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HRBPって何するの?

人事にはHRBPと呼ばれるポジションがあります。正式にはHR Business Partner。21世紀に入ってから外資系を中心にそのポジションを導入する企業が増え、最近では日本企業の中でも聞かれるようになってきました。

非常に平たい言葉で言ってしまうと「部門担当人事」なのですけれど、このような洒落た言い方をしているのは理由もあります。そしてBusiness Partnerという呼称は、人事以外でも財務部門やIT部門でも使われて始めています。
例えば、財務部門であれば、利益が落ちていることを指摘し原因を究明して社長に報告するのではなく、事業部門の利益が落ちてゆきそうな兆候を捉え、その影響が出る前にてを打つアドバイスを事業部門に提示するために部門と一緒に働く感じです。
このように、機能別組織の都合で会社の施策を遂行するのではなく、事業組織の役に立てるような機能別組織であろうという流れがBusiness Parterを作り出しています。

私自身は前職を含めてHRBPは10年以上経験し、現在も肩書きはHRBPです。
担当し始めた頃はよく役割がわかっていなかった部分が多かったですが、親会社の優秀なHRBPが何をしているのかを見たり聞いたり一緒に仕事をしたり、それを日本でどのように当てはめるべきかを試行錯誤してゆく中で、ようやくHRBPとは何をするのか、何をしているとHRBPらしいのか説明できるようになったかなと思っています。

HRBPの役割は企業は組織によって異なっていて良いもので、唯一解というのはないのだろうと思います。よって、役割のいくつかの側面について整理をしてみます。

HR(人事)における役割定義

人事部門、英語ではHR(Human Resources)には複数の役割があります。
外資ではそれを大きく三つのカテゴリに分けて考えています。

一つ目が、オペレーション。これは人事の手続面です。
採用、異動、退職に伴う、さまざまな社内外とのやりとりを書類やワークフローで行なっています。人事における事務屋さん、という感じでしょうか。
この部分は、社員向けのコールセンターとポータルページに置き換えが進んでいる分野でやがてはAIが処理することになるのではないかと思います。

二つ目は、人事企画部門。これは人事の仕組みを設計する機能です。
給与を含む報酬制度を設計したり、他企業と比べて魅力的な福利厚生を用意したりするのがC&B(Compensation & Benefitの頭文字を取っています)と呼ばれ、採用基準・プロセスや人事評価、人材育成プログラム、後継者計画などの仕組みを作っているのがTalent Managementと呼ばれています。
企画部門は人事における高い専門性が求められるので、CoE(Center of Expertise)と呼ばれることもあります。

そして、三つ目が今回お話しするHRパートナー機能です。
このパートナー機能はいくつかの役割があって、企業によってどの役割までをHRパートナーが行うかは違っているかもしれません。
順に見てゆきましょう。

担当人事という役割

HRパートナーとしての最も基本的な機能であり、わかりやすいのは「部門担当人事」という役割でしょう。
これは言ってみれば「人事のよろず相談窓口」という感じです。

ビジネスの現場にいる人たちは必ずしも人事関係の知識に明るいわけではありません。例えば給与に関することや人事考課に関することなどは詳しく理解していなかったり、規程などは読めるけれど意味がわからなかったり、あるいは具体的な案件が発生したときに自分の考えをまとめるための相談相手が必要だったりします。
そのような時に「窓口」として機能をするというわけです。

窓口なので、その場で全て対応して回答する場合もありますし、自分があまり詳しくないことであれば回答できる部門につなぐということをやります。
その場で回答するか誰かに繋ぐかというのは、企業がどのような機能をHRパートナーに持たせているのかというところとHRパートナー自身の経験や能力によってきまってきます。

例えば、部門の人事手続きを部門の人に代わって引き受けているケースもあります。これは「人事のことは人事担当がやる」としているような企業です。一方で外資のほとんどにおいては「人事はマネジャーが行うものである」という考え方に立っており、HRのパートナーはその際にアドバイスを行うというスタンスになっています。
そして、このような手続きは前述のコールセンター的なオペレーションに引き継いで終わりとしているような企業もあるでしょう。

このような相談窓口が最も多く受ける問い合わせの一つが、問題社員、問題上司への対応かもしれません。いわゆるLow Performerであったり、パワハラ上司についてその対処方法について人事に相談するような場面ですね。
困った社員は人事に頼めばなんとかしてくれる、的になるのは非常に危険ではありますが、まずは双方の言い分をよく聞いて、組織として、場合によっては会社として取ることができる策を相談しにきた相手に授けて返すことになります。

こういうのが多いので、職場に人事がやってくると「何か良からぬことが起きている」みたく見られてしまい、「警察的な人事」みたくなってしまうのは残念なことです。
場合によっては法律的な相談になることもあるので、この部分は別の専門家集団に切り出している外資系の大手もあります。

相談窓口のはずが警察みたくなってしまうのは残念なことです

人事施策の営業部隊という役割

HRパートナーには、相談窓口のような受動的な役割だけでなく積極的に部門に対して働きかける役割があります。
それは一言でいうならば、人事サービスの営業部隊のようなものです。

人事サービス、それは例えばトレーニングのようなものであったり仕組みであったりするわけですけれど、デザインして企画するのは前述のCoE、人事専門家集団です。
しかしCoEは現場を知ってるわけではなく、世の中一般の流れ(例えば法律の改正)や競合他社との競争優位を保つために人事の仕組みを変えたりサービスを新たに作り出しています。その上で、作る仕組みやサービスが現場にとって価値や意味があるものになるようにするための情報が必要です。それを集めてくるのがHRパートナーです。

事業部門に重ね合わせるとCoEは商品開発を行う感じで、HRパートナーは営業なので顧客たる部門側のニーズをよく理解し必要に応じて情報をCoEに共有しています。
そして、CoEとHRパートナーが議論を重ねながら現場に受け入れられるようなサービスに最適化をしてゆきます。

一旦サービスが出来上がったら、それを部門に対して詳細に説明し、適切な運用方法についてのアドバイスもします。営業で言うならば売り切りではなくアフターサービスみたいな感じになるでしょうか。
サービスを使うユーザーが使いこなせるようにサポートをするのです。

一般的な営業と違うのは、会社としての施策となっているのでサービスを使わないと言う選択肢はあまりないと言うところになります。ゆえに押し付けてしまうこともできるのですけれど、そこは「余計な仕事を増やしてる」と取られないように「顧客にとってのベネフィット」を強調し、それが出るように使いこなせるサポートをすることになります。

人事サービスを使いこなせるようにサポートするのもHRパートナーの役割です

戦略パートナーという役割

そして、ビジネスのパートナーとなるような役割ももちろん存在し、それをやるのがHRBP、人事ビジネスパートナーの真の役割と言われています。
事業や部門の方針・戦略を理解し、その戦略の遂行を可能にする人と組織を設計し駆動させるための施策を、リーダーと一緒に考えながらデザインし、その実行時の問題解決などにも介入することで遂行を手助けしてゆくのです。

これは、David Ulrichが提唱するHRの役割を定義したHRモデルでは、Strategic PartnerとChange Agentを掛け合わせたものになります。
Ulrichのモデルは以下のコラムで解説しています。

David Ulrichのモデルについて
HRの役割には「短期(あるいは日々のこと)/中長期の軸」と「人/プロセスの軸」で切り分けられる4つの側面があるというのがDavid Ulrichのいうところです。その4つとは以下のものです。
Administrative Expert(短期・プロセスにフォーカス)
人事のプロセスや手続き面に詳しい専門家であり、「これどうしたらいいの」に瞬時に答えられるような人たちのことを指しています。対応のスパンは短く、人事のプロセスに関することのみになってきます。前述した人事コールセンターの役割がこれのイメージ最も近いかもしれません。
Employee Champion(短期・人にフォーカス)
社員の声を耳を傾けて、社員の立場になって人事ソルーションに意見をあげてくる、あるいは人事ソルーションを実行してゆくような役割です。部門担当人事窓口がやる社員やマネジャーの相談がこれに近いかと思います。また組合のある企業では、この部分は組合がやっていて団体交渉みたくなるかもしれません。
Change Agent(中長期・人にフォーカス)
社員の行動や習慣に働きかけて、それを変革することで組織文化を変えてゆくような役割です。カッコよく言えば仕掛け人、的な感じでしょうか。
本来は人事ではなく組織内のリーダーにそのような人がいるのが望ましいのですけれど、分析やファシリテーション力に秀でた人事がそれをやった方が良いのと、組織を超えて会社全体の文化を作ってゆくような役割も含まれるので人事主導で行われることも多いです。企業によってはOD(組織開発)部門を独立してもっていて、その部門がここを担っている場合もあります。
Strategic Partner(中長期・プロセスにフォーカス)
組織のビジネスを理解し、戦略遂行のために必要であれば業務プロセスにまで立ち入って仕組みづくりをしてゆくような役割です。
目の前の人事的な課題に対してのソルーションではなく、数年先の組織のあるべき姿をデザインし、そこまでの変革の道のりと必要な施策を決めて、実行をトラッキングしてゆきます。部門のリーダーの片腕であり、まさにパートナーです。

https://www.testcandidates.com/magazine/the-david-ulrich-hr-model/

HRBPのフォーカスは、目の前で起きていることではなく、少し先の組織の在り方になってきます。その在り方に近づいてゆくために仕組みを作ったり、人に働きかけたりを積極的に行ってゆくことになるのです。
この役割になるともう、御用聞き営業的ではありません。リーダーのコーチとして対等に話し合うことになってゆきます。

最もHRBPらしい仕事、となると具体例としては事業計画策定時のおける、組織デザインと人員計画作りがあるでしょう。
部門が中期計画を作るときに、数年後にどのような組織の構造になっているのか、何人の人がいるのか、その人たちはどんな能力をもっていないと目指している部門の方針やゴールを実現できないのか、をリーダーと話し合いながら作ってゆくのです。

財務部門のビジネスパートナーが予算についてリーダーを話し合い、収益性の分析などをするのと同じように、それを人と組織について行うイメージです。
実は人が最もコストがかかりますし、簡単に減らせない分どのように活かしてゆくかが肝心になりますので、HRBPが人員計画を作る時には財務部門と共同で策定する場合もあります。
人員を増やそうにもそれが利益を圧縮してしまってはいけませんので、増やせられる人員が決まってからどのように既存のメンバーを能力開発するのかを決める場合もありますし、必要な組織デザインからそれで組織を回せるだけの売り上げはいくらになるのかを財務が計算するというやりとりも行われます。

こんな役割ですので、HRBPは人事の手続的な知識よりもビジネスそのものを理解しているかどうかの方が大切になってきます。また、コーチングやファシリテーションといったコミュニケーションスキルとロジカルに物事を組み立てることができる思考力も重要です。

HRBPには論理的思考力と高いコミュニケーションスキルが必須です

いかがでしたでしょうか。
HRBPが何をしているのか、を私が捉えている3つの役割で説明させていただきましたけれど、実にいろいろな側面があるということを知っていただけたのではないかと思います。
手続き面の人事しか知らないと「『パートナー』って言っても何すりゃいいの」ってなりますし、戦略パートナーとして部門に行っても門前払いされてしまうのがオチです。

私は人事だけのキャリアだけでなく、営業からスタートしてマーケティング(商品企画含め)、経営企画(中期計画策定)をやっていたので、HRBPの役割はすんなりと入ってきましたし、リーダーともほぼ対等(歳のせいもありますけれど)にやり取りができることはできますが、それでも相談窓口的なところに落ち着いてしまうことの方が多いなとこれを書いていて思います。

外資でHRBPをしてると本社でワールドワイドのHRBPをやってる人とやり取りしますが、彼ら彼女たちは半端ないですね。
事業部長や部門長以上にビジネスを理解していますし、そこまで語れるのかと思うほどビジネス活動時の課題や解決策を語ってきます。組織編成やリストラなども事業計画が出来上がる前の時点で提案しますし、部門内のオペレーションをどのように回すともっと収益性が上がるかなどを分析して提示したりもします。
外部の人事コンサルのはるか上の能力を持っていますし、そればかりか事業戦略までも口出ししてくるので普通に社内コンサルになっています。
見ていると、この人すぐに事業部長できるなって感じられます。そのぐらいの能力とアグレッシブさがあるので、彼ら彼女たちとのやりとりは本当に良い勉強になります。

日本以外の国でHRBPがかなり戦略的パートナーをしているのは、これまで10年以上やってきて見えていましたが、日本でそれをやろうとすると難しい理由の一つがリーダーやマネジャーの人事関連のリテラシーが低いところにあります。
問題社員への適切な対応や日々の人事手続きを人事に頼らずに自分たちでできるようになっていないHRBPは戦略的なサポートに注力ができません。
だからこそ、HRBPはリーダーやマネジャーをコーチングできることが非常に重要になってきます。安易にやり方を教えたり代わりにやるのではなく、人事マターをマネジャーが自分で考えて解決することを側面からサポートするのです。
当然ですが、自分がやった方が早いので分かってもらえるまでできるようになるまでは辛抱が必要になってくるわけですが。

ハードルは高いですけれど、HRBPは非常に面白くてやりがいがある仕事です。
人事をやっているのであれば、否、人事をやっていなくてもビジネスパーソンであれば、目指してみる価値はあるのではないでしょうか。
人の側面からビジネスをどう動かしてゆくのか、ハードとソフト、短期施策と中長期戦略をどう組みあわせデザインするか。変化する世の中の中で正解のないものをリーダーと横で共に探求する…
そんな醍醐味を感じられるのがHRBPの仕事です。

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