遭難したため、追加で救助隊を送りました。この映画の主人公はその救助隊の隊長と、探検隊に同行した若い機械工の2人です。

救助隊は6名で構成されており、北極海の氷に邪魔されず船で行けるところまで行ってキャンプ地として小屋を建てて、そこから先は犬ぞりで2名だけで特攻をかけます。

夏の間に救助活動を完了するはずが一回目の特攻で失敗します。映画はこの一回目の特攻がキャンプ地まで帰ってきた場面から始まります。デンマークの権利を守るために隊長は二回目の特攻をかけることを決断しますが、隊員は皆一様に嫌がります。特攻が危険であることもありますが、もうすぐ夏が終われば海が凍って帰れなくなるからという側面もありました。そこで経験がないゆえに恐れを抱かなかった若い機械工が隊長の補佐として特攻隊に加わります。

ここまでが映画の冒頭10分間で起きていたことです。

ここから先は核心部分の #ネタバレ を含むので閲覧にはご注意ください。

▼可哀想なワンコたち

https://www.netflix.com/jp-en/title/81115160

犬ぞりの可愛いワンコ達が見れるぞ!
と思ってこの映画を観たら大怪我しますよ。(笑)

映画の前半に台詞で
「犬は1頭あたり100ポンド(45キロ)の重りを引く。つまり100ポンド軽くなるたびに一番弱い個体を殺して餌にするんだ」
と説明されますが、、、

実際に特攻の道中で犬が次々と殺されていきます。

犬が殺される瞬間のビジュアルこそ出てきませんが、
ライフルを突きつけられて悲しそうに見つめる犬の場面や
雄大な自然に非情な銃声が鳴り響く場面や
捌いた肉を他の犬に与える場面は出てきます。
あとは映画的なエンタメ性を演出するために
クレバスに犬が落下する場面も出てきます。

極地探検の厳しい現実が伝わってくる描写でした。

二回目の特攻隊は無事に島の北端に一回目が残したケルン(石を積み上げた目印)の中に「ペリー海峡は存在しない」という証拠を見つけて、キャンプ地まで全ての犬を犠牲にして帰り着くのですが、なんとここからが本作の本編とも言えるチャプター2に突入するのでした。

▼まさかのライトハウス展開

https://www.netflix.com/jp-en/title/81115160

二回目特攻隊の帰還を待っていたはずの本隊は、凍り始めた大西洋を見てすでにデンマークに帰ってしまった跡でした。キャンプ地に戻って絶望する2人。これは厳しい状況です。

ただし、帰った人達にもそれなりの道理はありました。

このタイミングを逃せばその年はデンマークに帰ることは出来ず、
6名全員がキャンプ地の小屋で越冬することになりますが、
それには食料が足りません。

こうして小屋での2人きりのサバイバル生活が始まります。

しかし、ここで強かった隊長がまさかの精神を病んでしまいます。

二回目の特攻でシロクマに襲われたことをきっかけに
隊長の精神は徐々におかしくなり始め
せっかくキャンプ地まで帰ったのにケルンが破壊される夢を見て
すぐにケルンまで取りに行くぞ!って言い出します。

さらには機械工が持ち込んだ写真を見て
故郷に残してきた愛しい女性のことを思い出すようになり、
毎日のように妄想して幻覚を見るようになり
常に物思いに耽るだけで全く仕事をしなくなります。
そればかりか機械工に女性を寝取られたと思い込んで
機械工を殺そうとする始末です。

密室に男二人で生活して、気が狂って幻覚を見る。
もう完全に『ライトハウス』ですやん。(笑)

違いと言えばウィレム・デフォーとロバート・パティンソンの
両方の狂気を全部隊長一人で担当したことくらいですかね。

なかなか面白い展開だとは思いましたが
流石に比較対象があの狂った『ライトハウス』だと
そこは少々物足りないとは正直感じましたかね。

機械工は機械に強いだけあって
信仰や信念よりも科学的に物事を見れるようです。
彼が小屋の備品の手入れをしたり
食事や見張りなどの仕事を粛々とこなして、
次の救助隊が来るまで二人が生き延びられたのは
間違いなく彼の貢献だったと言えるでしょう。

この映画は『Two against the Ice』という
隊長本人が残した著書からの映画化です。
隊長が「彼のお陰で生き延びられた」みたいな記述から
インスピレーションを広げてこの脚本になったのかなと思います。

了。

この記事が参加している募集

#コンテンツ会議

30,733件

#映画感想文

66,723件

最後まで読んでいただきありがとうございます。ぜひ「読んだよ」の一言がわりにでもスキを押していってくださると嬉しいです!