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ごはんの話【2冊目:つやつや、ごはん】

飯びつを、開ける。けさ早く炊いたご飯が移してある。さすがに、さめている。さめた方がよい。茶碗に、たっぷりとよそる。新米だから、ご飯の香りが強い。ひと箸、口に入れる。うまい。ゆっくりと、噛む。
                       - 新米は手づかみで ※1


私にとって秋は、食欲とお出かけの季節。
お出かけするには良い気候だし、何より季節の美味しいものが満載なので。
というわけで、今回はごはんのはなし。


本日のお供は『つやつや、ごはん』。
まず、書籍の題名にワクワクが止まらない。
ごはん」ですよ、それも「つやつや」の。

この本は、題名通り、ごはん(お米)にまつわる短編集。
名な作者たちによるこだわりの詰まった「ごはん」の描写を読むたびに、その情景が思い浮かぶようで、その炊き立てのお米の香りまでも思い出すようで、なんともソワソワと落ち着かない気持ちになる。
ご飯が美味しい季節に読むのはピッタリで、そして満腹必須な本。


できたてのおにぎりを食べる。
できたてのおにぎりは、柔らかく、あたたかく、湿っていて、まだおにぎりとして「確定」していないようで、落ち着かない気持になる。
おにぎりを食べながら、小学校の運動会を思い出す。
                         - 4月1日 おにぎり ※2


ふと思い出す「ごはん」がある。
人それぞれの思い出や記憶の中に、確かに「ごはん」は刻まれているはず。
それはおにぎりかもしれないし、コンビニで買ったパンかもしれない。
大切な人が作ってくれたごはんだったり、はたまた旅先で食べたものかもしれない。
着慣れない服を着て緊張して食べた食事だったり、着倒した服を着てリラックスして食べる馴染みのお店の味かもしれない。
今、実際に食べているごはんは、記憶にある「ごはん」そのものではない。
けれど、似た香り、似た味、似た食感、似た見た目を一瞬でも感じると、普段忘れている記憶が一気に引き寄せられる。
そういう現象を「無意識的記憶」や「プラースト現象」ともいうのだそうです。
生理現象といえばそれまでだけど、自分の意図しないところで、自分の体験が記憶の中でちゃんと積み重なっていると思うと嬉しいですね。


私の場合は母が作った発芽米のおにぎりが思い浮かぶびます。
食べている途中で崩れないよう、硬く握られたおにぎり。
あとは、さつま芋やレーズンの入ったホットケーキミックスで作る蒸しパン。
香りで思い出すのは、昔、家庭菜園で育てたミニトマトやサヤインゲンを摘み取る際の、あの独特な青い香り。
たまにスーパーで買ったミニトマトからその香りがすると、途端に懐かしい気持ちになる。
また、秋が深まる頃に父が枯れ葉を集めて用意した焚き火で作った焼き芋やジャガイモの、あの灰の香りを纏った秋の味覚も捨てがたい。
どれも幼い頃に経験したものですが、それが私の味覚の基盤になっています。


私は料理があまり得意ではないのですが、それでもご飯を炊くのとお味噌汁だけは作るようにしている。
もちろんパンも好きだけれど、お米の炊き上がる芳しい香りが好きなんですよね。
土鍋の蓋を開けると立ち上る、どこか甘さも感じるお米の香り。
あのもちもちした食感にも、なんとなく安心感さえ覚える。
何よりパンだとすぐにお腹が減ってしまうので。
一日一回はお米を食べないと落ち着かないのです。
私はいつも土鍋でお米を炊いています。
炊飯器を買おうとしたのだけれど、種類と機能がありすぎてよく分からず結局炊飯器は断念し、洗いやすさ重視で土鍋で炊くようになってからは、よりごはんが好きになった。
調理時間もそんなに変わらないですし。


以前はいわゆる「丁寧な暮らし」に憧れて、いろいろ新しい料理も作ったし、一時期流行した糠漬けもチャレンジしたのだけれど。
ちょっと私の生活パターンには合わなかった。
そもそも一人暮らしなので食べる量にも限度があるので、最近では適度に力を抜いてキッチンに立つようにしている。
まったく余裕がない日はスーパーでお惣菜やおにぎりなど買ってきって、プラスチックの容器のままいただくこともある。
食器を洗う気力があれば、買ってきたものをお皿に盛り付ける。
スーパーで買った鮭のおにぎりと、紫蘇と昆布のおにぎり。
それに大葉で彩りを添えてみる。
お皿に乗せるだけで、ちゃんと「食事」らしくなる。
これは自分一人だから出来ることであって、ご家族や作ってあげなければならない人が居る場合は、また違うってくるし必死にならざるをえないけれど。
手を抜けるところは、手を抜いても良いと思う。

ごはんは、なかなか深く考えてしまうと難しい。
手を抜こうと思えばいくらでも抜ける。
逆にこだわれば、いくらでもこだわれる。
ただ良い塩梅に、ごはんを楽しむ気持ちで毎食いただけたら、きっと1日が素敵に過ごせるはず。


食べ物は、身体で食べるものであるとともに、心で食べるものなのだ、とつくづく思ったことだった。
                       -「超おいしかった」体験 ※3



みなさまは、今日は何を食べますか?


[引用]
書名:つやつや、ごはん
     ※1  新米は手づかみで (出久根達郎)
     ※2  4月1日 おにぎり (穂村弘著)
     ※3 「超おいしかった」体験 (東直子著)
発行:株式会社 河出書房新社
ISBN: 978-4-309-02325-0
                                                     (敬称略。引用文は書籍掲載順とは異なります)


ここまでお読みいただきありがとうございます。
皆様が素敵な本や言葉に出会えますように。
良い時間をお過ごしくださいませ。

Izumi

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