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美味しさの着地点の前に

料理をひたすら作り続けば、そのうち答えに辿り着く。

現時点でこの文言を読むと自分なりには納得しますが、専門学校を卒業したての頃は社会人になりたてということで、もう精一杯だったので料理を作っているという感覚はほとんどなく、というよりは毎日労働しているという繰り返しの日々でそこにはおいしいという概念すらなかったように思います。

もちろん料理人が全員そうというわけではなく、未来に目標が明確にある人は毎日の仕事を積み重ね前に進んでいきます。でもここが人生面白くて僕は料理人になることだけが夢だったので入社式が終わった途端に夢が叶ってしまって、そして終わってしまいました。。。

まるで一つの人生が終わったかのように脱力してしまったのです。

大事なのはこれからなのに。。

その日から10年ほどは夢がないまま働くことになってしまい、自分軸がほぼないのでもう大変ですよね。自分の答えがないまま仕事をしていたので自信が生まれる訳がないですから何事も消極的でしたし、仕事に対して意見も出てきませんでした。

目の前のことが全てなので明日なんか想像できないのです。明日の料理の段取りなんてもうわかりませんみたいな感じで毎日が本当にアップアップしていました。

毎日が行き当たりばったりで、右向いても左向いても上向いても怒られていたので、それでしょんぼり下むいてたら何しとんねん!って笑。

当時の僕はひとつ夢が叶ったら次の夢を想像していくことが大事ということを知らなかったのです。ここに気付くまで実に10年以上かかってしまうのですがまあほんと恥ずかしいですね。。でも今思うのはそんな迷える僕を支えて続けてくれた周りの先輩方や仲間には本当に本当に感謝しています。

自分を俯瞰して考えたりすることなど当時の僕にとっては想像すら出来ませんでした。


僕が初めておいしいに出会ったのは味ではなく、おいしそうな光景でした。

炊きたての御飯にかつお節をかけて最後に醤油をちょろっとかける。

そうです。「ねこまんま」です。

自分の人生の中でこれが最も古いおいしそうな記憶でしょうか。

何がすごいって。この料理が何故記憶に残ってるかというとそれは感動したからです。何歳の頃でしょうか。何に感動したかというとそれは味ではなく

「かつお節がユラユラと動いてる!!!!!!!!!!!」

これですこれ。動きです。もうびっくり仰天!信じられない。

人生で初めてのマジックを見たって感じ。料理はマジック。

これを父がまるで自分のマジックのように自慢げに僕に見せてくれたんですね。ほら~動いてるやろ~っ!って。

これが未だに僕の脳裏から離れません。その時の記憶がまさか自分の将来の職業に関係してくるなんて誰が想像したでしょうか。去年出版した自分の書籍にもこのかつお節御飯をメイン級扱いにしましたがそれにはこういう理由がありまして、もうこれに勝る料理はないと今でも考えています。

もちろん個人的な記憶だけでなくて歴史的にみても日本人の米に対する思想は僕がこの場で語る間でもなく神秘化さえされるほどで日本料理の宝とも言えます。かつお節も日本の伝統的な出汁には欠かせない食材として重宝されており日本料理の要であることは確かです。

この二つの食材を一緒にしたかつお節御飯はもう宝の山。

米を日本のおいしい軟水で炊き上げ、最高の時を待って蒸らし終わった瞬間を逃さないように蓋を開ける。そして米粒の一粒一粒にふわっと空気を入れてあげるように、空気と触れ合わせるようにほぐして。

その炊き上がりの湯気という風が吹いている間に好みの茶わんにふわっと盛って上からかつお節をかけ、最後に醤油をちょろっと回しかける。掛け過ぎ厳禁。これ以上の口福がありますかっていう僕なりのおいしさの原点です。

炊き上がりにこだわって、水にこだわったりしながらいつもではなく、たまにこうやって料理をするとめっちゃ楽しいので是非。毎日するとしんどいです。いくらおいしくても日常は淡々と普通がおいしいと思います。たまにやるから感動なんです。

米の最高の蒸らす時間やほぐし方や洗い方など、やはりおいしい目安はありますからそういったプロセスなんかも今後どんどん書き込んでいきたいと思います。

ちょっと寄り道してしまいましたが、このかつお節御飯が僕のおいしさの出発点です。味の記憶ではなく、料理の光景。

かつお節が出発っていかにも職業っぽくて良くできたストーリーだと自分でも笑ってしまいます。

ここから料理の道に決めたって訳ではないのですが、まずはここが原点だと。是非ここまで読んでくださった皆様もおいしさの原点を思い出してみてはいかがでしょうか。

きっと未来に続くおいしさに出会えるきっかけにもなってくると思います。

次回はスポンジケーキのお話しをしようと思います。日本料理なのに。。

よろしくお願いします。




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