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逆噴射小説大賞2019投稿作まとめ

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このマガジンはishiika78の逆噴射小説大賞2019投稿作を一気に読むことができて、すごい
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#小説

DOPEMAN

DOPEMAN

 トヨタのプリウスを見かけて、その中にイカした黒人のギャングスタがいるとは誰も思わないだろう。ましてや、ダッシュボードの中にクラックが詰まっているなんて。
 高級スーツを着た記者に聞かれたことがある。「何故クスリを売るんですか?」決まっているだろ。生きるためだ。
 街区の角にフードを目深に被った男が立っている。男はスマホのケースをはずしたりつけたりしている。その手元はおぼつかない。初客のようだ。

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終末神奈川決戦

終末神奈川決戦

 神奈川を横断する東名高速道路をおよそ2万5千を越えるバイクが埋め尽くしていた。
 法定速度100㎞を大きく越え、エンジンを唸らせながら東名高速道路を駆けていた。
 その先頭を走るは湘南最大規模を誇る暴走族『走繪屋』の頭、時塔宗次。彼の睨む先は首都東京。
 その上空には巨大飛行物体が地上に向かってサーチライトを照射していた。
 時塔にはあれが何なのかわからなかった。三日前忽然と首都上空に出現し、地

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大麻拳

大麻拳

 功夫とは究極に言えば精神の鍛練である。
 その拳は、その蹴りは、精神をより高みへと研ぎ澄ますための手段である。
「であるなら」
 俺は言葉をきる。
「大麻もまた広義の功夫だと言える」
「なるほどな」
 MJは頷いた。
「ラリってんのか」
 やれやれだ。こいつは何もわかっちゃいねえ。
 ここはLA南部にあるダニージム。功夫映画を見て育った黒人がこぞって押し寄せるフッドの功夫道場だ。無論、俺もその一

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反倫理委員会

反倫理委員会

 王の間じみた静けさがあった。
 深手を負ったKの前に並ぶ三つのコールドスリープ装置には旧代文字で「映画」「漫画」「小説」と刻まれていた。

 闇の中。鞭のような蹴りを鼻先1ミリの距離でかわし、拳をガスマスクに叩きこむ。
 旧代の反倫理コンテンツが埋蔵されたカタコンベでは常に可燃性ガスが蔓延している。
 そこでは感情統制支配を行っている倫理委員会直属の剪定部隊が検閲を敷いている。
 Kはふらついた

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殺意の掟

殺意の掟

 もう駄目だと思った。
 山奥の廃村でこの男の頭を岩で潰しておしまい。そのはずだった。
 男はこちらの動きを全て読んでいるかのようだった。雨の中、蛇のようなしなやかさで私の首を掴み、地面に叩きつけた。
「無駄な抵抗をするな」
 男は片手で私を組み伏せながら、胸元から手帳を取り出し地面に叩きつけた。そこには警視庁捜査一課 犬神城と書かれていた。
「警察官5名、刑事3名を殺した連続殺人犯『警官殺し』─

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