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【ショート小説】神様のいたずらに感謝して… ~「クロス×クロス」番外編2~

かおりさんと出会った高校生の頃にはまだ肩身の狭い思いをしていた同性愛者の橋本純おれも、今ではずいぶん気楽に街を歩けるようになった。そのくらい人々の男女間は様変わりしている。

同性愛者も、トランスジェンダーも、異装趣味者も関係ない。男は男らしく振る舞って女を愛し、女は女らしく着飾って男を愛する。そう言われていた時代は終わり、誰もが一人の人間として自由に生きられる時代がやってきたのだ。

それが証拠に、おれたちが三年前から制作販売しているジェンダーレスの服も徐々に認知されるようになり、安定して売れている。国立大の文学部をやめ、服飾の専門学校に入り直したかおりさんの作る服に磨きがかかってきたのも大きいだろう。

そんな折に、ある人から久々に連絡をもらった。おれとかおりさんの共通の知り合い。高校の同級生、高野斗和たかのとわ君だ。彼は得意なお菓子作りの道を究めるため製菓学校で学び、その後は都内の洋菓子店で修行を積んでいると聞く。

互いに忙しく、最近は会う機会も減っていた。顔を見て会うのは本当に久しぶりだ。

身だしなみの一つとして化粧をしている彼の隣には、おれたちの販売している服を着た恋人の後藤凜ごとうりんさんが寄り添っている。今日はその距離がいつになく近いと感じたが、その後藤さんに負けず劣らず、おれにぴったりと寄り添うかおりさんの姿をみて思わず頬が緩む。ああ、彼には彼の、おれにはおれの大切な人がいる。かつては彼のことが大好きだったおれだけど、今はこれでいい、これがそれぞれの幸せの形なのだ、と悟る。

「相変わらず、うまくやってるみたいじゃん。ブログ、いつも読んでるぜ」

斗和君は言った。おれは高校生の時から自分の性向をオープンにした記事をブログで発信し、同じような悩みを持つ人の相談に乗ったり、服の販売をしたりしている。

「うん、かおりさんや周りの人に助けられて、順調にやってるよ。斗和君の方はどう?」

「ああ、それなんだけど……。実はおれ……。自分の店を持とうと思ってさ。今、準備中なんだ」

「へぇ! 斗和君、ついに独立するんだ! おめでとう!」

「純の頑張る姿を見てたら、おれも負けてらんないなあと思って。実力ついてきた感はあるし、凜も手伝ってくれるって言うから」
 そう言って寄り添う彼女の頭にぽんと手を載せた。

「おれのやってることを見てやる気になってくれたなんて、嬉しいなぁ」

「でさ、ここからが本題なんだ」
 斗和君はちょっと間を置き、咳払いをして呼吸を整えると一息に言う。

「……店の一角に雑貨販売スペースを作ろうと思ってるんだけど、もしよかったらそこで二人の作ってる服を販売してみないか? 実物を手に取れる場所って言うのも必要だろ?」

思わずかおりさんと顔を見合わせた。
「……どう思う?」

「ずっとずっと、そういう場所があったらいいなって思っていたの。まさか、高野君から提案を受けるなんて思ってもみなかったけど、すごく嬉しい。ぜひ置かせて欲しいわ」

「そうだよね。うん、かおりさんならきっとそう言うと思った」
 おれたちの答えを聞いて斗和君もほっとしたようだ。

「よかった。……実はこの案を出してきたのは凜なんだ。二人の夢をもっと応援できないかってずっと言ってて」

「後藤さんが……?」
 視線を送ると、彼女はにっこりと微笑んだ。

「私自身が、二人の作る服のファンなんだ。だからこそ、ブログにたどり着いた人以外にも手に取ってもらえる場所があったらいいなって思ってたの。私は斗和みたいにお菓子作りも上手じゃないし、二人みたいに服を作ったりブログ書いたりもできないけど、陰ながら力になりたくて」

「ありがとう。あなたのその、ちょっとした心遣いが私たちにとってはものすごく励みになってる。本当に感謝しているわ」
 後藤さんの言葉にかおりさんが答えた。

「で、斗和君はどこにお店を出すつもりなの? 当然もう、目星は付けてるんでしょ?」
 おれの問いに斗和君は「よくぞ聞いてくれた!」と言って笑った。

「もちろん、この神社のすぐそばだよ。今は廃れてるから空き店舗が多いんだけど、だからこそ、おれたちが盛り上げたいなって思ってんだ」

この神社、というのはおれたちが今いる場所。後藤さんの父親が宮司を務める春日部かすがべ神社のことだ。人口減、ネット販売の普及等で、かつては賑わっていたであろう神社周辺の商店街はとうにすたれていた。しかし斗和君たちはそこに店を構えたいという。自分たちが育ってきた地域だし、人を呼び戻したいとの思いもあるのだろう。

高校二年生のとき、神社の祭りができなくなった代わりに境内の一角で斗和君が作ったクッキーを配り、野外ライブを開催して大盛り上がりした記憶がよみがえる。おれがブログでイベントの告知をしたら、かなりの人が集まって感謝されたのも懐かしい思い出だ。そして今日、その場所でおれたちは再会している。

「わたしたち、春日部神社の神様とは何かとご縁があるわね」
 かおりさんも過去のことを思い出したのか、そう言った。

「うん。おれたちは見守られ、導かれてる。そんな気がする」

この中の誰一人として、神の姿が見えるものはいない。けれど四人とも、確かにその存在を信じている。だからこそ、こうやってまた相まみえることができたに違いない。

「神様。生きづらかったこの世界を、生きやすい世界に変えてくれてありがとうございます。……心と体をアンバランスにしてくれたこと、今は感謝しています。これからも努力していきます。だから、一秒でも長くこの幸せが続くようにしてください。お願いします」

神社の神木しんぼくを見上げ、祈りを捧げる。それを見た三人も同じように祈る。神社の境内に生えた木々、そしてここに棲む神様が、おれたちの祈りに応えるかのように優しく揺れた。

おれたちは四人で新しい時代を切り開き、新しい性感覚を持って生きていくんだと、胸に強く誓った。



あとがき:

今回の登場人物は愛のカタチ」「愛のカタチ・サイドストーリーの主人公たちです。彼らのことが本当に大好きで、クロス×クロス執筆時も彼らのその後を描きたいと思っていました。上記作品のアフターストーリーとして、また一編の小説として楽しんでいただければ幸いです。もし気に入っていただけましたら、本編の長編小説もあわせて読んでみてください(^-^)

大事なお知らせ:

完結小説は随時、Kindleにて有料販売の予定です。それに合わせてnote投稿分も有料化を検討しています。

たくさんの方に読んでいただきたくて無料で投稿してきましたが、そろそろ「作品」として世に出したいという気持ちも出てきたので、そのような方針転換をさせて頂きたいと思います。

なお、連載中の作品については引き続き、無料で読めるようにしますので、いろうたの作品が気になる! という方は、定期的にチェックして頂けると嬉しいです!

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いろうた@「今、ここを生きる」を描く小説家
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