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『それでもボクはやってない』、と本当の痴漢との戦いの記録


だいぶ前に、

『それでもボクはやってない』

という、加瀬亮くん主演の痴漢冤罪を描いた映画を観た。

『Shall we ダンス?』で有名な、

周防正行監督の作品である。


痴漢冤罪で捕まった人が、

いかに大変な思いをして無罪を勝ち取るか、

それがいかに困難であるかをひたすら描かれるので、

観た人は十中八九、

「痴漢冤罪、こわ〜〜〜〜!!!!!」

という感想を持つだろうし、

事実映画の作りも実際そのように作られている。


私はその映画を観た当時は痴漢に遭ったことなどなかったし、

札幌レベルの田舎には痴漢などは存在しないか、

もしくは自分が痴漢に痴漢されるに値しない人間だと思っていたので

(私は今でも自分がちびまる子ちゃんの野口さんだと認識している)

この映画が社会的な映画だとは認識していても、

自分とは無関係の、完全に他人事として観ていた映画だった。


しかし数年後、

私は突如、毎日痴漢に遭遇する毎日を送るようになる。


転職して通勤経路が変わり、

札幌で一番混雑する時間に、混雑する車両に乗るようになったのだ。


そこで事件は起こった。


尻を、何かが触れてくるのだ。


最初は、カバンか何かが触れているのかと思った。

しかし、そうではない。


これは・・・

人間の・・・・・・

手だ!!!!!!!!!!!!!!!!!


そう確信した頃には電車は停まり、

みんな溢れ出るように電車から流れ出て行った。


そう、私がその混雑した電車に乗っている実質乗車時間は、

1分。

1分間のみだったのである。


1分しか時間がないと、

「尻に当たるこれは、果たしてこれは痴漢か?痴漢じゃないのか??」

とジャッジメントしている間に、

次の駅に到着してしまうのだ。


それから私は毎日、

尻をまさぐられたりちょこちょこ触れられたり、

ツンツンされたりなど、

様々なバリエーションで痴漢をされる毎日を送るようになった。


多分これは痴漢だな、と思って振り返る。

絶対こいつだ、という奴が必ずいる。

そいつらの中には、

「俺の人生で失うもの、何もないです」

というヤツもいれば、

「めちゃくちゃ会社で何かの役員とかに就いてそうじゃん・・・・・・」

という、痴漢で失うものはでかすぎそうなヤツもいた。


だが私は、

「それでもボクはやってない」

を観てしまったので、

観てしまったがゆえに、

そいつが犯人だろうと思っても駅員に突き出すことも、

「痴漢です!!!!!!!!!」

と叫ぶことも出来なかった。

絶対こいつが犯人だけど、

確実にこいつが痴漢をしているけど、

0.0000001%でも冤罪の可能性がある限り、

多分犯人であろうヤツの人生を、

私には背負うことは出来ないと思ったのだ。


今だったらもし金持ちそうなヤツに痴漢されれば、

確実な証拠をとった上で弁護士を通じてめちゃくちゃ金を取ってやろうと思うが、

当時はピュアなOLであった。


「もしこれが痴漢冤罪だったらどうしよう」

しか、痴漢されている間には考えられなかったのである。


だがしかし、ただただ痴漢をされ続けるというのもメンタルに限界があった。

私は何かしらの反撃に出てみることにした。



〜イツキの対痴漢用反撃作戦〜

1、無表情作戦

まずは痴漢をしてくる男性は大抵痴漢をしている女性の反応を窺って楽しんでいるものだと思っていたので(ただ触るだけの何が楽しいのかわからなかったので)、

敢えて痴漢だと気付いても無表情で態度も崩さない、というのを貫き通す、

という作戦に出てみた。

しかしこれは残念ながらうまく行かず、

痴漢の手が更にヒートアップするだけだった。

むしろ、痴漢的にはひたすらラッキーであったかもしれない。

無表情作戦は大失敗に終わった。


2、睨み付け作戦

通常痴漢は女性に痴漢だとバレたあと反撃に出られることを恐れていると思っていたため、

相手を睨みつけ、

「私はお前が犯人だと分かっているぞ」

とアピってみることにした。

睨み付ければ痴漢はこちらが強気な女性だと認識し、

訴えられる可能性を恐れて痴漢をやめてくれるかもしれないと考えたのだ。


しかし睨み付けるだけでは相手は一向に手を緩めてくれず、

むしろ痴漢をする手に何の変化も現れなかった。


くそやろうが。


こんなにも全力で睨みつけているのになぜやめない。

痴漢とはどんだけメンタルが鋼なんだ。

痴漢だと訴えられるのが怖くないのか・・・?


と考えた私はそこでうっかり思い当たってしまった。

「睨まれるのがご褒美の痴漢の場合もある・・・・・・!」

と。

痴漢をする男性が、痴漢をしている女性に睨まれるのも大好き

という性癖の持ち主である可能性も否定出来ない。

睨み付けることで「訴えるぞ」と脅したかったのだが、

残念ながら睨み付け作戦も不発に終わった。


3、ヒールで全力で犯人の足を踏む作戦

痴漢には無反応もダメ、睨み付けるのもダメ。

こうなったら私にはもう、

ハムラビ法典方式しか残されていない。

目には目を。

歯には歯を。

痴漢には、ハイヒールのヒールで痴漢の足をぶっ刺す作戦を。


ということで、

私は痴漢に遭遇すると、犯人を確認してから、

痴漢の足の先に全体重をかけてヒールで踏みつける

という攻撃に出てみることにした。

足の先を狙っていたのは、

「足の指折れろ」

と思っていたからである。


万が一、痴漢ではない男性が、

知らない女性に足を全力でヒールで踏まれたら、

「ちょっと踏んでますよ!」

とか、

「痛いですやめてください!」

などと言ってくるであろう。


しかし全力で踏まれてもやめない、ということは、

「それでもボクはやってます」

と痴漢が力強く自供しているも同義である。


それでも私は相手を訴えも駅員や警察に突き出しもしなかった。


0.000001%の冤罪に怯え、

相手の人生を狂わせることに恐れるくらいなら、

私はヒールで痴漢の足の骨を折れれば充分だったからである。



しかしそれでもメンタルが鋼鉄で出来ているか、

性欲で脳がバグりすぎている変態である痴漢は、

私への痴漢行為をやめなかった。

何度も後ろを振り返って確認した痴漢は一人ではなく何人もいたので、

みんな力強く足を踏まれてもなお痴漢をしたい、

たとえ足の指くらいならば、骨折しようとも絶対に痴漢をしたい

というガッツの持ち主なのかもしれないと思った。


もう、痴漢がそこまで痴漢行為へのガッツがあるのなら勝てない、と思った。


しかし私はまたふと思い当たった。


「足を踏まれることがご褒美の場合もある・・・!!!!!!!!!!」

ということに。

痴漢をする性癖の人間が、

痴漢している女性に足を踏まれることも好きである変態の可能性は否定できない。


痴漢への反撃は、全て痴漢という変態の前ではご褒美になり得る可能性があるのだ。


私はこの時、痴漢への反撃への難しさを思い知った。


変態の前に、人は無力である。


それからも私は毎日のように痴漢され続ける日々を送った。


毎日ほぼノーリアクションで一旦相手を睨み付け、

ヒールで足を踏み続けた。


その会社を辞めるまで、そんな日々は続いた。

その間、何人の足の指を折れたかは分からない。

何人をうっかり喜ばせてしまったのかも分からない。


「それでもボクはやってない」

を観てしまったがゆえに、

痴漢冤罪の恐ろしさから私は痴漢も痴漢被害も訴えることが出来なかった。

痴漢に毎日のようにただご褒美を与え続けるだけだったかもしれない。

でも当時の私が痴漢冤罪に怯えて暮らすくらいならそれでよかったと今でも思っている。

周防監督の本意ではないかもしれないが。


本当に犯人を許せない、捕まえたい、

と思う人には、

全力で痴漢の足を踏み、

何も言われないことで犯人であることを確認し、

証拠を掴んだ上で、

「痴漢です!!」

と叫んで目撃者も用意し犯人を捕まえることをおすすめする。


そうしなければどんな反撃も、変態にご褒美をあげる以外の何物にもならない可能性が高いからである。


ちなみに当時よりハートが強くなった今の私なら、

先ほども述べたように確実に痴漢を捕まえて金にする。


残念ながら、そう決めてから私は一度も痴漢に遭っていない。



く そ や ろ う が 。














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