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【連載小説】#12「クロス×クロス ―cross × clothes―」真の勝者

前回のお話(#11)はこちら

前回のお話・・・
いよいよ美人コンテストがはじまった。
出場直前、きらびやかなモネたちを見たミーナは「美人とは何か?」と再考する。そしてコンテスト出場の目的を思い出して化粧を落とし、すっぴんでステージに立つ。
一方の塁は自分全開。男であることを真っ先に公表し、笑いを誘って最高に目立つパフォーマンスをしたのだった。

・・・今回はついに結果発表! 長文ですが、ぜひ最後までご覧下さい!

文化祭の午前の部が終了し、昼休みになったところでミーナと合流した。中庭に生えた木の下で待っていたあいつのすまし顔は、化粧などしなくてもやっぱり美しかった。そして、オレに気づいて微笑んだ顔は本当にかわいい。頭をガシガシッと撫でてオレなりの愛情を表現する。

弁当を広げ、食べながら互いの感想を言い合う。

「ミーナがステージで歩いてるところ、ちゃんと見たぜ。すっげえ歓声だったじゃん。ありゃあ、兄ちゃんのブログのファンも見に来てるって感じだったな。オレ的には一番盛り上がってたと思うけど。なあ、なんで化粧しなかったの? それが聞きたくて」

オレが問うと、ミーナは少し恥ずかしそうにうつむきながら答える。

「モネたちの姿を見ていたら、あんなふうにお化粧して素顔を隠しちゃうのは私の目指すところじゃないなって気づいて。美人コンテストの主旨からは外れちゃったかもしれないけど、私はあれで良かったと思ってる。……塁にはこの笑顔がかわいいって褒めてもらってるしね」

「そうそう、ミーナはやっぱりこの顔じゃないと! オレは嬉しかったぜ」
 先日は甘やかしすぎだと言われたが、それでも褒めずにはいられない。

「なぁなぁ、オレの時はどうだった?」
 今度はオレの感想を聞く。ミーナはすぐに「ぷっ……!」と吹き出した。

「最っ高に目立ってたよ。あの場にいた全員の記憶に残ったんじゃない?」

「マジー? そんなに目立っちゃった?」

「そりゃあ、登場するなり男アピールするし、『あんなこと』は起きるし……。塁の前に出た美女の記憶を吹き飛ばしたんじゃないかな」

「あっ。あんなこと、と言えば……」
 おもむろに胸に手を突っ込んでミカンを取り出す。

「これ、食べる?」
 差し出してみたが、嫌そうな顔で拒まれた。

「……それよりあれだ。廉が思った以上にキメてきたのには参ったな。ちょっとなめてたよ」
 話題を変えると、ミーナは表情を変えてうなずいた。

「私も見た! まるで女の子だったよね。びっくりした」

「ああ。オレがずいぶん苦労して会得した内股歩きも完璧にこなしてたし。女装なんて……って言ってたけど、ホントは今までもこっそりやってたんじゃねえかな? 疑っちゃうよ」

その時、女の子……いや女装をした廉が、オレたちの話を聞いていたかのように現れた。背後には本物の女の子が三人控えている。やつは勝ち誇ったような顔で言う。

「ミーナさん、俺のステージを見てくれてたみたいで嬉しいよ。実は今回の出場にあたっては、後ろにいる元野球部の女子たちに協力を依頼しててね。おかげさまでこの完成度さ。優勝は俺で間違いない。そのくらい、自信があるよ。もう、塁のことなんて放っておいて、今からでも俺と付き合ってくれると嬉しいんだけど」

こいつ……! 憎たらしい顔をぶん殴ってやりたくなったが、冷静なミーナに制される。

「結果が発表されるまで私は返事をしないよ。それに、こっちだって自信はあるんだから」

「へえ? その素顔で出たというのに?」

「残念だなあ。飯村くんには、私の素顔の美しさが分からないなんて」

ミーナが堂々と言い放つと、廉の背後にいた女の子たちが感心したように声を上げた。それを聞いて廉が彼女らを睨み付ける。

「……まあ、ミーナさんがどう思っていようが、結果は決まったようなものだと思うけど。あとでその美しい顔にキスができるのを楽しみにしているよ。それじゃあまた後ほど」

廉も廉でキザな台詞を言い残して去って行った。あいつの背中に向かってあっかんべーをする。ミーナの方は「ううっ……」と身震いする。

「付き合うと決まってもないのにあの台詞。あの自信。すごいね、彼」

「あれが飯村廉って男だよ。……まさか、女の子を引き連れての参戦だったとはな。……でも、真面目な話、どうするつもりだ? 万が一、あいつが優勝しようものなら……」

ミーナのことは信じているが、約束は約束。拒んだところで、あいつが強引に言い寄って来る可能性は充分ありうる。しかしミーナはオレの背中をバシッと叩く。

「塁! あれだけ目立っておいて自信がないの? 目立つことなら何でもやってきた橋本塁が、最高のパフォーマンスをしても負けるって思ってるの? 私だって、ベストを尽くしたって言うのに!」

その目がまっすぐにオレを見ている。ちょっとでも後ろ向きになった自分を恥じる。

「まさか。オレはオレのすべてを出し切ったよ。負けるなんてこれっぽっちも思ってない。ただ……評価するのは観客だからな」

「……そうね。今日来てくれたお客さんがどう判断するか。それが鍵だよね」

そう言ってミーナは、すでに終了した美人コンテストの特設ステージを見やった。オレもそちらに目を向ける。

会場脇に設置された大きなパネルの前には未だ、たくさんの人が集まっている。「この人こそは!」と感じた美人の番号にシールを貼ってもらい、校内の部と一般の部、それぞれの一位のうち得点の高い方を「ミスM女」に決めるという。

人だかりのせいで、現在何番が一位なのかは把握できない。それに、途切れることなく集まってくる人を見る限り、集計作業にも時間がかかりそうだ。食べ終わった弁当を片付けながら問う。

「このあと、どうする?」

「私は各クラスの出し物を見て回ろうと思ってる。一緒に行こうよ。女子高の文化祭なんて、はじめてでしょ?」

「そうだな。……って、この格好でか?」

「うん。目立った分、票を稼げるかもよ?」

「おっ?! その発想はなかった! ミーナも目立つための極意が分かってきたな」
 そう言うと、ミーナは嬉しそうに笑った。

***

ミーナ

美人コンテストに出場したあと制服姿になってしまうM女生が多い中、私はあえて「勝負服」のまま午後の文化祭を楽しむと決めた。しかも一緒に見て回るのは、女装している塁。どこに行っても目立つというわけだ。

あのステージで自分らしい表現ができた。それが自信になったのは言うまでもなく、人から注目される快感を知ってしまった今となっては、むしろ塁と一緒にいる方が好都合だったりする。それに、私を見る人が増えれば増えるほど服を知ってもらうチャンスも増えるし、異装に対する見方だって変わるはず。

きゃー! 生ミーナさんだ! 写真撮らせてください!
その服、素敵ですね! どこで買えますか?
ステージ、最高に格好良かったです! ちゃんと投票しました!

思惑通り、ただ校内を歩き回っているだけであちこちからお声がかかる。そのひとつひとつに応じていく。

(私にはこれだけのファンがついている。絶対、大丈夫……!)

確信を抱いたところで、まもなく美人コンテストの結果発表が行われるとの校内放送が入る。大勢の人の波に乗って私たちもコンテスト会場に向かう。

☆☆☆

「長らくお待たせいたしました。ただいまより、第一回M女子高美人コンテストの結果発表を行います!」

司会進行を務めるクラスメイトがそう告げると大きな拍手が起きた。会場には「出場者びじん」と観客とが入り交じっている。すでにものすごい熱気だ。私と塁は手を繋ぎながらステージをじっと見据える。アナウンスが続く。

「今年初めての開催にもかかわらず、内外からたくさんの美女がエントリーしてくださいました。皆様が厳しい目で審査して下さったお陰で上位は大接戦。わたしたちも何度も得票を数え直し、ようやく一位を決定することができました。さあ、えある『ミスM女』は誰なのか?! いよいよ発表です!」

司会者が、手に持っていた紙をゆっくりと開いていく。もったいぶるように何度もうなずき、周囲を見回してからマイクを口に当てる。

「まずは校内の部から。大混戦の末、一番票を集めたのは……

……
……
……

エントリーナンバー20、モネさん率いる『チーム・ダイヤモンドスター』です! おめでとうございます!」

名前を呼ばれたモネたちは大はしゃぎでステージに上がった。モネが代表でインタビューを受けながら、一位の記念品や冠などを受け取っている。

力及ばず、か……。素直に負けを認め、彼女らに拍手を送る。

「……お前じゃなかったな」
 塁がぽつりと言った。

「まあ……。この格好だし。後悔はしてないよ」

「……オレは納得できないなあ」

「私は塁が褒めてくれたから、それで充分」

強がりでも何でもなかった。ただ一つ心残りがあるとするなら、応援してくれた純さんのブログのファンの期待に応えられなかったこと。それだけは申し訳なかったな、と思う。

一位を受賞したモネたちがステージの奥に移動して次の発表を待つ。

「続いて、一般の部の発表に移ります。こちらも大接戦で、一位と二位の差はわずかに三票。その、三票差で一位の座を手に入れたのは……

……
……
……

エントリーナンバー30、橋本塁さんです!」

「えっ?! ……マジで、オレッ?!」

***

確かに自信はあった。あったけどまさか、本当に一位になるなんて……。こんなできすぎた話があっていいのか?!

「ほらっ! 人生で一番、目立っておいで!」
 戸惑っているとミーナに背中を押された。

「よぅし!」

気合いを入れ直し、胸を張ってステージに向かう。舞台に上がると、会場から大きな歓声が上がった。それに応えるべく、笑顔で何度も手を振る。ここは見た目通りのかわいい女の子を演じることにしよう。

「見事に僅差を制した、橋本塁さんです。おめでとうございます!」

「ありがとうございますぅ!」

「わたしもステージを見てたんですが、カンペキな女装でびっくりしました。今、間近で見ても綺麗ですね! 普段からメイクの練習はしてるんですか?」

「ご想像にお任せしますっ!」
 はぐらかして微笑んだら、笑いと歓声が同時に聞こえた。

「もしかして、服もコンテストのためにご自分で用意を? 気合いが違いますね!」

「あー……」

 居もしない姉妹から借りたとか、古着屋で調達したとか、適当に理由を付けることはできる。けど、ここだけは下手な演技でごまかしたくなかった。
 
「服は……彼女に借りました。あの……ここに呼んでもいいっすか?」
 彼女?! 恋人からの借り物?! ヒューヒュー! 再び会場が騒がしくなる。

「どうぞ、どうぞ! 橋本塁さんの彼女さん、会場にいらっしゃいます?」

司会が言うと、観客の間からモデルのように美しいウォーキングでミーナが姿を現した。驚いた司会者が彼女を指さす。

「ええっ!! この人の彼女ってミーナなのっ?!」

「そっ。美人コンテストで唯一、すっぴんつスラックスで出場した子がオレの彼女でーす!」

ミーナの登場で彼女を知る人は皆、唖然としている。司会者も開いた口が塞がらない様子だったが、仕事を思い出したのか進行を再開する。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……? 確か彼女の順位は……二位。二位です! 一位、三位がきらびやかな衣装や化粧で出場する中、一人で挑んで堂々の二位。それも、一位とはわずかに10票差。もし、彼女がお化粧をして臨んでいたら一位だった可能性も充分あったのではないでしょうか……! いやあ、実に惜しい」

「そうかなあ? オレは、すっぴんの女の子の方が綺麗だと思うけど?」
 そう言ってミーナの肩を抱き寄せると黄色い声が上がった。

「ちょ、ちょっと、塁……!」
 恥ずかしがるミーナが小声でオレの名を呼んだが気にしない。

「うわぁ! 羨ましいなあ、もう! ……さあ、皆さん。まだコンテストの結果発表は終わっていませんよ! お待ちかねの『ミスM女』の発表が残っています! 今お呼びした、『チーム・ダイヤモンドスター』と橋本塁さんのうち、得票の多かった方が『ミスM女』となります。皆さん、心の準備はよろしいですか?」

大きな拍手が沸き起こる。それを聞いて司会者が満を持して発表する。

「それでは参りましょう。第一回M女子高美人コンテストで最も票を集めたのはこちら……!」

ドラムのBGMが緊張感を生む。
しがみつくミーナの肩を強く抱く。
司会者が大きく息を吸い込む。


「……橋本塁さんです!! なんとなんと、『チーム・ダイヤモンドスター』を圧倒する得票数での一位! 改めて、おめでとうございます!」

ウ・ソ……。
マ・ジ・で……?
本当に、オレ……?

「ちょっと、その紙見せて」

司会者から、結果が書かれているであろう紙をぶんどる。そこには確かにオレの名があり、校内の部で一位だったグループの1.5倍、票を集めたことになっていた。

「こっちにも見せなさいよ!」

後ろに控えていた、校内一位グループのリーダーらしき女が大股でオレのそばにやってきた。破れんばかりの力で紙をもぎ取られる。いや、事実を目の当たりにした女は本当に紙を破り捨ててしまった。

「大体この人が……このが『ミスM女』ってどういうことなの? 本物の女が化粧をした男に劣ってる? そんなはずないじゃない! それに、二位のミーナと10票差って言うのも納得できない。美人を決める場なのに、どうしてこの、、ミーナがそれほどまでに票を集めるというの? 何かが間違ってる!」

憤怒ふんぬの言葉を聞き、オレとミーナは顔を見合わせた。
呆れるしかない。
「……何だか昔の私を見てるみたいで恥ずかしいよ」

「あー、確かに。女はこう、男はこうって決めつけてる発言が時代遅れっつーか……」

「うーん……。こんなふうになったモネはなかなか止められないんだけど……。ここは私がやるしかないか……」

 ミーナはそう言うと、いきり立つ女の前に進み出た。

***

ミーナ

「勝負はステージ上で……とは言ったけど、まさかこんな形ですることになるとはね」
 私は皮肉を込めていった。

「どうして彼が圧勝できたのか。その理由を教えてあげる」
 冷淡に告げると、モネは目を三角にして迫ってきた。

「なんですって……? そんなもの、あるわけないじゃない……!」

「あるよ。彼とあんたには決定的に違うところがある。それは美への思い、ユーモアのセンス、そして何より異装にかける情熱度よ。

あんたはただ私に勝ちたくて派手な服を着たりメイクしたりしたんでしょうけど、彼は異装そのものを楽しんでるし、見る者を楽しませることも出来る。だからお客さんたちは彼に惹きつけられたの。

……そう。劣っているのは外見じゃなくてモネの心の方。得票の差はそれなんだよ」

静まりかえった会場で私の声だけが響いた。唇を噛むモネをよそに、観客から拍手と声援が届く。このままでは引き下がれないとばかりにモネが反論する。

「じゃあ……。じゃあミーナの方は……?! あんたは目立ったパフォーマンスもしなければ、スカートを穿いてもない。女らしさのかけらもない格好で出たのにどうしてあたしたちに次ぐ順位だったというの?!」

「それは……」
 口を開きかけたとき、会場中が私の名を呼ぶ声や手拍子に包まれた。

「何ごと……?」
 混乱しているモネに向かってはっきりと言う。

「私には性別を超えて応援してくれる人がいる。スラックス導入を訴えて欲しいと願う人たちがいる。だから私は二位になれたんだよ。

それにね、私の目的は女子高生でもスラックスが似合うんだってことを証明すること。そしてこの衣装の素晴らしさを伝えること。私がどんな想いでこの衣装を着ているか、モネには分からないでしょうね。

もう、服装で男女を区別する時代はおしまい。女だけがメイクをする時代もおしまい。みんな自由にファッションを楽しめばいい。私や彼のように」

再び大きな拍手が起こった。塁がそばにやってくる。
「さすが、オレが惚れた女だ。サイコーに格好よかったぜ!」

「塁もね。だって、『ミスM女』だよ? 今日集まった誰よりも美人って、すごいことだよ!」

「……いやあ、それなんだけど、本当にオレでいいのかなあって」

「うん?」
 小首をかしげると、塁は困ったような表情をしてモネたちを見る。

「だってオレ、ここの生徒でもないし、ミーナより上になれた時点で目標は達成してんだよな。だから正直な話、『ミスM女』の称号はオレじゃなくて校内一位のグループが受け取るべきだと思うんだ。これならウィン・ウィン。話も丸く収まる。どうかな?」

「………! 女装で圧勝した男に譲られても、ちっとも嬉しくないんだからっ……! うぅっ……!」

モネは泣き崩れた。一緒に出た子たちが慰める。
「あたしたち、頑張ったよ。だから素直に『ミスM女』の称号を受け取ろう? ね?」
 それでも彼女の涙は止まらなかった。


(続きは後日公開予定。投稿は不定期です。)


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