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ラファエル・サバチニの『ボルジアの紋章』(全三話)

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英国の作家ラファエル・サバチニによるチェーザレ・ボルジアを狂言回しにした中篇集『The Banner of the Bull』の独自翻訳
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Epigraph

そして彼の敵ども【註2】を一掃する為に
彼は優しげな口笛を吹き、おびき寄せた
彼のねぐら、このバジリスクの巣に

ニッコロ・マキャヴェッリ『十年史、第一部』より

訳註

【註1】:マキャヴェッリ作の叙事詩『DECENNALI(十年史)』は、1497年から1504年までのイタリア史を三行詩の形式でまとめたもの。1504年に執筆され、フィレンツェ共和国の大政治家アラマンノ・サルヴィアーティに献上され

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Ⅰ. THE URBINIAN ~ウルビーノの魔術師

Ⅰ. THE URBINIAN ~ウルビーノの魔術師




 彼がものした論中の犀利なる一章、君主による部下の選択に関する記述において【註1】――それは私がこれからお話しする主題でもあるが――ニッコロ・マキャヴェッリは、人間の知性には三つの種類があると看破している。第一は自身の才によって自主的に事を理解するもの。第二は少なくとも他者が理解した事を認識し得るもの。第三は自力で理解できぬばかりか他者が論証して見せても理解できぬというものである。最初のも

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Ⅱ. THE PERUGIAN ~ペルージャの逃亡者

Ⅱ. THE PERUGIAN ~ペルージャの逃亡者




 フィレンツェ共和国の書記局長はミーサ川に渡された橋の向こうへと騾馬を追い立て、シニガッリアの町の入り口で手綱を引いて止まると其処から目を凝らした。彼の右手、西の方角では遠く霞むアペニン山脈の稜線へと太陽が沈みゆき、天上から投げかけられた燃えるような輝きが都市から吹き上がる炎と混じり合っていた。

 書記局長はためらった。彼の本来の性質は、学問と思索の徒となった事でもわかるように穏やかで内

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Ⅲ. THE VENETIAN ~ヴェネチアの暗殺者

Ⅲ. THE VENETIAN ~ヴェネチアの暗殺者




 傑出した人物は敵に事欠かないものである。偉人はまず己を下回る才人達、彼の成功によってその野心を妨げ、あるいは凌駕し日陰に追いやる者達を警戒しなければならない。そして彼は更に、人類の愚劣なる寄生虫、自らが属する種に何ら利益をもたらさず、何の生産性もない、自分自身の為に構想する知性も自分より優れた人物の考えを実行する能力や才能にも欠けた者達に対しても注意を払わねばならない。その者達は自分が無

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