大麻拳
功夫とは究極に言えば精神の鍛練である。
その拳は、その蹴りは、精神をより高みへと研ぎ澄ますための手段である。
「であるなら」
俺は言葉をきる。
「大麻もまた広義の功夫だと言える」
「なるほどな」
MJは頷いた。
「ラリってんのか」
やれやれだ。こいつは何もわかっちゃいねえ。
ここはLA南部にあるダニージム。功夫映画を見て育った黒人がこぞって押し寄せるフッドの功夫道場だ。無論、俺もその一人。
ここじゃマックィーンよりブルース・リーの方がヒーローだ。
噂じゃ大統領も功夫をやってるんだとか。
その時、まるで破城槌を撃ちこんだかのような衝撃音が道場を震わせる。そして、
「ィイイイイイイッ!!!」
スーツ姿の黒人が飛び蹴りで壁を破って飛び出してきた。
「はあ!?」
MJが動転して尻もちをつく。
「道場破りか!」
師範のダニーが散弾銃を持ってやって来る。
「そのチンポコ大事なら消えな! このくそったれ……」
言葉は最後まで続かなかった。スーツ姿の男が静かにネクタイを直す。
「あんたは」
ダニーは散弾銃を取り落とす。
「ジョン・オハラ大統領!」
アメリカ人なら誰もが知る男。黒人で初めて合衆国大統領になった男。
「まさか」
MJは鼻で笑う。
「そんな馬鹿な」
「MJ、あれを見ろ」
大統領の後から入ってきた女性を指さす。
「おいマジかよ。あれは」
「アビー大統領夫人だ」
「あのケツは間違いねえ」
魅力的なケツだ。
「諸君」
広い道場に大統領の声はよく響く。
「問おう。この中で一番強い者は誰だ?」
強いやつだって? 何が言いたいんだ。
「合衆国の危機だ。かかってこい」
オハラ大統領は静かに構えをとる。戦る気のようだ。
どちらにせよ道場の看板をコケにされたのだ。ただで帰すつもりはない。
「よお、アル」
ダニーが俺に向かって首を掻っ切るジェスチャーをする。
御指名だ。ちょうどいい。MJのやつに大麻のありがたみを教えてやろう。
俺はジョイントに火をつけ、大麻の煙を胸いっぱいに吸った。
【続く】
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