関係性を構築するステップを考える ―「わたしと地域の関係性 #1」イベントレポート
多拠点生活、関係人口、Uターン、Iターン……。ここ数年で、地域との関わり方を表す言葉は増えています。どのように土地と出会うか、その土地でどんな経験をするか、その時の自分がどんな状態か──。さまざまな要因によって、“わたしと地域の関係性”は築かれていきます。
わたしと地域のいい関係とは何だろう? どうやったらいい関係を育むことができるんだろう? そんなことを考える連続企画「わたしと地域の関係性」がスタートしました。
山口ミライ共創ラボの一環で開催される本企画。第1回目は、山口出身の写真作家・フォトグラファーであるうたうみさんをゲストに迎え、わたしと地域の関係性を考えていきました。その一部始終をレポートします。
登壇者
あかしゆかさん(当イベント企画者)
1992年生まれ、京都出身。大学時代に本屋で働いた経験から、文章に関わる仕事がしたいと編集者を目指すように。 現在はウェブ・紙問わず、フリーランスの編集者・ライターとして活動をしている。2020年から東京と岡山の2拠点生活をはじめ、2021年4月、瀬戸内海にて本屋「aru」をオープン。
うたうみさん(ゲスト)
1999年 山口県出身 写真作家・フォトグラファー 全国を転々とする旅を続けるなかで、瀬戸内の穏やかな海に心惹かれ、「自分の好きな自分でいられる場所」と思えたことがきっかけで岡山への移住を決める。 心のぬくもりにそっと触れるように、写真や言葉を扱う。 2022 東京にて、企画展『海を宿す』出展 2023 広島にて、せとうち暮らし写真展『遠い青』開催 2024 岡山にて、対話を通して人の内なる美しさを写真に残す『写真と対話』開催。
なぜ「わたしと地域の関係性」をテーマに?
あかし(敬称略):はじめまして。編集者のあかしゆかです。これから「わたしと地域の関係性」という連続トーク企画をアカデミーハウスで主催させていただくことになりました。
私は2021年から東京と岡山で二拠点生活をしています。それがきっかけで地方でのお仕事も増えていき、「地域とどんな関係性を築けるとよいのだろうか?」ということを自然と考えるようになりました。そこで、山口を中心に、地域とさまざまな関わり方をしているゲストの方をお呼びして、地域との関係性について考えを深めるトークイベントをしていきたいと思ったんです。
初回のゲストは、うたうみさん。山口県出身のフォトグラファーで、全国各地を旅しながら写真を撮る時期を経て、いまは岡山を拠点として活動されています。これまでいろんな地域と関わり、その土地を切り取る視点が素敵だなと思っていたので、一緒に対話ができればと思いました。
私もうたうみさんも、地域と関係性を築くプロではないので、まだいろいろと模索しながら生きている一個人としてお話をしていければと思います。「こういう地域との関係性もあるんだ」と、自分事として考えていただくきっかけになれたら幸いです。
関係性ってなんだろう?
あかし:そもそも、「関係性」って何だろう、というところからお話をはじめてみたいと思います。うたうみさんは、「関係性」と聞くとどのようなことを想像しますか?
うたうみ(敬称略):そうですね……やっぱり「人間関係」でしょうか。
あかし:そうですよね。私は人と人の関係性はもちろんですが、人と服、人と車、人と自然などにも「関係性」が存在するかなと思っています。その服を着ているとテンションが上がるとか、破れた時にその服と付き合い続けるかどうかとか。自然を人間が壊してしまうとか、自然に救われた経験があるから大事にしたいとか。
私たちは日々いろんなものと関係性を築きながら生きている。そう考えた時に関係性とは、「何かと何かがつながり、相互に影響を与え合い続けること」と仮定してみようと思います。
そして、関係性を構築するためのステップもいくつかあるのではと思っています。
何かと出会い、知ったり影響を受けたりして、「ここの人や場所と関わっていくぞ」という意思が生まれる。物・人・場所との関係が深まると、問題が起きることもあるけど、そこでチューニング(対話)して、やっぱり関わっていきたいという意思が再び生まれる。この繰り返しで関係性ができていくのかなと思いました。
うたうみ:「意思が生まれる」というステップが面白いですね。主体的な気持ちが生まれて、関係が深くなるステップは、確かにあるなと思って。
あかし:これが正解だとは思っていないのですが、地域との関係だけでなくパートナーシップなど、いろいろな関係性に当てはまるかなと思いました。
今日はこの6つのステップについて、うたうみさんとお話ししていこうと思います。
ステップ1:出会う
あかし:まずは「出会い」について。うたうみさんは今までに、「よかったな」と思う地域との出会いはありましたか?
うたうみ:全部いい出会いだなとは思うんですけど、印象に残っているのはやっぱり岡山。今、私が住んでいる地域です。
親戚がいるなどの縁があったわけではなく、2022年の夏、全国を旅していた友達がたまたま岡山にいて、「岡山めっちゃいいよ」と電話をかけてくれたのが始まりです。私はその時東京にいたのですが、「ちょっと行ってみようかな」と思って行ったら、想像以上にいい場所で。
まず、宿との出会いがよかったです。DENIM HOSTEL float(以下、float)という瀬戸内海を一望できるような宿があるのですが、お部屋で瀬戸内海を見渡した瞬間に「あぁ、出会ってしまったな」って。この土地が持つ空気感というか、のびのびした時間の流れを全身で感じました。
あとは宿のオーナーさんやスタッフさんとの出会いもよかったです。岡山のことを何も知らずに、友人からの電話1本で来た私に、美味しいお店や瀬戸内の島のことを教えてくれて。人との出会いは、やっぱり「地域とのいい出会い」に欠かせないなと思います。1泊のつもりが、4泊していました(笑)。
あかし:私も印象的な地域との出会いは、やっぱり岡山ですね。私が岡山に出会ったのは6~7年前。最初に訪れた時も素敵だなとは思ったけど、実はそこまで衝撃的な出会いではなかったんです。でも、数年後に再び訪れた時、まったく違う感覚になりました。
その時はコロナ禍で、私はそれまで勤めていた会社を辞めてフリーランスになったばかりのタイミングでした。プライベートでも離婚をした時期で、世の中も、私自身も、この先どうなるか分からなかった。そんな時にあらためてゆっくり岡山を訪れたら「この土地と私は強く結びつきたい」という感覚が生まれたんです。自分自身がその時どういう状況か?によって、場所との出会いの解釈が変わるのかなと思いました。
うたうみ:確かに。私は岡山に出会った時、21歳で。大学を辞めて、フォトグラファーとして活動し始めた頃で、これからどうしていこうかなと悩んでいた時期でした。東京でいろんな刺激を受けて、「同世代の人が頑張っているから私も頑張らなきゃ」という、ある種の焦りを持っていた時、岡山と瀬戸内海に出会ったんです。
瀬戸内海を見た時、その焦りが解かれたように感じて。誰かの意思ではなく「私の心が好きだと言っている!」と純粋に感じ、それがこんなにも響いたのはその時の私だったからかもしれません。
あかし:逆に、地域とのいい出会いとは言えないような出会いはこれまでにありましたか?
うたうみ:そうですね……。人の温度を感じられない時は、いい印象が残らないかもしれないです。人との出会いがなかったり、人間味を感じられなかったりする時は、街に潰されそうになるというか。自分が「通行人B」になったような感覚に陥るんです。
あかし:わかります。どんな地域にも必ずそれぞれのよさがあるのだと思いますが、その時の自分の状態やタイミング、誰を通して出会うかなど、「出会い方」によって感じ方は変わりますよね。だからこそ、どのように出会うかってとても大切だなあと感じます。
ステップ2:知る・影響を受ける
あかし:続いて、地域を知ったり、影響を受けていく段階で必要なことは何だと思いますか?
うたうみ:私は、自分自身の「身体」を使いたいなと思いますね。自分の足で歩く、食べる、見る。今日時間があったので、長門に行って金子みすず記念館に行ったり、街を散策したりしたんですけど、こんなところあったんだ!と思いました。山口出身なのに、全然知らなかった。
青海島に続く道とか、自分の足で歩いていなかったら気づけなかった道があって。「ここに〇〇があるらしいよ」という情報だけではなくて、自分の身体と心を使って地域を知るというのは大事だなと改めて思いました。
あかし:すごく大切ですよね。地域の魅力を熱心に伝えてくれて、その街の入り口となってくれる人がいることも、地域をより深く知ったり、好きになったりするには必要だなと思います。
私が岡山で暮らそうと思ったのも、先ほど話題に出たホテル「float」を営むオーナーさんたちが、児島を愛していて街の魅力をたくさん教えてくれたからです。彼ら自身が毎日ワクワクしながら、児島のおいしい飲食店や魅力的なお店、美しい自然のある場所に連れていってくれて。彼らがいなかったら、こんなに児島のことを好きになっていなかっただろうなと思います。
うたうみさんは、「地域の入り口」になってくれる人の存在についてどう思いますか?
うたうみ:私もとても大切だと思います。岡山でもそうだし、あとは沖縄でも同じことを感じています。私のパートナーは沖縄出身なのですが、それがきっかけに何度も訪れるようになり、彼のおかげでいい関係を結べているなあと感じますから。誰を通して地域を知るかで、感じ方は全然違ってきますよね。
ステップ3・4:意思が生まれる・深まる
あかし:次に「ここで暮らすぞ」「事業を始めるぞ」などという、具体的なアクションに起こす「意思」が生まれるポイントについて話したいと思います。うたうみさんは全国を旅するなかで、「岡山で暮らす」と決めたのはなぜですか?
うたうみ:うーん、なぜなんでしょうね……。私の場合、何も考えていなかったから岡山に決められたところはあるかも。
あかし:おもしろい。好きっていう気持ちや、直感だけで決めたということですか?
うたうみ:そうですね。「好き!よし、ここがいい!」という感じで決めちゃって。住むと決めたあとに、仕事をどうしようかなと考えていました。
あかし:素敵ですね。何も考えずに飛び込めるのって、自由が目の前にたくさん広がっている若い時の特権なのかも。大人になると、家庭や仕事、守るべきものを考えてしまって、どうしても動きづらくなることが多い気がします。
私もうたうみさんのように、直感で「えいや!」と岡山へ行くことを決めたんですが、同時に慎重に考えている自分もいて。仕事での役割が岡山にあった方が、「ここで暮らそう」という意思を強くできるなと思ったんです。本屋を始めたのは、「この場所で生きる理由がほしかった」ということも大きかったなあと。本屋という役割を持てていなかったら、私は岡山に住んでいなかったと思います。
うたうみ:そうだったんですね。私は「やりながら」というかんじだったので。岡山に降り立ってみて、流れるままに過ごしていました。
私に家族や子どもがいたら、話は別だったかもしれないですよね。……いや、意外と同じように生きているかもしれない(笑)。
あかし:あはは(笑)。その時にならないと分からないところはありますよね。人の意思の生まれ方は、性格的なものも年齢的なものも、複合的な要素が絡み合ってできているんだろうなあ。もっと考えてみたいです。
ステップ5・6:問題が起きる・チューニング(対話)する
あかし:続いて、地域に関わり続けると問題が起きることもあると思うのですが、うたうみさんはこれまで地域と関わる中で起きた「問題」はありましたか?
うたうみ:客観的に見て何か問題が起きたというよりは、自分のなかでの葛藤はありました。
「若者と言えば上京」とか、「若い時は都会で揉まれてこい」とかの流れが今もあるなかで、自分の意思ではあったけど、私は岡山に降り立って。実は、取り残されているような感覚があったんです。時間の流れが速く、仕事やお金がぐるぐると回るスピードが急にゆっくりになったことで、自分の価値も落ちているんじゃないかと思ったことがありました。
でも、岡山のゆっくりとした時間の流れのなかで、一歩一歩を自分の足で踏みしめて歩いていたら、見えてくるものがあって。仕事になるとか、お金になるとかに関わらず、価値があることに目を向けていきたいと思いました。
その価値にフォーカスできた時、「私はここにいて大丈夫。ここでの暮らしが心地いい」と思えるようにもなりましたね。
あかし:環境の変化による、自分の中に生まれた課題を、自分との対話で向き合って解決していったんですね。
うたうみ:あかしさんは何かこれまで問題が起きたりしましたか?
あかし:岡山と東京での二拠点生活をはじめてしばらくは、私は本屋で寝泊りをしていました。けれどとある事情できちんとしたアパートを借りなくてはいけなくなり、岡山での生活費が倍近くになるという問題が発生したことがありました。
あとは、実家がある京都との関係では、今後いろんな問題が起きるんだろうなあとよく考えます。今は実家があるから京都に何度も帰っているけれど、もし実家がなくなったら、私と京都の関係性ってどうなるのだろう、とか。
うたうみ:確かに。ライフプランに合わせて、大きな選択を迫られたり問題が出てきたりしそうですね。
あかし:そうですよね。問題が起きる度に自分の中で対話をして、そしてその問題を解決してでもその土地と暮らしたいと思い続ける意思が発生した時に、また地域との関係性は一歩深まっていくんでしょうね。
うたうみ:こうして、地域との関係性を対話のなかで一つひとつ紐解いていくのは、面白いですね。
あかし:私も面白かったです。いろいろな方とお話しするなかで、関係性を構築するステップは変わっていくんだろうなと思います。今後も自分なりの「わたしと地域の関係性」をみなさんと考えていけたら嬉しいです。
今日はありがとうございました!