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思い出と本は消えない

 ○月○日

 超短篇である。

「忘れられない誕生日だった」と彼女がいった。「と、あたしがいったらしいのだけれど、すっかり忘れちゃった。あはははっ」

 人生とは、そういうものである。

 〇月〇日

 世間はスターウォーズである。町なかにストームトルーパーがあふれている。それがいやなわけではないけれど、というか、スターウォーズは全作観ているけれど、なんだかなあ、という気は、ちょっとする。

 〇月〇日

 矢野顕子さんや細野晴臣さん、鈴木慶一さんが出演するというので、「おやすみ日本」を観た。矢野さん、細野さんは、早く帰り、鈴木さんは、最後までいたが、結局、歌わなかった。

 5周年記念放送ということだが、ミュージシャンなのだから、うたわせて(演奏させて)ほしいと思った。

 〇月〇日

 この秋、放送していたテレビドラマ、刑事「ゆがみ」である。
 適当のようでいて、優秀な刑事、弓神適当(浅野忠信)と、出世欲があり、腹黒く、でも正義感がある羽生虎夫(神木隆之介)のコンビが事件を解決するドラマ。
 浅野忠信と神木隆之介の演技が絶妙だった。
 終盤、主演の浅野忠信の父親の覚醒剤による逮捕という不祥事があったが、最後まで面白く観ることができたので、ここに書いておくことにする。

 〇月〇日

「ちくわ、置いてない?」
 駅構内にある、成城石井(高級マーケット)で、老人が尋ねていた。
「置いてないです」
 若い女の店員さんは即答した。
「ちくわを置いていない店なんて、初めてだよ!」
 老人はぶつぶついいながら、立ち去った。

 おじいさん、立ち寄る店を間違えているよ、と私は思った。

 ○月○日

 やや古い本だが(2013年)、よしながふみさんの「あのひととここだけのおしゃべり」(白泉社)を紹介。
 「大奥」、「西洋骨董洋菓子店」、「フラワーズ・オブ・ライフ」、「きのう何食べた?」、よしながふみさんの本には、とにかく失望したことがない。傑作ぞろいである。
 「あのひととここだけのおしゃべり」は、対談集。
 鋭く、鮮やかに切り取って見せるその分析力。
 あふれる漫画愛。
 漫画という新しい角度からきた、論客である。

 ○月○日

 12月16日、渋谷、青山通り、宮益坂を上がったところにある古本屋、巽堂書店が閉店した。私は、いい客ではなかったが、昭和9年創業、83年の歴史に幕、には感慨を覚える。
 83年! 途方もなく長い年月である。閉店の16日には、用事があり、行けなかったが、そのかわり、数日前に足を運び、文庫と単行本を買った。
 100円と200円だった。安い本ばかりで、申し訳ない。店主は、来店して購入していくお客には、おまけしているようだった。お疲れ様でした。

 〇月〇日

 池袋の古本屋、八勝堂が閉店する。
 八勝堂書店の八木勝さんが10月30日に亡くなり、来年2月で閉店することになった。昭和36年4月開店、56年の歴史に終止符、ということである。
 西池袋、乱歩通りにあるこの店は、店の前を通るたびにブックトラックやワゴンのなかをのぞき、100円均一の文庫本や単行本をずいぶん買った。それらの本は、私の蔵書になっている。

 思い出と本は消えない。

 閉店は、来年の2月までと、張り紙が出ている。

 閉店するその日まで、本を買いにいくつもりである。



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