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【連載小説】#13「クロス×クロス ―cross × clothes―」重なり合う心と…

前回のお話(#12)はこちら

前回のお話・・・
美人コンテストで、ミーナはモネたちに敗れて惜しくも二位。しかし、やりきったミーナに後悔はなかった。
一方の塁はなんと、一般の部で一位。そして、あろうことかモネたちを圧倒する得票で「ミスM女」に選ばれてしまった。
結果に怒りだしたモネに対し、ミーナが淡々と事実を突きつける。打ちのめされたところで塁から「ミスM女」の称号を譲ると言われたモネは、悔しさのあまり泣き崩れたのだった。

・・・今回は、塁が言えなかったあの言葉の「続き」が明らかに! ぜひ最後までご覧下さい(*^O^*)


「裏切られた……! あの三票があれば俺が一位だったのに……! くそっ……!」

「ミスM女」発表後、オレのそばにやってきた廉は恨みがましくそう言った。どうやら、お付きの元野球部の女子たちが約束を破ってオレに投票したらしい。悔しがる廉の後ろで、女の子たちはクスクス笑っている。

「飯村くんって、からかい甲斐があるよね。まさか、あたしたちが本気で自分を推してくれると思ってたなんてね」

「ホント、びっくりだよー。綺麗にしてあげた分それなりに票も稼いだっぽいけど、アタシたちの中ではイマイチっていうか……。橋本君の方がずっと面白かったし、魅力的だったよね。思わず投票しちゃった」

「それに私たちは、K高初の女子部員だった伝説のマドンナ、春山詩乃はるやましの先輩に憧れて野球をやってきたんだもの。ミーナさんのすっぴんで勝負する姿にも感動したっていうか、私たちに通ずるものがあったよね。格好良かったなあ。あ、ちなみにミーナさんにも一票入れてます!」

「き、君たちにはいつも俺の手作り弁当を食べさせてあげてるじゃないかっ!」

「ちょっと褒めたらこれだもんねぇ……。そんなんで餌付けしたつもり? 困るわぁ」

「…………!」

廉の、部内での立ち位置が見える会話を聞いて笑い転げそうになる。でも本当に笑っちまったらさすがに失礼だろうと思って我慢する。なのに、廉の怒りの矛先はオレに向く。

「お前もお前だ! いつからミーナさんと恋仲になった?! あの晩はまだフリーだったはず……。よりにもよってステージ上で堂々と彼女宣言するなんて……。あり得ないだろう……!」

「男と女の仲なんて一晩で変わるもんだぜ。本気でミーナを口説けると思ってたの? 廉はもっと、女のハートを掴むテクニックを身につけた方がいいぜ?」

「くぅっ……!」
 廉は歯を食いしばる。

「なんでお前みたいな不真面目なやつが人気者なのか……。これじゃ、真面目にやってる俺が馬鹿みたいじゃないか……!」

「オレはオレのやり方で一生懸命生きてきただけだよ」
 そう言うとやつは息を呑んだ。

「……今度こそはお前より目立ってやろうと思っていたのに、残念だ」

「また挑んでこいよ。オレは逃げずに待ってるぜ」

「ああ……。その言葉、忘れるなよ」

廉は唇を噛みながら去って行った。その後ろ姿を目で追いながら思う。オレだって、何でもできるお前を見ては悔しい思いをしてきたんだ。だからお前みたいな能力を持ってない分、目立って目立って人気者になって……。結果、意中の女を振り向かせられたっていいじゃないか。オレにもそのくらいのご褒美がなけりゃ、不公平じゃないか。

***

ミーナ

「ミーナ先輩ー! 最高のショーでした!」
 飯村くんと入れ違うように現れたのは里桜だった。満面の笑みでハグされて戸惑う。

「あんたは私のこと、嫌いになったんじゃ……?」

「お兄ちゃんと付き合う気がないと分かっただけで、あたしの気持ちは先輩に戻ってきますよ! たとえ彼氏さんがいると分かっても、です。あっ、お兄ちゃんを負かしてくれてありがとうございました!」

里桜は隣にいた塁に礼を言った。
「ま、当然の結果ってやつよ。……あっ、ちなみに廉が着てた服って、もしかして……?」

「それです、それ! お兄ちゃんったら、勝手にあたしの服を着たんですよ! もう信じられませんよね! 負けて当然ですよ! ……って、それを言いに来たんじゃなかった!」

里桜はそういうなり、私の両手を取った。

「いいお知らせがあるんです! というのも、先輩の演説があまりにも格好良すぎたんで、先生もスラックス導入を前向きに考えてくれるそうなんですよ! 生徒会でも、さっそく署名運動をするって聞きました!」

「えっ、もう?!」

「それもこれもみんな、先輩のおかげです! ……ああ、それと、保護者の中にも、署名運動に協力して下さる方がちらほらといるみたいですよ」

里桜が指さした方を見ると、保護者らしき男女が何人か集まっていた。その中の一人に見慣れた顔がいて目を疑った。

「……お義母ゆりこさん。なんで……?」

思わず駆け寄る。私に気づいた義母は逃げ場を求めたが、周囲の人にはばまれてしまった。

「ここで、なにしてるの……?」
 私の問いかけに、ゆり子さんは恥ずかしそうにうつむいた。

「……ミーナちゃんを見に来たのよ。そしたら……感動しちゃって」

「えっ……」

「この前言われたことについてずっと考えていたの。それで今日、文化祭を見に来たのだけど……。ミーナちゃんの言葉、胸に響いたわ。改めて、私が間違っていたと思い知らされた……。本当にごめんなさい」
 そう言って深々と頭を下げた。

「……私、誤解してた。女のミーナちゃんが男の服を着るなんて悪趣味だって、そういうふうにしか考えられなかった。でも、ミーナちゃんや恋人さんの本気度を目の当たりにしたら、これまで信じてきた『らしさ』がいかに凝り固まった考えだったか、よーく分かったのよ」

「ゆり子さん……」

「そういうわけで微力ながら、ミーナちゃんが目指しているスラックス導入のお手伝いさせてほしいの。……これでも、あなたのお母さんだもの」

「……ありがとう」
 まさか、校則を変えるためにした行動で義母の考えまで変えられるとは思っていなかった。予想外の効果だ。

「よかったですね、先輩!」
 そばに来ていた里桜が言った。塁も笑顔で私の頭を撫でる。

「結局、すべてはミーナの思惑通りに事が運んだのかな。いろんな人が、ミーナの行動や発言に影響を受けた。オレもその一人。ミーナ様々さまさまだな」

「ううん。塁や純さんたちのおかげで私は変われたの。もし再会できなかったら、私だってここまで行動できなかった。感謝するのは私の方だよ」

「……そう考えると、お前があのとき兄ちゃんを『キモい』って言ったのも、それを機に一度別れたのも必然だったんじゃないかって気がするな。最終的に、全部がいい方に繋がるための布石だったっていうか」

「そうだね、きっと。……ありがとう、塁。私をまた好きになってくれて。これからもよろしくね」

私が言うと里桜がキャーキャー騒ぎ出し、義母も「若いっていいわねえ」と微笑んだ。言われた塁は赤面している。

「……そういう台詞は二人だけの時にしてくれよなあ。目立ちたがり屋のオレだって、人前でそんなふうに言われたらハズいぜ……。って、おい、ミーナ……?!」

照れる塁に寄り添う。
「いつだったか、純さんが言っていたよね。好きな人にはいつでも甘えたいって。だから私も、恥ずかしがらずにこうする。いいでしょう?」

今日はあれだけ目立つことをしたのだ。恋人同士なら、たとえ校内であっても、人目があっても、もはや気にならない。

「あー……。悪い影響を与えちゃったかな……。ま、いっか。何せお前は、オレの影響を受けながら生きていきたい女だもんな」
 しゃーねーなぁ。頭を掻きながらも、塁は寄り添った私をぎゅっと抱き寄せてくれた。

***


 
 ミーナの下校を待っているうちに太陽は沈んでしまった。月のない、澄んだ夜空に星が輝きはじめている。

いつまでも女装じゃさまにならないんで、本来の姿に戻って待つ。正門前でしゃがんでいたら、ようやくあいつが姿を現した。ミーナも、校則で決められた制服に戻っている。

「ずいぶん待たせちゃってごめんね。校則を変えるための話し合いが長引いちゃって」

「いいってことよ。じゃ、帰るか」
 立ち上がり、さっとミーナの手を取る。

「うわっ、冷たーい!」
ミーナはそう言って、オレの冷えた手と自分の手を制服のブレザーのポケットに突っ込んだ。
「カイロ、持ってくればよかった……。この時間は冷えるね」

「そうだなあ……」

返事をしたオレは半分、上の空だ。ずっと、言おう言おうと思っていたことを告げるタイミングを窺っているせいだ。

M女子高の最寄り駅までのわずかな道のりでは、冷えきったオレの手は温まりそうにない。それどころか、ミーナの手も次第に冷えてくる。なのに身体の中心は、心臓が強く脈動しているせいか、妙に熱い。

足を止める。人気ひとけのない路地。辺りはしんと静まりかえり、心臓の音しか聞こえない。

「……どうしたの?」
 立ち止まったオレにミーナが問うた。

「ひとつ、言ってないことがある」

「ん?」

「ミーナより上位になれたらその時は……の続き」

「ああ……。それ、ずっと気になってた」
 ミーナはポケットから手を引き抜き、オレを正面から見つめた。

「なんて言うつもりだったの?」

見つめるその目には期待と不安がこもっている。今更、恥ずかしいはずはないのに、なぜだろう。用意していた言葉がすぐに出てこない。

「塁?」

小首をかしげるミーナが愛おしすぎる。そのせいで、言おうと思っていた言葉を告げる前に唇を重ねてしまう。

異装はオレたちを変えた。だけどやっぱり、オレは男でこいつは女。その事実だけはどうしたって変えることができない。

「……ミーナの身体が知りたい。お前のすべてを感じたい。独り占めしたいんだ……」

そう。これがオレの想い。オレの脳みそが求めてしまうことだ。どんなに見た目を変えたってオレは女を求める。愛するミーナを。

彼女は、はにかんだ。
「私の服を着るだけじゃ満たされないって、そういうことかぁ……」

「……オレはお前の、身体の熱を感じたいんだよ」

「……塁って、そんなに大胆な台詞を言う子だったっけ?」

「……オレも大人になったんだ」

「……そっかぁ」
 そう言って目を伏せる。
「分かった。塁、頑張ったもんね。だけど……」

「だけど……?」

「関係を深めることを焦らないで。私はもう、一時いっときの感情に振り回されたくない。……大人になったというのなら、自制することもできるよね……?」

悔しいけれど、ミーナの方がずっと大人だと思い知る。そうだ、オレたちは二度目の付き合い。燃え上がる感情そのままに突っ走ってはいけない。それをしてしまったらまた同じ結果を生んでしまう。

「まったく……。お前がこんなにも変わっちまうなんてなぁ。……オーケー。その気持ち、大事にするよ。オレだって、今度こそ長く付き合いたいからな」

「……よかった」
 ミーナは心底ホッとしたように息をついた。

「……ねえ、塁。今度一緒に服を買いに行かない? お互いに、着て欲しい服を選ぶの。もちろん、男女逆の。で、それを着て街を歩くの。楽しそうじゃない?」

提案するミーナの顔は、今からその場面を想像しているかのようだった。オレも想像してみる。見た目だけで言えば、本当に入れ替わっちまったみたいなオレたちの姿が目に浮かぶ。

「あー、そろそろ街もクリスマス仕様になってくるしなあ。お前が男の、オレが女の格好でデートするってのはありだな。それでどこかのレストランに入ったらどんなふうに見られるか……。考えただけでワクワクするぜ」

「うんうん! ……あっ、純さんたちも誘いたいな。二人からは長続きする恋愛について学びたいし」

「えー? オレは二人きりがいいんだけど……」

とは言ったものの、兄ちゃんとかおりさんがミーナに与えた影響は大きい。話を聞けば彼女はもっと変化するだろう。もちろん、いい方に。

「しゃーないなぁ。一回だけなー。そのかわり……今日はとことん一緒にいさせてくれよ」
 返事も待たずに抱きしめる。ぎゅーっと、強く、強く。

「ミーナのすべてが好きだ……。ミーナのためならオレは変わる。何だってする。……オレの人生にもミーナが必要だから」

「ありがとう、塁。私も大好きだよ。これからも一緒に成長していこうね」

ミーナの唇がオレに触れる。その柔らかさを感じるだけで脳みそがとろけそうになる。肉体の感覚さえなくなって、魂だけになっていく。オレはオレとして、ミーナはミーナとして……。求め合う心に男や女は関係ないと知る。混じり合う魂の温かさを感じながらキスをする。何度も、何度も……。


(続きはこちら(#最終話)から読めます)


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