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【コンクリート・ユートピア】を三幕構成で読み解く

#ネタバレ

結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。

主要人物
ミンソク(パク・ソジュン):602号室の男。優柔不断な優男。
ミョンファ(パク・ボヨン):ミンソクの妻。看護師。
ヨンタク(イ・ビョンホン):902号室の男。勇敢さを買われて住民代表に。


一幕

1)
異常気象の大寒波が襲う韓国。そこに世界規模で未曾有の大災害が起こり、韓国の首都ソウルも一瞬にして廃墟と化した。唯一崩落しなかったファングンアパートには生存者が押し寄せ、不法侵入や殺傷、放火が続発する。

2)
危機感を抱いたファングンアパートの住民が部外者の排除を決定する。一時的に抗争になるが、ヨンタクの勇敢な行動もあって追い出しに成功して完全に閉鎖的なユートピアの運営が始まる。

二幕

3)
住民はルールを制定して治安を維持する。住民代表となったヨンタクは権力者として君臨するうちに次第に独裁を深めていき、住民の中には反感を持って部外者を匿う者も出てくる。食糧が底をつき食料確保のための遠征も始まり、そこで放浪者を狩るようなことも始める。

4)
903号室の少女へウォン(パク・ジフ)が生還する。ヨンタクは自身の過去を暴露されるのを恐れる。実はヨンタクの本名はセボムで、災害の直前に不動産詐欺にかかって本物のヨンタクを殺して、そのまま身分を偽り902号室に住んでいたからだった。

5)
看護師のミョンファはミンソクが暴力的な捜索隊に参加することに反対するがミンソクは追放されないために必要だとミョンファを諭す。一方でヨンタクはへウォンに脅しをかけるが、へウォンはミョンファにヨンタクが偽物だと教えてしまう。同時期にアパートの周辺で住民の殺人が起きて、アパートの厳戒態勢が強化される。部外者を隠していた住民も厳しく摘発されて処罰されて、ヨンタクの独裁政治が強まっていく。

6)
食料が底をついたので捜索隊は遠征範囲を広げる。ショッピングモールの跡地で大量の食糧を発見するが、そこで暮らす人々と激しい戦闘になって複数の犠牲者が出る。一方、ヨンタクの留守中にミョンファとへウォンは902号室に侵入して本物のヨンタクの死体を発見する。

三幕

7)
捜索隊が帰還したタイミングでミョンファがヨンタクの正体を暴露して混乱が起きるがヨンタクはへウォンを殺して住民を黙らせる。そこに外部勢力が攻めてきて全面的な大暴動になり、ファングンアパートは陥落する。暴動を生き延びたヨンタクは902号室まで戻って力尽きる。

8)
ミョンファとミンソクはアパートを捨てて放浪するが、崩壊した教会で一夜を明かすとミンソクは死んでいた。ミョンファは運良く別の生き残りグループに救出されて新しい住処を提供されて、慎ましくも平和な暮らしを始める。

FIN

2023年製作/130分/G/韓国
原題:Concrete Utopia
配給:クロックワークス
劇場公開日:2024年1月5日

▼解説・感想:

●構成について

ストーリーテリングはかなり良かったと思います。ハリウッド式三幕構成にも綺麗に当てはまり、観客が2時間を飽きずに最後まで観られるようによく工夫されていますね。

一幕
 一場:状況説明
 二場:目的の設定
二幕
 三場:一番低い障害
 四場:二番目に低い障害
 五場:状況の再整備
 六場:一番高い障害
三幕
 七場:真のクライマックス
 八場:すべての結末

参考:ハリウッド式三幕八場構成

映像も良かったです。本作は韓国版のアカデミー賞とよく言われる大鐘賞(テジョン賞)ではBest Visual Effects Award、Best Art Award、Best Sound Effect Award、Best Actor、Best Supporting Actress、Best Filmと6冠を獲得しており(ノミネートは11部門)となっており、その通りの完成度でした。

ただし結末には大きな不満が残りました。

●結末が抱える矛盾

矛盾してるんですよねー。最後の最後に。だから結末だけは高評価できないって感じです。映像も演技も物語の組み立ても素晴らしかっただけに落胆も大きかったです。最後の最後にちゃぶ台返しでずっこけた感じです。

最後にミョンファを助けた人々。なぜ彼らは平和的な暮らしができるのか、根拠が一切示されません。強いて言えば、キリスト教の神のお導きくらいです。明示はされませんが、ミョンファが助けられたのがキリスト教の教会だったので、彼らがキリスト教の象徴であるのは明らかです。少なくとも作り手は観客にそういう連想をさせようとしています。

映画が2時間かけて、ここまで現実路線でずっと人間の本質的な残虐性やサバイバルを描き続けてきて、最後の最後に「教会で寝てたら助かりました」という、信仰だけを掲げてメデタシメデタシと言ってしまうのは稚拙そのものです。

一神教の宗教特有の、自分達の神を信じている自分達だけは賢くて、自分達だけは特別だという、思い込んでる人達だからこその安直で姑息な結末で、私は全く評価できませんでしたね。

『フランダースの犬』のように教会でミョンファもミンスクと一緒に二人で凍え死んでいたら、私の評価は爆上がりしたと思います。

ともに生きる道はないのでしょうか?
ともに生きるか、ともに死ぬかのどちらかだ。

●結局はキリスト教のプロモーションかも?

最後のセリフに全部詰まっているような気がします。

「ただで住んでも良いのでしょうか」
「なぜそんなことを聞くのですか?生きている限り住んで良いのですよ」

このキリスト教の説法を今更したり顔で語るのが私には鈍臭いし、説教臭いし、嘘臭いし、周回遅れだと感じてしまいました。

それが理想的なことは誰でも解ってるだろ!(呆れ顔)

でも、そうはできない現実的な問題(衣食住の確保)があって、だからアパートの住民も、放浪して生きる『ゴキブリ』達も苦労しているというのに、その現実的な問題への回答を何も示さずに「平和に暮らしましょう」と理想論だけを語って、なんかそれで生き延びてしまいそうな姿に嫌悪感を覚えました。

その理想論を語るのは全然問題ないのですけど、それをするのはこの映画のこのタイミングではないだろう!という感想です。

結局はキリスト教のプロモーションというか、最終的にそれが言いたいだけで、ここまでサバイバル映画を描いてきたのかな、と思うとちょっとアホらしくなりました。(困惑)

この仕草は究極に無責任で、責任逃れと論理すり替えで誤魔化し続けるような、日本の左翼連中のようでもあり、韓国の外交政策を思い出させるものでもありました。(苦笑)

●他者への誤解

それでも評価してる部分は勿論あります。

というか本当の最後のセリフは良かったです。

「彼らは人の肉を食っていると噂がありますが、本当ですか?」
「いいえ、普通の人達でした」

この映画で私が一番面白いと思ったのは、各グループの人達がお互いに他人のことを「あいつらは人間の肉を食って生きてるらしい」と噂話を信じているところです。この描写は映画の中で何度も出てきます。お互いがお互いに醜い嘘を作り出して、それを信じてしまっている。

このような、グループができることで他者への恐怖とデマも浸透してしまう様子は現実社会でもよく見る光景で、このテーマだけで押し切って欲しい(キリスト教信者のグループが無条件に博愛を実践できているというチートを使わないで欲しい)と思った作品でした。

出ていけ!

●謝るのが嫌な韓国人

映画の中盤で、部外者を匿っていた住民が厳しく処罰されるシーンがあるのですが、そこでの罰の内容が印象的でした。なんと「私は間違いを犯しました、ごめんなさい」と200回謝罪の言葉を述べるという内容でした。これに対しては処罰される方も、処罰する方も「なんて非道いことをするんだ」と悲しみをマックス露わにしていましたし、抗議のために投身自殺する者まで現れる始末です。

でも、日本人の自分にはあまり共感できませんでした。

悪いことやルール違反をした時に、謝罪するのがそんなに嫌なのか?(笑)

良くも悪くも日本人はすぐに謝罪する傾向があると思います。それは日本社会の中で相手を思いやる美徳でもあり、国際社会で相手国からナメられる要因でもあります。

ただ、この映画を観ていて韓国人は謝罪することが本当に嫌いなんだろうな、ということは判りました。日本でも左翼界隈の活動家には絶対に謝らない人が多いですから、まあ大陸や半島の文化なのでしょうね。

まあでも石丸伸二とか最近出てきた変な人にも謝罪ができない日本人は増えてるかなー。これは「石丸伸二が日本人ではない」という根拠のない言説の原因の一つなのではないかと個人的には思いますけど。

そしてミラーリングで考えれば、それこそ朝鮮の人達がいつまでも日本に謝罪を要求してくる本質はまさにこの感情なのかな、とも思えます。韓国政府は自分達がやるのは嫌なこと(それほど死にたくなるほど嫌なこと)を何度でも日本政府にやらせようとしているんじゃないですかね。

まあ、これは余談が過ぎましたかね。でも映画を通して異文化を感じるのも、映画を観る醍醐味の一つですからね。

▼まとめ:

映像7点
ストーリーテリング8点
結末3点

他者を敵視するモチーフは非常に良い。
ただしキリスト教をやたら持ち上げ過ぎだと思う。

都合が悪いところには目をつぶるダブルスタンダードな感じは、日本の左翼界隈の人達や、韓国の外交政策を思い出させて不快になった。

(了)

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