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TISP (Tokyo Innovation Summer Program) 2024 レポート

本レポートでは2024年度実施のTISP全体像をまとめました.プログラムの詳細はそれぞれ記事にまとまっていますので,ぜひそちらもご覧ください!

TISPとは?
i.schoolの大学生と高校生が一緒にアイディアを考えるサマープログラム,TISP(Tokyo Innovation Summer Program)は2013年度より実施されています.
今年度も宮崎県にて8月6日から5日間、宮崎(宮崎大宮高校・高鍋高校日向高校),台湾(高雄市立高雄高級中学),ベトナム(ハノイ国家教育大学附属グエン・タット・タイン中等教育学校)の高校生とともに、宮崎県の地元中小企業の技術を題材とした「中小企業のイノベーション」のアイディア発想を行いました.
途中地震などの災害に見舞われながらも,最後まで懸命に全員で走り抜けました.


■TISP(Tokyo Innovation Summer Program)全体の構造

TISPの特徴
i.schoolでは,イノベーションを生み出すための方法論を学術的知見に基づき体系化してきました.TISPは, i.schoolの方法論を用いながら高校生・大学生がアイディア創出を行う英語でのサマープログラムです.
TISPは2013年度より実施されており,実施形態を変えながらこれまで全国各地で行ってきました(宮崎県,香川県小豆島,新潟県など). 

過去には海外大学生や社会人も参加する形態での実施や,コロナ禍においてはオンラインでの実施もしてきました. 昨年度からは対面に戻り,宮崎県にて宮崎大宮高校を中心とした宮崎の高校生, 宮崎大宮高校の姉妹校である台湾とベトナムの高校生とi.schoolの通年生・修了生の大学生が参加する形での開催となっています.

今年のTISPのテーマは「中小企業のイノベーション」です.今回のプログラムでは,宮崎の中小企業における新たな製品やサービスといったビジネスアイディアを考えていきます. 

ワークの構造
i.schoolの方法論では,目的分析だけではなく,手段の分析をかけ合わせてアイディアを創出します.今回のプログラムでは, 未来シナリオからその社会に住むペルソナのニーズを分析し(目的分析), 宮崎の中小企業の強み分析(手段分析)と掛け合わせることでアイディア発想を行っていきます.

今回は宮崎の中小企業は3社の方々にご協力いただきました.
①新緑園(児湯郡新富町)
②栗山ノーサン(都城市)
③川上木材(宮崎市)

まず,3チームずつ各企業に割り振られ,企業の強みを分析していきます.自分たちの対象とする企業の強みを知るために,フィールドワークを行い,企業の方々の話や思いを聞く中で,その企業にしかない強みを引き出します.

次に,目的分析として未来シナリオ(Future Scenario)を読み,その未来におけるペルソナを設定し,彼らはどのような生活をし,どのようなニーズを抱えるのかを分析します.

そして,最後に未来シナリオから引き出したニーズ(目的)と,フィールドワークを通して分析した企業の強み(手段)をかけ合わせてアイディアを創出していきます.
これらのワークは一度では終わらず,5日間かけて何度もプロセスをやり直しながら試行錯誤していきます.

未来シナリオと企業の強みをかけ合わせてアイディア創出をします

■0日目(7/19)初顔合わせ&チームビルディング

今回のサマープログラムは,宮崎・台湾・ベトナムの高校生とi.schoolの通年生/修了生やi.schoolに関心を持つ大学生(東大・立教大など)からなるチームで進めていきます.

宮崎の本番プログラムで対面する前に,オンラインで全員が顔合わせとチームビルディングをする会を実施しました.大学生の中には,宮崎大宮高校のOBOGで,かつてTISPに高校生として参加した大学生や,高校生の中にも昨年参加して刺激を受け,今年も参加に挑戦しているという生徒もいました.TISPを経験し,次の挑戦につながっていく姿が見れるのもこのプログラムの特徴です.

TISPでは,宮崎,台湾,ベトナムの高校生の混合チームに大学生がディスカッションパートナー(DP)*として入ります.

当日のワークでは,ブレイクアウトルームでチームに分かれた後,各チームでは英語でのコミュニケーションに緊張しつつも,少しずつ笑顔が増え,最後には打ち解けた様子でした.

*DP(ディスカッションパートナー)とは
i.schooでは,ワークショップ議論をサポートする役割として,ディスカッションパートナー(DP)として各チームに配置する制度を設けています.
ファシリテーターよりも近い存在として,一歩先を行くDPがいることによる高校生の学びとなるだけではなく,DPにとっての教えることを通じた学びの深化の場としても機能しています.

初顔合わせとチームビルディングの様子について,詳しくは以下のnote記事をご覧ください!

■1日目(8/6)オープニング&フィールドワーク

プログラム初日は,開催地宮崎に集合し,対面でのアイスブレイクとフィールドワークを行います.

午後からは3チームごとに分かれて企業フィールドワークを行い,翌日行う企業の強み分析につながる気付きや示唆を発見していきます.デスクトップリサーチでは得ることのできない生の声や現地の様子に触れることで企業の強みを引き出していきます.

プログラムの当日,宮崎では全員はじめての対面でしたが,和気あいあいとした雰囲気が漂っていました.各国の文化や生活を聞く中で,自然と話が弾み,英語という言語の壁も少しずつ超えながらのワークとなりました.

1日目の様子については以下の記事をご参照ください!

■2日目(8/7)企業の強み分析・未来シナリオ分析・アイディア発想

2日目は前日で行ったフィールドワークから,企業の強みを分析していくところから始め,未来のニーズをとらえ,アイディアを発想するところまで行います.一度ワークをすべて通してみることで,翌日以降の再試行をやりやすくするという目的があります.

フィールドワークで得た情報を共有しながら,どんな強みがあったか,どんなところに魅力を感じたかを話し合う姿は,ネットや文字上では得られない生の声や姿に触れたからこそのものです.当日フィールドワークにおいては,社長や社員の方々の思いに触れ,それ自身が企業の強みになるといった議論もされていました.

次に,大学生が用意した未来シナリオを読み,そのシナリオにおける登場人物(ペルソナ)の分析をします.
今回のプログラムでは「一つの高校に通わなくてもいい未来」,「ロボットとAIが日常に溶け込む未来」,「脳波や生体データで自分自身をもっと知れる未来」,「地方にこそビジネスチャンスがたくさん転がっている未来」などのシナリオを読み,その中で生活をする人のニーズを分析をします.

そして最後に未来シナリオと企業の強みをかけ合わせてアイディアを創出していきます.当日のアイディア発想ワークでは,高校生からはたくさんのアイディアが挙げられ,模造紙はアイディアのポストイットで埋め尽くされていました.

出したアイディアは評価と再試行を繰り返しながら,今日のワークを土台に最終日まで試行錯誤をしていきます.

DAY2については以下の記事をご覧ください!


■3日目(8/8)総括的分析&再試行,ポスターセッション

3日目は,前日に行ったアイディア発想までの一連のワークを振り返り,アイディアの評価とワークのどこに問題があったかを分析する総括的分析を午前中に行い,午後にはワークの再設計と再試行を踏まえたポスターセッションを行います.

総括的分析では,アイディアの課題点とワークのどのプロセスをどのようにやり直すことができるかということを考えます.すなわち,目的分析(未来シナリオからのニーズ分析)×手段分析(企業の強み分析)=アイディア発想という全体のワークの構造をもとに,より良いアイディアを出すための再試行ワークをチームごとに設計していくこととなります.より良いアイデアを生み出す上で再試行を行うことは非常に重要であり,i.schoolではこれを非常に重視しています.

当日の議論においては,ここまでの全体のプロセスを一度通したことでワークの構造の理解が少しずつ進み,各チーム前日よりも活発な議論が英語で飛び交っていました.こうしたワークの総括的分析とワークのプロセス再設計を踏まえてより良いアイディアを考えるため,再度ワークを行いました.ここで出たアイディアをもとに,午後のポスターセッションの準備を行いました.

ポスターセッションでは,各チームの現時点でのアイディアとその背景にある未来やニーズ,企業の強みを模造紙にまとめ,他のチームやファシリテーター,大学生からのフィードバックを行いました.

3日目の総括的分析やポスターセッションの様子に関しては以下の記事をご覧ください!

■4日目(8/9)再試行

4日目は,最終発表に向けた準備を一日かけて行っていく重要な日となります.これまでの成果を中間発表としてまとめ,フィードバックをもとに最終発表に向けてアイディアを精緻化,プロトタイピング,最終発表資料の作成やスキット(小芝居)の準備などを行っていきます.

TISPにおいては,アイディアの概要とそのアイディアを発想するに至った背景(未来社会やニーズ,企業の強み)がわかるような発表を目指します.プロトタイプを段ボールや箱など工作具を用いながら手元で作る中でアイディアをブラッシュアップしつつ,チームのアイディアの利用シーンや魅力を伝えるために最終発表では象徴的なシーンをスキット(小芝居)を行います.

当日準備においては,未来におけるニーズなのか,あるいは各チームが対象とした企業の強みが本当に活かされているのか,そのアイディアは新規性があるのかなど様々な観点からのフィードバックを受けつつ再試行を何度も繰り返しました.
チームの中には議論が煮詰まってしまったりと頭を悩ませる時間を経ながらも,各チーム良いアイディアを発表できるよう活発な議論がなされていました.

夜遅くまで,各チームの翌日の最終発表に向けて懸命に取り組んでいました.4日目の様子については以下の記事をご覧ください!

■5日目(8/10)最終発表

最終発表では,各チームが考え出したビジネスアイディアをスライドやモックアップ,そのアイディアが実際に使われる場面を想定したスキットと共に発表します.

最終発表には,フィールドワーク先である企業の方やi.schoolエグゼクティブディレクターの堀井秀之先生も現地の会場やオンラインにお呼びし,緊張感を持ちながらも高校生が発表する場となります.発表後には企業の方や先生方からの評価やコメントを頂きます.

TISPで出たアイディアは過去には各企業が実現に向けた取り組みをTISP終了後も行った事例があるように,今回のプログラムにおいても高校生だけではなく協力していただいた地元企業の方たちにとっても新しい視点や刺激を得る機会となっていたことが感じられました.

最後に,5日間の長いプログラムを一緒に過ごした大学生と高校生との間で会話を交わし,プログラムは終了となりました.

最終発表の様子に関しては以下の記事をご覧ください!

5日間を通して

TISPには,参加者それぞれの学びと成長の機会がたくさん転がっており,大きく変わる様子を間近で見ることのできる瞬間が数多くあります.

初めは緊張や不安から口数が少なかったり,自信がなさそうだった高校生が,大学生のサポート無しでも最後には議論に積極的に参加し,笑顔と達成感に満ちた姿で帰っていくといった変化の場面に触れる瞬間は,大学生や先生方にとっても心動かされるものです.

アイディア創出を通してイノベーションの方法論を学ぶことに留まらず,一緒に仲間との議論に熱中したり,大学生の姿を通して次の挑戦につながるモチベーションや,新しいことを起こそうというマインドセットを身に着けることにもつながっています.

高校生にとっての学びに留まらず,i.schoolで学ぶ大学生は,これまで学んできたイノベーション方法論をディスカッションパートナーとして高校生のサポートをすることを通して,方法論への理解と議論を俯瞰する力をつけることにつながるとともに,高校生の成長する姿から刺激を得ることも多くあります.

プログラムの実施に携わっていただいたスタッフの方々, 先生方, 企業の方々, 大学生高校生の方々など皆様のおかげで, このような成長と挑戦のきっかけとなる場に立ち会えたことに感謝いたします.

i.schoolリサーチインターン
東京大学大学院学際情報学府修士
松谷春花

参加者・参加企業一覧

【高校生】
〈日本〉
宮崎大宮高校 22名
日向高校 2名
高鍋高校 2名
〈台湾〉
Kaohsiung Municipal Kaohsiung Senior High School    11名
〈ベトナム〉
Nguyen Tat Thanh Upper and Lower Secondary School  13名

【大学生】
東京大学 4名
立教大学 2名
芝浦工大 1名
愛知学院大学 1名
i.school アシスタント 1名

【地元企業】(敬称略・順不同)
新緑園(児湯郡新富町)
栗山ノーサン(都城市)
川上木材(宮崎市)



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