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『TOKYOチョコっとジャーニー』六本木:ジャン=ポール・エヴァン編

現在東京は緊急事態宣言真っただ中で、ほとんどの店が酒類の提供をひかえている。お酒が大好きな僕は非常に困っていたのだが延長されると聞いて腹が決まった。ならばいっそこの状況を楽しんでやろうじゃないか。

僕の知り合いで一人だけ、お酒が全く飲めない人がいる。自分は飲まないのに、ガハガハ言いながらガバガバ飲む僕に付き合ってくれるのだから、とても心の優しい女性に間違いない。

彼女なら楽しんでくれるんじゃないかと思い誘ってみた。

「禁酒法下の東京でさ、お酒無しで昼間っからうまい肉食べるのどう? 後になれば今のこの状況はまあまあ歴史的な出来事とされるだろうから、いい思い出になると思うよ」

ノリのいい彼女。

「いいね。おいしいステーキ食べたい」

決まり。

前から気になっていたお店があった。そのお店は六本木にある。

『 ウルフギャング・ステーキハウス 』

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ハッキリ言おう。

このお店、アホみたいに高い。

僕は微妙な味の違いがわからない男だ。肉ならいきなりステーキで十分おいしい、100点満点だ。それに比べるとこのお店。

アホみたいに高い。

物価そのものが違う国に来たような錯覚すら覚える。

でもね。

酒抜きでランチなら。なんとか耐えられそうな気がした。



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12時ちょっと前、フォークとナイフが並べられた席で彼女を待つ。

店に入ってくる彼女が見えた。ワンピースがかわいい。

「お待たせ。ちょっと迷っちゃった。六本木ヒルズの方に行っちゃって」

「そっか。どう?こんな雰囲気」

「ちょっと緊張しちゃうね」

「でもさ、他のお客さん見ると、みんな思ったよりカジュアルだよね」

「そうね」

「ま、リラックスして。僕たちはどこにいても僕たちらしく楽しめばいいと思うよ。さて、飲み物何にする?」

「んー、ピーチジュースにしようかな」

「OK。じゃあ、始めよう」


お昼のコースは、サラダとスープと肉。単純な構成だ。アメリカっぽい。

ディナーに来たことのある友人から「サラダでお腹いっぱいになってステーキはドギーバックで持って帰ったw」と聞いていたので、朝は抜いておいた。さて、どんなサラダが来るのかと思っていたら…

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ドーン。

おい、これ一人前ちゃう。四人前やろ。

想像以上のデカさだった。さすがアメリカ料理。繊細さもへったくれもこの皿には存在してない。ガバー、ドーンと盛ったサラダを、不愛想な店員が何も言わずにテーブルにガーンと置く。

驚きを隠せなかったが、しかしやるしかない。そこに山があるなら、登るしかないのだ。

食べてみるとうまい。このサラダ、うまいのだが。

「食べても食べても減らない(笑)」と彼女。

「俺がなんとかする」と男気で彼女の皿から半分もらう僕。


なんだこの いきなりのフードファイト感。

なんとか平らげたのだが、次が怖くなった。スープといってもひょっとしたら洗面器みたいなのが… 

そんなはずはなく、だがカップでもなく、ちゃんとお皿に入った十分の量のスープだった。

しかし肉が出てくると我々は理解した。

まだここは、五合目だったのだ。


店員が肉を持ってきた。

ハイ、ドーン!

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店員は相変わらず不愛想で、ボソボソと何かを説明をしているようだが、それが何語なのか、何を言ってるのかもわからない。ディス イズ アメリカ。これがアメリカの接客なのだろう。

そんなことよりもこの肉塊の大きさだ。

「デカい!!ギャル曽根じゃねぇっちゅうの!ww」

「ウハハハ。ちょっと笑っちゃうねw これは写真撮っておこw」

欧州系のコースなら皿に取り分けた二片のお肉で十分なメインになるはずだ。しかし、ここはアメリカ。こんなのは名刺代わりだ。

シュワルツェネッガー、スタンハンセン、ビスケットオリバ。彼らがデカい肉にかぶりつく姿が脳裏に浮かぶ。


「あのさ、ちゃんとルールを決めておこう。これ、もったいないとか考えるのはやめよう。全部食べきる必要はない。そんな挑戦しに来てるんじゃないからね。『もう食べられない』じゃなくて『あー、おいしかった』で終われるように」

「そうね。わかった。決して無理はしない」

「うん。昔、植村直己っていう冒険家が言った言葉。『冒険とは、生きて帰ること』。生き抜こう。おいしく食べよう。たとえ残したとしても」



途中水をもらった彼女が「ガス抜きでよかった。炭酸だったら、もう入らなかった」と言っていたほどだったが、僕たちはなんとかやりきった。

全部食べた。よかった。うまかった。

コースにはデザートもコーヒーもない。肉で終了。これもアメリカ感ある。

と思っていたら、店員がデザートのメニューをまたまた不愛想な顔で持ってきた。だが断る。いらん。もう何も入らん。



なんとか生きて店を出ることに成功した僕たちは、次の目的地に向かって歩き始めた。今日のもう一つの目的。チョコを食べに行く。

彼女は甘いものが好きで時にチョコレートには目がないらしい。この近くには有名店がいくつもあるのでついでに寄ってみようと話していたのだ。

小鹿を丸飲みした蛇のように膨らんだお腹のまま、僕達が向かったのは東京ミッドタウン。ガレリア棟のB1にある ジャン=ポール・エヴァン。

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冷やされた店内に入るとそこはチョコ、チョコ、チョコ。たまにマカロン。

「うわー、全部おいしそう!」

マスク越しでもわかる、楽しそうに嬉しそうに笑う彼女。

この顔が見たかった。

どれが美味しいかなんて僕には全くわからない。店員さんに聞いていくつかのチョコを詰め合わせで買った。


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公園が見えるテーブルがあいていたので、そこに座り、今買ったチョコを一つ食べる。

イワシの形のチョコ。期間限定らしい。

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「すっごくおいしいんだけど。俺、おいしいと甘いしかボキャブラリーがなくて表現できないw」

「そうだねw おいしいねw」

彼女はトリュフのチョコを食べていた。



「ねぇ。今日のこと、noteに書くの?」

「もちろん。『TOKYOチョコっとジャーニー』ってタイトルで。東京のチョコを食べ歩くの、シリーズ化するつもり」

「シリーズ化? じゃあ、次もあるの?」

「うん。また考えておくから、楽しみにしておいて」

「わかった」

「生きていれば不安を感じることもあったりするけどさ。そして僕は君を安心させることなんてできないかもしれないけど。たまにはね。こんな感じで楽しい時間を、と思ってる」

「そうね。たまにはこんな感じもいいね」

「うん。お互い、自分にご褒美、あげなきゃね」



天気のいい休日。

おいしく甘い時間が、ゆったりと流れていた。



-- ジャーニー『 Be good to yourself』--

Be good to yourself when,
nobody else will
Oh be good to yourself
You're walkin' a high wire,
caught in a cross fire
Oh be good to yourself

たまには自分を大切にしなきゃ
他の誰かなんて気にせずにさ
ああ 自分にごほうびをあげなよ
いろんなことでヘトヘトで
きみは高いところを綱渡りしてるんだ
ああ だから自分を大切にしろよ

※ デートにウルフギャングはお勧めしません。デカい、高い、店員が不愛想。僕たちは楽しかったですがw

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