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【本日開店】いわし園芸

noteブログシティのかたすみにある、note商店街。このたびこちらに園芸ショップを開店しました。当店では季節の草花を取り揃え、お客様にご提供していきたく存じます。

あと、私、大のおしゃべり好きでして、お店に立ち寄って頂いた際には、少しお話にお付き合い頂ければとても嬉しいです。さきほども開店早々若いご夫婦がいらっしゃいまして、それが、ね、聞いてくださいよ…って、すみません。まずは当店の品揃えをご覧いただくのが先ですね、はい、妻からよく怒られるんですよ、喋る前に仕事しなさいってね。

ちょっと前、多摩川の河川敷に屋台が出ていて、雀の涙を売っているというので、ご夫婦で買いにいかれたんですって。春の嵐っていうんですかね、風がとても強い日だったそうです…

屋台には、東京ヤクルトスワローズの野球帽をかぶったおじさんがいて、小さな青いガラス瓶に入れられた雀の涙は、398円。ひとつ買って、あとは用事もなかったから、もと来た道を、引き返しました。分厚い雲が、風に流されて、あっというまに私たちを追い越していきました。あの雲が東京の空を過ぎ去って、どこかの海の上にいるころには、台所のテーブルに置いた雀の涙を、私は妻とふたりで、何度も眺めているだろう、と思いました。

翌日から、私たちは、朝ごはんのお茶漬けをすすりながら、あるいは夕食のホッケの皮をばりばりとかじりながら、卓上の雀の涙を何度となく眺めたんです。ときおりは、瓶を手にとって、青いガラスに隔てられた液体を、ぐりぐりと揺らしたりもしました。いい買い物をしたね、と、私たちは真顔でうなずきあったんです。

一週間くらいしたころかな。その日も食卓には味噌汁の湯気がうっすらと立ちのぼっていました。私たち夫婦は、朝ごはんを食べるときには必ずテレビのニュースを観ているんです、毎日おなじチャンネルの。昨日まで黒縁眼鏡だったニュースキャスターが、黄色いフレームの眼鏡をかけていたから、あれって思ったんですよね。似合ってないな、と。でもそんなことは本人の勝手でしょう? 彼はいつものように淀みなく原稿を読みはじめました。

「多摩川で、”雀の涙”と偽って、”雀のよだれ”を売りさばいていた男がいました。いまだに逮捕されていません。なお、雀のよだれは、放っておくと非常に強い刺激臭を発するようになりますので、お持ち方はすみやかに処分してください。水道に流してはいけません。水道管が腐ります」

私と妻は、顔を見合わせ、そののち、どちらともなく、卓上の小瓶に目をやりました。ガラスの瓶は、昨日までと、何も変わらない深い青をたたえていたんです。でもそれは、雀の涙ではなく、よだれだった。

私たちは、瓶を庭に持ち出して、ふたりしてしゃがみこみ、蓋をはずしました。そしてゆっくりと瓶をかたむけたのです。きらきらと光りながら、土のうえに透きとおった液体が流れ落ちました。ほんとうにこれが雀のよだれなんだろうか、こんなにきれいなのに…と訝しんだのですが、すぐに分かりました。だしぬけに妻が言ったんです。

「ちょっと臭くなりはじめてる…」

私たちは、雀のよだれの上からスコップで土をかけました。はじめは、庭に少しツンとした匂いがたちこめていたけど、半日もすればすっかり消えてしまいました。私たちは、あの、野球帽のおじさんのこと、怒ってはいないですよ。むしろありがとう、って言いたいくらい。

なぜって? 雀のよだれは、とても栄養があるものみたいで、ご夫婦がおっしゃるには、その数日後に、庭にタンポポが、たくさん咲いたらしいんですよ。あ、話、長かったですか? お引き止めしてすいませんね。なにぶん好きなもんで。お客さんも何か事件があったら是非教えて下さいね、はい、では。


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