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「それは、あなたが素敵な人だからだよ。」

 この前、久しぶりに家で泣き崩れた。悲しいからじゃない。嬉しさが堪えられなかったから。

 二年弱ほど勤めたアルバイトを退職した。職場からも、後輩からも、先輩からもプレゼントをもらった。いろんな言葉を掛けてもらった。

 そのあと、そのバイトで知り合った子とご飯に行った。おいしいご飯をおいしいねといいながら食べてくれるその友だちと出会えたのも、アルバイトがあったからだ。こんなに素敵な人と巡り合わせてくれて、アルバイトに感謝しないといけない。

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自分のためだけに花を摘むとき、自然とその人たちの分も、摘んでいる、ことにあなたは気づいていますか

最果タヒ『さっきまでは薔薇だったぼく』から「me and you」より

 なんで私の周りにはこんな素敵な人ばっかりなんだろう。

 そんなことを、よく考えてしまう。それはその日もそうだったし、違う日もそうだった。私はこんなにも未熟で幼いのに、面白味もないのに、どうしてみんな私と話してくれるんだろう、と。

 大学生になり、高校生の時のような付き合いとはまたひと味違った付き合いをしている。同じグループの子とずっと遊ぶ、というわけではなく、いろんな場所に尊敬できる人がいて、週に一回会うときもあれば、半年に一回会う人もいる。そんな風な人間関係が、今の私にはなにより愛おしい。

 「どうして私の周りにはこんなに素敵な人ばっか集まるんだろう。私、全然なのにね」とよく母に愚痴をこぼす。その度に母はこう言うのだ。「それはあなたが素敵な人だからだよ」と。

 あなたが素敵な人だから、周りに素敵な人が集まるんだよと。そのことを信じてはいないけど、そう考えた方がメンタルが強くなるよと母は笑った。

 きっとそんなことはないのだと思う。けれど、素敵な人がそばにいるのだから、その人にとって素敵な人でいたいとは思う。穏やかで、朗らかで、親しみやすい。そんなふうに思ってもらえたら嬉しいな。

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 「お姉さんが話しやすそうだったから」。この前バイト中にそう言われて、心があたたかくなった。普段一緒にいる人じゃない人にも、そんな親しみやすさが伝わっているのなら本望だ。

 気を遣ったり、忙しくて苦しくなったりするけど、でもそれでも頑張れるのは、そうやって誰かが私を認めてくれるからなのかもしれない。自己肯定感が元から高い訳じゃない。でもそうして誰かが認めてくれた私を、今度は私が認めてあげたい。

 この考え方がある意味残酷であることは承知しながらも、私はこの教えを大切にしていくんだと思う。たまたまいいことが書いてあったおみくじを、根拠のないお守りにするようにして。



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