時給1500円の破壊力
いきなりだけど、次の画像は厚生労働省が出している令和4年度〜6年度の地域別最低賃金改定状況。直近3年間の全国の最低賃金になる。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html
今年の改定前、すでに最低賃金が1000円を超えていたのは、東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知、大阪、京都、兵庫。
ここに10月から北海道、茨城、栃木、岐阜、静岡、三重、滋賀、広島が加わり、16都道府県になった。
あんなに広いのに「北海道」一括りなんだ、とか福岡が未だに992円なの!?
と意外な気もしたけれど、それはさておき。
今年、全国平均で51円という過去最高の引き上げになったけれど、来年も今年と同様の引き上げになりそうな気がする(その可能性が高いと思う)。
その場合、いよいよ47都道府県すべての最低賃金が1000円を超えることになる。
事業主には頭の痛い問題だとは思うけれど、中小零細企業の経営者にとって本当の脅威は、こちらなんじゃないかな。
コストコ 時給 1500円
最低賃金が896円(平均時給は965円 )だった沖縄や、935円(平均時給は984円)だった群馬で、”全国一律 時給 1500円スタート” のコストコが求人を出せば、そりゃあ応募が殺到するだろう。
同じようなケースに、熊本に進出した台湾の半導体メーカーTSMCがある。
真偽のほどは定かじゃないけれど、「TSMC熊本工場の食堂のパートさんの時給が3000円」なんて話題もあった。
現在、TSMCの求人を見るとパート・アルバイトが ”日給 15000円” とあるから時給換算すると1875円。改定後の熊本の最低賃金が952円だから倍近い額になる。
先述のガンダム・ネタで例えれば、国の定めた最低賃金がザクのアナログなマシンガンなら、コストコやTSMCの条件は、ガンダムのビーム・ライフルというほど破壊力に差がある。いや、もう最低賃金なんて、建前や目安でしかないように思えてくる。
もちろん「やりがい、働きがいはお金だけでは計れない」ということはあるけれど、昨今の物価高などを鑑みてもこの条件なら応募が殺到するのも頷ける。
それどころか、こういった現実を目の当たりにすると「本当に人材不足なのか?単に賃金が低すぎるから集まらないだけなのでは」とさえ思えてくる。
一方で、こんな状況になると「地方の賃金破壊」「地域を乱す」「そんな高い時給を払えるはずがない」といった切実な声も挙がってくる。
けれど率直に述べると、それらを言ったところでこういった潮流が変わるとは思えない。
賃金の話に限らず、このような局面においてハレーションを引き起こすことは昔からあった。
例えば、ジオン・・・いや、イオンやイオンモールといった大型ショッピングセンターが席巻をはじめた頃、昔ながらの商店街の人たちからイオンは敵と見做され、「商店街を破壊する」と忌み嫌われた。しかし月日が経ってみれば結果的に多くの商店街は衰退し、イオンなど大型ショッピングセンターが繁盛した。
もちろん現在も賑わっている商店街はあるし、懐古主義な商店街好きな人のイオンへの印象は変わらないと思うけれど、現実として圧倒的な利便性から今ではイオンやイオンモールの開業を歓迎する向きの方が遥かに多いと思う。
もっと大昔に遡れば、ぼくが中高生の頃、町にあった貸レコード・CD屋さんは大型のレンタル屋さんの登場とともに消えていった。現在のように配信の時代になれば、そんなレンタル屋さんも生き残るためにあの手この手と事業内容を変遷している。
またカメラの写真がフィルムだった時代、現像・プリントを一手に担っていたのは町のカメラ屋さんだった。その後、現像・プリント専門のチェーン店が現れ、多くのカメラ屋さんは淘汰されたけれど、この現像・プリント専門のチェーン店もまたデジタル時代の波とともに消えていった。
こういった例は枚挙にいとまがないけれど、大型量販店の登場で淘汰されていった町の家電屋さんもそうだし、消えゆく町の書店とAmazonの関係も同じだと思う。
福沢諭吉先生は「現状維持は衰退である」と明治時代から説かれているし、もっと古くから仏教には諸行無常、万物は流転する。という教えもある。
こうして変化や栄枯盛衰を繰り返すのは、経済や経営の世界ではむしろ当然のことで、賃金問題も含め今がそういった時代の過渡期にあるのだろうな、と思う。
つづく