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それでも旅は続いていく【第1話】公開日 2022.10.08.

2022年10月。
フィンランドポータルサイト「Moi(moicafe.com)」さんのオンラインコミュニティ「nuotio | takibi」にて、4回に渡ってコラム連載を行いました。
「深堀フィンランド」というコーナーに寄稿したお話をここに公開します。


荻窪で営んでいたお店を閉めて来月で1年。長野市へ移り8ヶ月が過ぎました。みなさん、お元気ですか?私もマコさんも、元気にしています。そして私たちの旅は、その後もずっと続いています。

ご存知の方も多いと思いますが、私たち夫婦は旅が大好きで、今まで様々な国を旅してきました。バックパッカーで世界一周旅行をしたこともあります。そんな私たちですが、もう3年以上、いわゆる「どこかに行く旅」はしていません。

それでもなぜ、私たちの旅は途切れることなく続いているのでしょうか。その答えは、長野市での今の暮らしの中にありそうなのです。

東京暮らしでは生涯叶わないだろうなあと諦めていたことが、私たちにはいくつかあるのですが、そのいくつかが長野市へ移ってから叶ったりしています。そのひとつが保護猫との暮らしです。

私たちは今、古い団地で暮らしているのですが、この物件を決めた理由は、猫と暮らすことを許してくれる物件だったからなのです。東京では諦めていた夢が叶い、この夏に子猫を迎えて3人暮らしがスタートしました。そうやって、何かを決めて、初めてのことにチャレンジする。小さな発見の連続にワクワクする。子猫とのこの暮らしもまた、私たちの旅のひとつなんだと感じています。

古い団地からは美しい山々が見渡せて、車で少し走ればそこはすぐに森になっていて、湖や池があり、白樺がたくさん生えていて、暮らしのすぐそばにフィンランドが存在しています。これもまた、東京では叶わないと諦めていたことのひとつです。

鳥の鳴き声で目が覚めて、おいしいお水とおいしい空気を身体いっぱいに摂取して、ヤッホー!私は元気だよーと露天風呂から大きなお空に叫ぶ(気分はフィンランドサウナです)。いよいよこれからは恐ろしく寒い冬がやって来て、雪がワンサカ降って積もり、ツルツルに凍った道を歩く生活が始まります。

そうなんです。わざわざ意識をしたわけでもないのに、気が付いたらまるでフィンランドにいるような暮らしになっていたのです。この静かでシンプルな暮らしが、私たちをいつも旅の中に居させてくれて、わざわざどこかに行かなくても、旅は続いていると思わせてくれているのだと思います。

自宅から一番近いフィンランド

さて、みなさんと同じくフィンランドが大好きな私たちですが、今まで訪れた国で一番好きな国はどこですか?と、聞かれたら「全部」って答えます。

どんなこともそうだと思うのですが、負の部分を探したらキリがなく、郷に入らば郷に入る。これが私たちの旅のスタイルなので、旅先で起こる様々なハプニングやトラブルは「受け入れて楽しむ」ようにしてきました。そのためか、この国は嫌いとか、あの街には二度と行きたくない、といったネガティブな場所は、私たちの旅の記憶にはひとつもありません。

不便だからこそ面白い。それが旅の醍醐味だとずっと思っているんです。これは人生にも通じるものがあるなあと思ったりします。人間関係や、仕事などで思うようにいかないことはたくさんあるけれど、これもまた旅の一部。そう思うと、なぜか乗り越えられたりするんです。昨年の荻窪のお店の閉店の際にも、そういうことをよく考えました。もちろん痛みも伴いますが、その痛みを受け入れて行くのもまた旅の一部。

都会暮らしと比べると、今の私たちの暮らしには不便なことが多くあり、最初は少し戸惑いました。何しろ35年ぶりの田舎暮らしですしね。歩けばすぐそこにコンビニがあって、どこに行くのも便利で、多くの飲食店やデパ地下で世界中のハイカラな物がいつでも食べられる都会は、つくづく便利な場所だなあって思います。それが悪いとは全く思いません。

ところが私たちはいつの間にか、今の不便さに慣れてしまい「このくらいがちょうどいい」とか「なんとかなるさ」と楽しむようになってしまいました。私たちの旅が、本来の姿に戻って来ているのかもしれませんね。

最後に、旅で一番大切なことって何だと思いますか?

私たちはズバリ、「休憩」だと思っているんです。

実際、今まで実に多くの旅をしてきましたが、どの国のどの街でも、助けられたのは休憩ができる場所=カフェの存在でした。カフェでコーヒーを飲んで休憩をする。心と身体を休める。地元の人たちの会話をぼんやりと聞く。窓からの景色や行き交う人々を眺める。友人に手紙を書く。深呼吸をする。頭を空っぽにする。

長い世界旅行から帰国し、ふたりでカフェを開こうと決めたのは、旅に休憩が必要なように、暮らしにも人生にも休憩が必要なのではないかな?と思ったからです。誰かがホッと休憩できる場所を作りたい。老若男女を問わず、ごく当たり前に休憩できる日常的な居場所を作りたい。この願いからカフェistutは誕生しました。

残念ながらそのお店は閉店してしまいましたが、形を変えてistutが続いているように、今も私たちのその願いは変わっていません。だから、これからも旅を続けていけるのだと思います。

ピューニッキの赤いベンチ

心を休める。身体を休める。頭を休める。過去や未来や今を休む。人生にも旅にも休憩が大切。そこに椅子があれば私たちは座ります。そこにKahvilaがあれば私たちはコーヒーを飲みます。休憩を楽しんで、大きく深呼吸をして、そしてまた、ふたりの旅を続けていきます。

リーヒマキのKahvila

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