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反倫理委員会

 王の間じみた静けさがあった。
 深手を負ったKの前に並ぶ三つのコールドスリープ装置には旧代文字で「映画」「漫画」「小説」と刻まれていた。

 闇の中。鞭のような蹴りを鼻先1ミリの距離でかわし、拳をガスマスクに叩きこむ。
 旧代の反倫理コンテンツが埋蔵されたカタコンベでは常に可燃性ガスが蔓延している。
 そこでは感情統制支配を行っている倫理委員会直属の剪定部隊が検閲を敷いている。
 Kはふらついた剪定部隊を背負い投げで地面に叩きつけ、その顔面を踏み潰す。骨が砕け、脳髄と綯い交ぜになる。
 銃器の使用が制限されるカタコンベでは素手による殺しの技術が必須となる。倫理委員会も。反倫理委員会も。
「相変わらず精密機械のような動きだ」
 背後ではLが最後の隊員の首をへし折っていた。
「本当に感情統制されてないんだよな?」
 Kは無視する。感情統制から抜け出してわかったことだが、Kは人と話すのが苦手だった。
 Lは肩をすくめる。その表情はガスマスクに覆われ伺い知ることができない。
「まあいいけどよ。おかげでいいものが手に入った」
 Lは一冊の本を手渡す。
「見ろよ、鹿撃ち帽を被った男が並んでる」
 ページを捲る。旧代の文字列が並んでいた。
「いい本だな。多分、ミステリ小説だ」
「流石」
 旧代の文字を読める人は多くない。故にKのような人材は重宝される。
「これなら感情解放する人が増える。持って帰ろう」
 そう言って本を仕舞おうとするLの動きが止まる。一瞬の出来事だった。Lの首が宙を舞う。
 その背後にはガスマスクを身に着けた男がいた。犬の紋章を施したガスマスクには77と刻印されている。
「裏切り者を発見」
 男は本隊に通信をいれる。
「久しいな、ナンバー77」
 Kが声をかけると77は無言で構えをとる。剪定部隊最強、0011隊の近接戦闘術"十手"だ。
「これよりナンバー15を粛清する」
「悪いが」
 胸から湧き上がる怒りを自覚しながらKも同様の構えをとる。
「それは捨てた名だ」

【続く】

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