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【徹底解説】ラストシーンの謎と腹の傷跡(逆転のトライアングル)

あの謎のラストカットを論理的に読み解きます。

合わせてヤヤの腹部に見られる手術痕について考察します。

当然ながら映画の結末に言及するので、未鑑賞の方はブラウザバック推奨です。(傑作映画なのでいいねだけ押して映画館にGOしましょう!笑)


▼あらすじ整理

#ネタバレ

本作は三幕構成を徹底しているというか、わざわざ蓋絵でチャプターを分割してまで形式的にそれを意識させる作りでした。

第一幕:カールとヤヤ
 カールは駆け出しのモデル。一方で恋人のヤヤはすでにトップモデル。デートで外食をする時に稼ぎが少ないカールが金を出すことなど些細だが本人には大事なことで口喧嘩などしながら、それでも上手くやっている2人。

第二幕:クルーズ船
 カールとヤヤの2人は超豪華クルーズ船のツアーに参加している。実は自腹ではなくて、インフルエンサーであるヤヤがSNSでの広告目的で招待された。カールは周囲に居る本物の金持ち連中(全員が2人よりかなり年上)と微妙な温度差を感じながら船上でバカンスを過ごす。
 低気圧が迫る木曜の夜に開かれたツアー目玉のディナーパーティーで船酔い者が続出し、一人が吐瀉すると刺激されて乗客のほぼ全員が吐瀉する阿鼻叫喚の大惨事になってしまう。嵐で船は立っていられないほど揺れ続け、下水は逆流し、電気系統は故障し、乗客たちは不安すぎる夜を過ごす。
 明け方、クルーズ船が海賊に襲われて爆破を起こし沈没する。

第三幕:島
 島に流れ着いたのは一部の人間たち。カール、ヤヤ、IT系の億万長者、ロシアの実業家、車椅子で言語障害の女、乗員のチーフの女、そしてエンジン室担当の男。そこにトイレ清掃係の女アビゲイルが乗ったライフボートが流れ着き、アビゲイルはセレブ客の誰も出来ないようなサバイバル能力の高さを武器に生き残りメンバーのリーダーになる。何も仕事ができないが外見だけは美しいカールはアビゲイル専用の男娼になる。はっきり言葉にはしないが、ヤヤも含めた生存者全員がとっくに気づいている。
 ある日、ヤヤは山の向こう側まで探検すると言い出して、それにアビゲイルは同行する。急峻な峠を越えた反対側で2人はリゾート用のエレベーターを見つける。ここは無人島ではなかったのだ。これで家に帰れる。元の生活に戻れる。権力がなくなることを恐れたアビゲイルは油断したヤヤの背後から石を振りかぶる。そのとき背中を向けて海を見つめたままでヤヤが言った。「ねえ、あなたには本当に感謝してるの。家に帰った後は私の使用人にならない?」
 森の中をカールが走っている。

▼ラストシーンの意味

結末が唐突で、全てを語らずに終わります。

ラストシーンは走るカールですが、セリフはありません。走るのに必死すぎてあまり表情らしいものは読み取れません。カールはなぜ、どこに向かって走っているのかは映画の中で直接は説明されません。ただ、非常に切羽詰まった表情であり、顔や腕を擦りむいても構わず全力疾走なので、相当急いでいるのは間違いなさそうです。

私はこう考えました。

ヤヤとアビゲイルが二人で出掛けた後で、行商人が漂流組の滞在しているビーチまで来た。

これでビーチに居た全員がここがリゾート地だと分かった。

カールはヤヤとアビゲイルに伝えようと山に入るが、二人がずいぶん奥まで出掛けたのだと分かった。

カールは今更ながら「これは愛する男を巡っての殺し合いになっている可能性がある」と思いついた。

カールは手遅れになる前に二人に追いつこうと全力疾走した。

アビゲイルがヤヤを石で殴ったのかは劇中で描かれません。殴るのか、殴らないのか、どっちなんだ!と思ったら森を走るカールに切り替わって、そのまま映画が終わってしまいます。私はエンドロールの後におまけ映像があるかもしれないと少し期待しちゃいました。(笑)

アビゲイルに人間の心が1ミリでもあるなら、殴るのは思いとどまると思うのですが、どうなのでしょうか。

ここで私が好きなYouTubeチャンネルの意見を紹介します。

『逆転のトライアングル』の最大の強みは、現代社会が抱えるあらゆる事象に対する皮肉が満載に詰め込まれていること。この視点は非常にヨーロッパ的。敢えて過剰にやっていて、その一つの現れがゲロとクソの直接的な描写。ラストカットの走るシーンは破局カタストロフィに向かっていることを示唆する内容であり、論理的に説明できる表現ではないと思われる。

シネマサロン映画業界ヒットの裏側より

なるほど、たしかに一理あると思います。

ただ、もし本当にそうだとすると、このラストシーンだけそういうテイスト(観客に対して不親切になる姿勢)が強すぎるような気もします。ここまでほぼ全てに具象的な描写を用いてきたのに、最後だけ抽象的に投げるものかしら。正直、疑問です。

再掲しますが、ラストシーンには論理的な説明ができます。

ヤヤとアビゲイルが二人で出掛けた後で、行商人が漂流組の滞在しているビーチまで来た。

これでビーチに居た全員がここがリゾート地だと分かった。

カールはヤヤとアビゲイルに伝えようと山に入るが、二人がずいぶん奥まで出掛けたのだと分かった。

カールは今更ながら「これは愛する男を巡っての殺し合いになっている可能性がある」と思いついた。

カールは手遅れになる前に二人に追いつこうと全力疾走した。

…とエンドロールを観ながら考察していました。

直接的な描写はないので、あくまで私の想像や憶測の域を出ませんが、劇中で語られた要素から推理して、論理的に破綻しないと思います。

ちなみに私は都会的美人のヤヤが荒涼とした山頂でポーズを取ってるように見えるシーンがまるでインスタグラムみたいで最高に可笑しかったのですが、そこからアビゲイルと取っ組み合いになってどちらか(または両方)が滑落死するんじゃないかとハラハラしながら観ていました。(笑)

▼傷だらけのミューズ

本作ではチャールビ・ディーンの美しさと悲劇を語らずにはいられません。映画の最後で彼女(ヤヤ)が殺されたかもしれない曖昧さと、実は現実世界でも彼女(ディーン)はもう死亡しているという遠い存在すぎて実感が湧かない曖昧さが、シンクロして何とも言えない情感があります。『ダークナイト』のヒース・レジャーとも少し感覚が似ています。

劇中で結婚する結婚しないの会話の直後にチャプターが変わるので、私はお腹の手術痕を帝王切開かなと一瞬思いました。しかし臍の上まで伸びてるから多分ちがいます。

あまりに素敵な演技だったので、観賞後に演じているチャールビ・ディーンについて少し調べたら、実は交通事故で脾臓摘出していたと知りました。おそらくその手術痕でしょう。いよいよ適切な言葉が見つかりません。

彼女はビキニの水着でお腹の手術痕を隠さず、なんならそれを見せつけるように写真を撮ってインスタに上げています。彼女が超豪華クルーズ船に招待されるほどのトップモデルになれたのは、この傷を抱えながらもトップモデルとして活動していたというストーリー性も大いにあったのだろうと察せられます。

これは美談でもあるし、同時にグロテスクでもあります。近いものとしては24時間テレビの障害者が努力する姿を見せる演出と似通ったものを感じます。ただ日本のようにセリフなどで傷や不幸に言及するようなことはなく、ただ観客の観察力だけに任せる姿勢は嫌味さや気色悪さを感じさせません。そういうところは欧米は日本より進んでいると改めて思います。同じモチーフを使っていながら、これだけ差があるのですから。

なおディーンは脾臓摘出の影響で昨年8月に動物に噛まれての細菌感染症が悪化して死亡したというのだから、もう本当に悔やまれます。先の交通事故では脾臓摘出だけでなく、肺が潰れ、脊椎骨2個と肋骨4本を含む多数の骨折もあったそうです。復帰できただけでも奇跡だったんですね。関係者や元からファンだった方々にはお悔やみお申し上げますと共に、故人のご冥福をお祈りします。

チャールビ・ディーンのインスタを見ていると、なんだかヤヤのインスタを見ているような錯覚も起こして、何とも言えない気分になります。

▼仮説:真犯人=???

結末に関連して、ミステリー映画の技法としてのお話も。

ズバリ、真犯人=アビゲイルかもしれません。

そもそも嵐に飲まれたくらいで豪華クルーズ船は沈みません。だからこそ乗務員は淡々と仕事をこなしていました。体調を崩したのは乗客だけで、乗務員は全員無事でした。

しかしトイレが逆流するのは異常です。最初から何か細工をしないとあんなに下水が逆流して船内がクソまみれになるなんてあり得ません。

では、トイレの清掃担当者は誰でしたっけ?

アビゲイルなんですよねー。(笑)

しかもクルーズ船が海賊に襲われても、彼女だけがライフボートで避難していました。夜明けごろに寝込みを襲われたのに、なぜ彼女だけそんな器用なことが出来たのでしょうか。

もちろん偶然の可能性もありますが、不自然ではあります。

もしかしたら、最初からアビゲイルは海賊と共謀していて、低気圧の夜にわざとトイレを破壊し、自分だけライフボートで逃げて、翌朝に海賊仲間に船を爆破強盗させたのかもしれません。

思い出してください、アビゲイルは浜辺に漂着した時も、すぐにドアを開けようとしませんでした。外から皆にあんなに「開けろ開けろ」と騒がれたのに。彼女はなぜ葛藤していたのでしょうか。

予告編の中で、傾いた廊下を掃除用具のワゴンが走ってきて壁にぶつかってバケツの水が音を立てて飛び散るシーンがあります。あれも不自然です。船が揺れるのは当たり前なので、ワゴンが自走しないように紐や鎖で固定するはずです。それをしていなかったということは、掃除担当者が不在だったということの示唆かもしれません。つまりアビゲイルはあの時すでに…

このように考えると、ラストのヤヤを殺そうとする場面も説得力がアップします。

▼日本の配給会社はネタバレしすぎ

↑日本版予告編のみ爆破シーンがある。

これは文句を言っておきたいです。

日本版の予告編は「船が無人島に漂流してトイレの清掃員がトップになる」という本作の最大の仕掛けをナレーションで語ってしまいます。これはひどいネタバレだと思います。

映画を鑑賞後に改めて日本版予告編を見直すと、海外予告編には無かった要素がかなり増えています。

・クルーズ船が爆破される瞬間
・登場人物のプロファイル(インフルエンサーとか武器商人とかの説明)
・乗組員が「マネー!マネー!」とはしゃぐ場面
・トイレ清掃員が逆転するあらすじ

これは、簡単に言えば配給会社が日本の映画ファンを舐めている証拠です。「私たちがここまで説明しないと映画ファンに面白さが伝わらない」と彼らは考えているから、こういう予告編の作りになるのです。多くの外国映画で、日本版のポスタービジュアルのみ文字数が増えるのも同じ理由でしょう。私はもう本当に反吐が出ます。

日本版
アメリカ版

そもそも『逆転のトライアングル』という邦題だって、原題はTriangle of Sadness(悲しみの三角形)なので、日本だけ「逆転」と入れた時点ですでにネタバレだとも言えます。

その点、海外版の予告編の匂わせ具合は素晴らしいです。

読ませるつもりがあるのか無いのか分からないくらい短いカット割の連続で、どでかい明朝体の文字でどどんと思わせぶりなコピーで煽ります。

輝かしく手厳しい「富と美」の屈辱
限界への挑戦でオストルンドに優る者は無し
できるだけ大衆で見るべき
容赦なく面白い、痛烈に面白い、野蛮に面白い、不正に面白い

こういう予告編が得意なクリエイターが日本にもいます。

庵野秀明です。

彼のシン・ゴジラ、シン・ウルトラマン、そしてシン・仮面ライダーの予告編に顕著だと思うのですが、あれって一度見ただけで全ての情報を処理できる人っておそらく存在しなくて、ほとんどの人が複数回視聴してようやく細部まで気づいたり、それでも全部は理解しきれなくて劇場で本編を観て初めて意味が理解できるような物ですよね。(むしろ本編でさえも一度では全て理解できないように作られている節もあります)

つまり観客は庵野秀明の実写映画を「正直よく分からないけど面白そうだから観に行く」のであって、だからこそ初見での驚きも大きくなるのです。しかし、そういうサプライズ的な味わいとか趣きが台無しなんですよね、海外映画の日本予告編のほとんどが。説明過剰なんですよ。配給会社はビビりすぎ。

もうマジで、海外予告編の直訳するだけで十分だからさ。

余計なことせんといてくれんかね。

・分かるものじゃないと売れない
・分かりやすいことが絶対なる正義

という空気(常識;思い込み)が支配してるから、日本の映画界(エンタメ界)は文化的に貧しく見えるのだと思います。 その掟を破るには、メジャー作品では庵野秀明や宮崎駿クラスにならないと出来ないというのは非常に寂しく感じます。

こういうことを書くと「日本版予告編を見なければ良い」と思われるかもしれませんが、自宅と異なり映画館の幕間で上映されているので劇場によく通う者としては事実上回避不能なのです。もう少し観客の感受性を信頼して抑えてほしいですね。

了。

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