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【ショート小説】女装男子の小さな夢 ~「クロス×クロス」番外編~

橋本塁オレの小さなくわだて。それは「男子高生のスカート着用可」を実現することだ。

恋人・ミーナの学校の文化祭で行われた美人コンテストに女装で出たら男のオレが優勝しちゃったり、彼女の呼びかけがきっかけで、女子校の制服としてスラックスが許可されたりと、オレを取り巻く環境は日を追うごとにジェンダーレスになりつつある。にも関わらず、だ。誰も「男子の制服にスカートを……」とは言わない。そこに疑問を感じたことがきっかけだった。

まぁ、男であえてスカートを穿きたいと願うのは、心と体が不一致なやつか、オレみたいな変わり者くらいだろうが、それでも「校則で決められているから」と言う理由で心的苦痛を受ける人がいるのなら問題だし、場合によってはミーナのように校則を変えるための行動を起こす必要もあると思ったのだ。

クラスに「変わり者」がいる。名前はあらし。名前と真逆で性格は温厚かつガリ勉。友だちらしい友だちもいない様子で、休み時間でも机に張りついているようなやつだ。オレを含め、みんな単に勉強が好きだから一人でいるんだ、と思っていた。でも、違った。

橋本はっしーと一緒にスカートを穿いてみたい」
 嵐は突然、そう話しかけてきた。

「M女子高の文化祭で観たんだ、はっしーの女装を。実は僕……トランスジェンダーなんだ」

「なるほど。それでスカート、か……」

その日の放課後、嵐と初めてまともにしゃべった。にもかかわらず、嵐はこれまで誰にもしたことのない自身の性向を話してもくれた。聞けば美人コンテストでのオレのパフォーマンスに感動したからだという。こいつならきっと、自分のことをわかってくれるはず、と。

「僕は女の子になりたいんだ。でも、周りの目が気になっててずっと男であろうとしてきた。でも、はっしーの姿を観たら我慢しなくていいんじゃないかって。はじめてそう思えたんだよ」

「まさかオレの女装がこんな形で人に影響を与えるなんてなぁ。よおし。それじゃあ、いっちょ、やってやるか!」

これまで人に頼られることなんてなかった。そんなオレが今、頼られている。たとえ趣味の女装であっても、オレの行動が一人の人間に勇気を与えたのならこんなに嬉しいことはない。

オレは嵐と話をすり合わせ、早速翌日からスカートで登校をすることに決めた。

男子が、スカート。目立つどころの騒ぎではなかった。オレは目立つのは大歓迎だが、問題は嵐の方。これまで全くの日陰で過ごしてきた人間が、よりにもよってクラス一目立ちたがり屋のオレと同じ格好で現れたのだから当然だ。一部の女子に至っては気持ち悪がってさえいる。
 
あの嵐がスカート?!
橋本にそそのかされて血迷ったのか?!
それとも、もとから……?

様々な噂や憶測が飛び交う。それだけならまだいいが案の定、朝のホームルームが終わると、二人揃って担任に呼び出された。

担任は端からオレを疑った。
「橋本に強制されてのことなのか? もしそうだとしたら、すぐにでもやめなさい。周りにも悪影響を及ぼす恐れが……」

「いいえ。僕から誘いました。一緒にスカートを穿いて欲しいと。彼を責めないでください」

「まさか……。しかし、どうして……?」

嵐は包み隠さず、堂々と自分の性向を語った。先生は驚きを隠せない様子で、しばらく黙り込んでしまった。

「……橋本は知っていたのか?」
 ようやく口を開いた先生は嵐ではなく、オレに問うた。

「昨日初めて聞きました」
 即答すると、先生はますます驚いた。

「えっ……。なのに、一緒にスカートで登校を? 抵抗は……なかったのか……?」

「全然。先生、男だってボトムスを選ぶ権利があったっていいでしょ? 嵐はただ、心が求める服装がしたいってだけ。それのどこが問題なんっすか?」

先生は目を丸くした。
「……橋本、お前は本当に立派なやつだな。話は分かった。校長に相談してみよう」

☆☆☆

それから幾日も経たないうちに、嵐は女子の制服を着て登校するようになった。一度、中身が女と知れたら、女子の方も心を開いて嵐のことを少しずつ受け容れようとし始めている。女子と談笑する嵐は実に楽しそうだ。

「よかったな」

「ありがとう、はっしー。本当にありがとう」
 嵐は何度も礼を言った。

「ねえ、はっしーも女子の制服を着ようよ。女装、趣味なんでしょ?」

「あー、そりゃあそうなんだけど……。まぁ、気が向いたらな」
 嵐の誘いを丁重に断る。

オレはただ、嵐の願いを叶える手伝いがしたかっただけ。それと、穿きたいとき自由ににスカートを穿けたらいいな、と思って行動したに過ぎないのだ。

あの日以降、担任の考えも変わったようだ。今後、嵐のようなやつが入学してきたときのために、男女にかかわらず制服を選択できるよう学校側に相談するという。今三年生のオレが在学中には難しいだろうが、近い将来、後輩が好きな服装で登校できればいいなと本気で思う。



あとがき:

こちらのショート小説は、先日完結した長編小説「クロス×クロス」が元になっています。

執筆の予定はまったくなかったのですが、連載していたものを一本にまとめたり、あらすじを書いたりしている最中に、フォロー中のnoterさんの記事が目に留まり、今回の内容で物語を書こうと思い立って一気に書き上げました。

本編では男性主人公・橋本塁の学校シーンを描かなかったので、こんな一場面があってもいいよなあという、作者の勝手な想いも込められています。初めての方も、常連の方も楽しんで読んでいただけましたら幸いです🥰
※なお、こちらの小説はフィクションですので、あらかじめご了承の上、お楽しみください。

最後に、「クロス×クロス」のような性差別のない世の中が現実のものとなりますように🥰

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