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離脱

もう5年以上前かな、タバコをやめたのは。

その時に会社に出入りしていた営業さんがいたんだけど、彼が「俺、もうタバコやめます。やめてみせます!」って言ったのがきっかけでね。
「そうか、それはいいことだ。じゃ、その意気込みに、俺もお付き合いしようかな」と。


それまでにも禁煙にチャレンジしたことはあったんだけど、うまくはいかなかった。

いつも指にタバコを挟んでいる感触があったから、それがなくなるとどうしても手持無沙汰で。口がさみしいって表現する人もいるけれど。

特に酒の席なんかでは何か落ち着かない。
それで「まあ、一本くらいならいいか」とその場にいる人にもらいタバコをしてしまい・・・

あとは、ご想像通り。

一本吸ってしまえば元に戻っていくだけ。

まあ、その繰り返しだった。


その時ちょうどラジオから『電子タバコ』のCMが流れてきてね。そう、あの通販番組みたいなの。

当時の電子タバコは今のアイコスとかじゃなくて、完全に禁煙用に作られたもので、ニコチンはゼロ、煙がわりに水蒸気が出るだけの子供だましみたいなもんだった。

それでも出たばっかりの商品だったから高かったな。2万円以上したと思う。でも、それでタバコをやめれればしめたものだ。

当時、一日二箱は吸ってたから、タバコ代だけで一日700円くらいの計算になる。タバコに休みはないから365日で25万円以上だ。

年25万円かけて肺を真っ黒にして、吸えない時間にイライラしてるって。
バカだよね(笑)今思うとなんとも情けない。


車を停めて、その場で電話して『電子タバコ』を注文した。
届いた電子タバコはよくできたもので、吸えばきれいに煙みたいなものが出る。なんとなく吸ってる感触があった。

でね、この電子タバコ。禁煙のところでも吸えるんだよ。
ニコチンがゼロで、煙は水蒸気だから、匂いもしないし誰にも全く害がない。だから当時は禁煙のお店でも店員さんに説明すれば、だいたいOKがもらえた。

そこで自分のルールを決めたんだ。
「この電子タバコは一日どれだけでも吸っていい、どこでも吸っていい、ずっと口にくわえてていい。その代わりに、絶対にタバコは吸わない」と。

するとね、一ヶ月くらいした頃なんだけど、自然に電子タバコもいらなくなったんだよ。

そこで初めて自分でわかったんだ。

俺はただのニコチン中毒だったんだって。

手持ち無沙汰とか口がさみしいとか、いろいろタバコをやめられない理由を言ってたけど、違ったんだよ。

身体から完全にニコチンが抜けたらもう電子タバコすらいらなくなった。

それでタバコは完全に終了。禁煙成功だ。



タバコを吸わなくなった今。

とても楽だよ。

タバコを吸いたいという欲求もなければ、タバコを吸えないつらさもない。

タバコを吸ってた時は、それはそれできっと気持ちのいい瞬間もあったんだろうけど。

禁煙してよかったって、心から思う。


でもね。

今でもタバコの匂いは嫌いじゃないんだよ。

バーなんかで飲んでるとタバコの煙がただよってくることがあるけど
「ああ、懐かしい、いい匂いだな」って思う時がある。

だからこそ。

もう絶対に吸わない。一本たりとも。

一本吸ったら、もう終わり。

絶対に元に戻るって、自分でわかってるから。

またタバコを好きになって、また中毒になり、そしてまた苦しむことになる。

だから、もう絶対・・・


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なぜこんな話を君にしたのか。

君ならわかるよね?

こうして君と二人で会うのは、今日で最後にしたい。

なぜなら僕はまだ君を・・・



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