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ドミニカ移住 #9:交通事情、アラニスと初対面の日。

このnoteは、当時 文化人類学や地域研究を学ぶ大学3年生(21歳)だった私が、小さいころからの夢だった海外でのフィールドワークを行うため、野球が盛んなドミニカ共和国(以下、ドミニカ)に移住した合計約10か月の記憶を綴ったものです。

OMSAで待ち合せ場所へ

___________2018.6.1
 この日は、トニーさんが私と同世代のアラニスという女の子を紹介してくれる日。アラニスは、私より一つ年下で、現地の女子大生でありながら日本語学校にも通っているらしい。日本人が英語やスペイン語を学ぶのはその言語の話者数や使用機会の多さから大いに納得できるのだが、スペイン語を母国語にする人がたった一国でしか使用することのできない日本語という外国語を学習するというのは、いったいどんな心持ちなのだろう。


14時の待ち合わせに間に合うよう、13時ごろには大通り沿いにある最寄りの停留所に向かった。しかし、待てど暮らせど待ち合わせ場所のショッピングモール方面に行くOMSAが来ない。

OMSAは、首都サント・ドミンゴ内を走る公共の路線バス。運賃は一回15ペソ(約30円)と日本人の感覚であればかなり安い。同じく市民の足であるグアグア(Guagua:乗り合いバス)は一回25ペソのため、この辺ではOMSAが最も安い交通手段と言っていいだろう。私設であるグアグアはもちろんのこと、公共バスであるOMSAにも時刻表はなく本数も多くないため、乗りたいときにはとりあえず停留所で待つしかない。

私は、しばらくしてもOMSAが来ないことに焦り始めていた(アラニスとの待ち合せに遅れてしまう)。その後、30分経っても目的の方向へ行くOMSAが来る気配がせず、当初「まぁ、いつものことだよ」と慣れた様子をみせていたトニーさんも、流石にしびれをきらしてきた。

1時間ほど待っただろうか、やっとのことで大通りの彼方向こうにOMSAの象徴である緑の車体が見えた。結局待ち合わせ場所のショッピングモールに着いたのは14:30過ぎ。本来片道20分ほどの乗車時間にもかかわらず、ペンションを出てからすでに1時間半以上が過ぎていた。

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この黄緑の車体が見えたときの嬉しさったら半端ない


初対面

 トニーさんは待っていたアラニスと私を引き合わせると、お互いを紹介してじゃあねと去っていった。アラニスに遅れたことを詫びると、彼女はとても明るいトーンで「いいのいいの!これがドミニカンタイムだから!気にしないで」と笑い飛ばしてくれた。思った以上にフレンドリーな彼女の雰囲気に、私の緊張はすぐに解けた。

ノープランで二人っきりになった私たちだが、ショッピングモールの中は20歳を超える私たちにとって大きな見どころは特になく、とりあえず最上階の飲食店ゾーンでアイスを買ってイートインスペースに腰を下ろした。

日本語学校に通うアラニスは、簡単な文章や単語であれば理解できるようだ。ただ私のスペイン語と同様、まだまだ自由に操れる状態ではなく、私たちの意思疎通は英語と拙いスペイン語、そして拙い日本語で行われた。どれもピースの抜け落ちたパズルのように未完成な語学レベルであるにもかかわらず、私たちの会話はどんどん盛り上がる。お互いの家族のことやアラニスが日本語を勉強する理由、ドミニカの学校事情や彼女が好きな日本ドラマのことまでー。気づけば、アラニスが購入した盛り盛りのアイスは食べられるのを忘れ、半分以上が液状になっていた。

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アラニスは私のスペイン語教師、
私はアラニスの日本語教師でもあった


そこで2時間は話していただろうか、もう夕方になりかけているのに気づき、イートインスペースを離れた。モール1階にあるメイソウという雑貨店(表記は「MINISO」。ロゴや店内の雰囲気はユニクロ風、取り揃える雑貨やお値段はダイソー風で、ジャパニーズスタイルを売りにしているが明らかに日本企業ではない感じの店)に入った。

アラニスは私を見て嬉しそうに「ほら、ここ日本のお店だよ!」と言ってくるが、どう見ても嘘くさい。そうは言いながらも、唯一綺麗めな品揃えに惹かれ、二人で店内を回っていると、ひとりのドミニカ人女性客が私に話しかけてきた。「これっておいくら?」—。私がよく聞き取れずにポカンとしていると横でアラニスが大笑いしている。「あ〜、ごめんなさいね。彼女、店員さんじゃないのよ。笑笑」アラニスが女性客にそういうと、彼女もおかしそうに笑いながらその場を去っていった。どうやら、アジア人顔の私を見て、ここの店員だと勘違いしたらしい。アラニスにそれを伝えられ、ふたりで大笑いしたのを覚えている。

そんな珍事もありながら、初対面だったアラニスとは一気に仲良くなった。これまでドミニカで知り合った人のほとんどが野球関係の人だったため、必然的に男性とばかり接してきたが、同世代の女の子とざっくばらんに話せたことはとてもいい気分転換になった。言語が完璧に話せなくても、こうしてまるで日本人同士かのようにノリやテンション合うことがあるなんて思いもしなかった。アラニスとはこの日以来、学校や家族のパーティーにも呼んでもらうようになり、一層関係を深めていくことになる。ドミニカ滞在中にできた、大切な存在の1人である。

彼女とは思わぬ出来事が理由で、
またすぐに会うことになる(写真:2018.6.7)






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