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情熱とバイク旅行

8月19日はその語呂から『バイクの日』とされているらしい。

僕もバイクに乗っていた時期がある。二度事故をし、二度とも入院したので、僕にはバイクは向いてないのだと判断し現在は乗るのをやめている。

当時乗っていたのがこのバイクだ。

HONDA STEED400。ハーレーダビッドソンに代表されるアメリカンタイプと呼ばれるバイクの一種で、スピードを出すのではなく、ドッドッドッとゆったり走る。

これを友達から15万で買った。中古で汚かったのだが、少しずつパーツを取り寄せて改造していくのが楽しかった。

本当にバイクが好きな人は、バイクに乗っていること自体が好きなんだと思う。だからツーリングなどに出かけるのだろうが、僕はそんな感じではなく、バイクの造形美が好きで、そのバイクを所有することを楽しんでいた。だから、あまり遠出することはなかった。


だが、一度だけこのバイクで遠出した事がある。

四国に住んでいる時に、大阪の友達に会いに行ったのだ。

経路はこんな感じで、今ルート検索をしてみたら、その距離は約350km、所要時間は4時間半と出る。

「こんなに長かったのか」

ビックリした。あの時はそれほどの距離も時間も感じなかったからだ。その頃の僕には情熱も体力もあったということだろう。

今なら迷わず松山⇔伊丹間の飛行機を選択する。今更ながら、あの頃しかできなかった体験をしたのだなと実感する。


その日は気持ちよく晴れてくれた。絶好のツーリング日和だ。

一泊分の荷物だけをバッグに入れ、後ろのシートにきつく縛りつける。

イヤホンからはボンジョヴィ。

I believe, I believe
With every breath that I breathe
You and me
can turn a whisper to a scream
I believe, I believe

俺は信じてる、信じてる
ブレスするたび
俺たちなら
囁きを叫びに変えられると
俺は信じてる、信じてる

(今思うとだいぶダサい。でも坊や、青春とはダサいものなのだよ)

どこをどう走ったのか全く覚えてないのだが、瀬戸大橋を渡った時のことだけは覚えている。

何しろ長い。日本が世界に誇る巨大建造物だ。

だが、実は。

この瀬戸大橋。

全然楽しくはなかった。

その日は風が強かった。さらに海の上である。

走っていると風でバイクが揺さぶられるのだ。

チョー怖かったーww

橋の上を走っている時間は10分くらいだったと思う。スピードを落としてゆっくりと。景色を楽しむ余裕は僕にはなかった。

しかし、往復で10時間近くバイクに乗っているはずなのに、覚えていることがこれだけとは。


人間とはうすい幸福感よりも、恐怖を記憶するものなのかもしれない。

だが、着いた先で友達と会ったことは全部覚えている。



朝松山を出て、大阪は高槻に着いたのは昼過ぎだった。

初めて行く家だったので近所まで行くと携帯から電話をかけた。

道案内通りにバイクを走らせると、玄関前に出てきてくれていた。

手を振る友達の前でバイクを止める。

ヘルメットを脱いだ。

「おー、久しぶりー」

「おう!やっと着いたよ」

「おつかれさまー。さすがに疲れた?」

「いや、そんなに」

強がりかといえばそうでもない。

まったくの一人旅なら疲れていたのだと思う。

だが、友達に会いに行くという目的があった。

だから着いた時には、喜びであり達成感の方が強かった。

「バイク、こっちに停めて。あがって」



松山で知り合った友達だが、転勤で大阪に移動。今は結婚している。

きれいで広い家。

インテリアがオシャレだ。

「あ、ソファーに座って。お茶でも飲む?」

「そうだな、もらおうかな」

「すごい。バイクで四国から高槻って」

「いや、そんなでもないよ。それより、今日、ホントに泊めてくれるの? 」

「うん、いいよ」

「ホントに大丈夫? 」

「大丈夫。心配しないで。主人は昨日から出張で、あと二日は帰ってこないから」





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