希望ヶ丘商店街

時間を転がしてみたいような
緩やかな斜面に
赤い千日紅が咲く午後
空の隅っこに寝転がった
顔を空白にしておいてはいけない
君の声が聞こえた
雲が離れて行った
空は何を裏切ったのだろう

朝から晩まで
明石海峡を見ていたことがあった
目は他のことを考えていた
音楽っていいね
楽譜があれば
歌でも交響曲でも
何回でも再現できる
ナゴヤドームで
ポールがジョージの『サムシング』を
ウクレレを弾きながら歌っていた

希望ヶ丘商店街で
君と住んでいたことがあった
土曜日の朝は
家に持ち帰った仕事を片付け
昼は疲れて寝ていた
夕暮には
セルロイドの桜で飾られた
アーケードを二人でくぐった
商店街を歩いた
アルパインという名の洋菓子店で
チーズケーキを
二つ買ってみたりした
駅近くにあった公園で
鉄棒を飛び越えて
月面宙返りの着地に成功したりした
それから
マラマッドの『アシスタント』の話をした
そんな商店街があった

千日紅の咲く緩やかな斜面を
影が降りて行く時刻
まぶたの裏に残ったものを
雲に籠めてきた
希望ヶ丘商店街のアーケードが
夕空に浮かぶ時刻だ