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雲を描く|エッセー


 朝起きたとき私は、ベッドの上へと差す光の方向をみた。窓枠の中で流れる雲のかたまりに、光がどんなふうに差しているかを観察した。左から入ってきた光に、右側に重心のある灰色の影が雲へと落とされる。その毛並みは、鳩のお腹みたいにしっとしりている。そのあと流れて、フレームの外へと見えなくなった。はっとして、1日がはじまる。

 その一瞬は私自身、が消える。左から差す光に照らされる雲は天国のようだった。灰色の陰は湿っていて、高級なシルクのように触りたくなるなめらかさを、まとう。風なく留まるおっきい雲はいくつも浮かんでいて、私は無性に描きたくなった。フレームの中で堂々とたたずむ、大きな雲たちを。そのときの私のやりたいことは、描きたい、ただそれだけだった。

 起きたそのまま箱入りの高級色鉛筆をひっぱり出した。使うのがもったいなくて、結局放置していたもの。海に浮かぶ木の板のように、ベッドの上で硬いボードを膝にたてる。ひさしぶりの色鉛筆。紙のすみっこで試し書き。紙の硬さも、芯の乾燥具合も確かめた。かさかさで、しばらく使ってなかったと改めて感じた。最初に手をつけるのは陰で、輪郭ではない。青や紫をやわらかく薄く散らす。陰の広がりには青く黄色い空を広げ、少しピンクを入れて馴染ませる。

 ゆっくりと流れるような日々の中の救いは読むこと、描くこと。目をつむることや、走るのも良い。美味しいものも、おしゃべりも好きだ。書き言葉でのやりとり、悪くない。朝の地球の美しさに感動することや、刺激的な活動家の行動に焦がれて影響を受けることに比べたら特段刺激は少ないけど、だけど最高なんだ。

 なんて、会社に行く前に、思うことではなかったのだけども。
頭に重さを感じ、下を向きたくなるのを堪えて空を見上げると、そこはビルに囲まれた四角い空の下。私は四角いフレームの外で仕事をしていて帰路につく。すでに18時を過ぎていて、暗さのせいで雲はほとんどみえない。

 真っ暗な空は心まで暗くする、星が瞬くまでは。そう、見えないほどに、大いなる迷子ながらも強く、自分と導こう、と思うのだ。シンプルに、美しいものを美しいと思えるなら、描きたい心をそのままにしたい。ただそれだけのために、悲願にも思えること。そのために私は、ほとんど全てを捨ててしまえるらしい。



エッセー:雲を描く
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たくさん書きます。描きます。たくさんの人の心に届きますように