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【連載小説】#11「クロス×クロス ―cross × clothes―」美人コンテスト

前回のお話(#10)はこちら

前回のお話・・・
「ミーナの服で勝負したい」といわれ、そこまでこだわるなら自分で好きな服を選んで、と提案、自宅に誘うミーナ。しかし塁はミーナの部屋でミーナの服に触れているうち、男としての気持ちを抑えきれずに押し倒してしまう。なんとか自我を取り戻した塁は、自分の本音を吐露する。それに応じる形でミーナも想いを打ち明け、互いの「好き」を確かめ合う。

・・・今回はいよいよ、美人コンテスト! どんな駆け引きが展開されるのでしょうか。続きは本編で(*^O^*)

ミーナ

モネは本気だ。本気で私に勝とうとしている。きっと秘策があるに違いないと思ってはいたが、まさかクラスの女子の半分を味方につけて集団でコンテストに出場してこようとは。

出場に当たっては、一人で出るのもグループで出るのも自由だ。グループで出る場合、一人ひとりの魅力は劣っても華やかさで勝負できる。モネはそれを狙っているのだ。

――ミーナがスカート廃止を訴え、伝統を壊そうとしている。みんなで反対しよう!

私の意見を誇張し、悪者に仕立てた上で仲間を募る姿を何度も見かけた。それだけならまだしも、私が認めた異装趣味まで利用して差別するような発言さえしているようだ。

モネのことは友だちだと思っていた。だけど、ひとたび嫌悪感や嫉妬心を持ったら最後、友情はひび割れライバル関係に発展する。勝っても負けても、私たちの関係はもう元には戻らないだろう。

モネだけじゃない。あんなに毎日押しかけてきていた里桜との関係も気まずくなっている。

「聞きましたよ、すべて。ひどいじゃないですか。よりによってお兄ちゃんと付き合ってもいいだなんて……! あたしのことはダメなのに、どうしてですかっ?! あたしが女で、お兄ちゃんが男だからですかっ! もう、先輩なんて大嫌いですうっ!!」

飯村くんと野球観戦をした翌日、朝一番で教室に乗り込んできた里桜は面と向かってそう言い放ち、それっきり姿を見せなくなっている。

こっちは明らかに私の失態。おそらく飯村くん自身が里桜に口外したのだろう。コンテストで優勝できたら、ミーナさんが俺と付き合ってもいいと約束してくれた、と。里桜が去ったあとで、二人が大げんかをしている姿が目に浮かんだ。冗談でも、あんな約束するんじゃなかった、という後悔の念とともに。

もし塁の告白がなかったら、私は完全孤立の状態でコンテストに出なければならないところだった。でも、大丈夫。私には塁がついてる。

そう、どんなに大変な状況に追い込まれても、なんとかなると思わせてくれるのが塁。今まで彼はそうやってすべてを乗り越えてきた。先日のように、何のためらいもなく二階から出て行ける勇気を持ってる塁を私も見習わなければならない。コンテストはもう、目前に迫っている。

***

結局オレは、ミーナの服の中から最もきわどい服――あれほど拒んでいたマイクロミニスカートと、胸元がV字に開いた長袖のニットにロングブーツ――で挑むことに決めた。それだけじゃない。胸元を強調する服を着るってんで、ミーナからブラも拝借し詰め物をして着る予定。完璧な作戦、優勝間違いなしだ。……って、これを考えてくれたのは兄ちゃんたちなんだけど。

向かうところ敵なし。オレほど入念に準備している奴はいないはず……。そう思って迎えた当日。M女子高の文化祭会場を訪れたオレは度肝を抜かれた。そこにいたのは、美女、美女、美女……。

「な……なんだよ、これ……」

たかが文化祭の美人コンテスト、と甘く見ていたオレは周囲のレベルの高さに目を見張った。いや、オレが劣っているとは思わない。だけど、圧勝できるほど簡単な闘いにはならないだろうことはすぐに分かった。

(えっ、この中に男が混じってたりするわけ? 廉もいるのか……? 嘘だろ……?)

ミーナは確か、年齢も性別も内外も問わず、参加可能だと言った。しかし、女になりきってるオレが言うのもなんだけど、こいつは女装してるなと思わせる人間おとこは一人も見当たらない。

(おいおい、話が違うぜ……?)

自信満々でやってきたはずが、こんなものを見せられては自信もしぼんでしまう。そうこうしてる間にコンテストは始まってしまった。

***

ミーナ

派手な音楽とともに、中庭に設置された特設会場で美人コンテストが始まった。はじめての試み、そして多くの人を受け容れての開催ということもあって会場は大いに盛り上がっている。果たしてどれほどの人がエントリーし、どれほどのレベルで競うことになるのか。結果次第では私の今後も左右されるだけに気になるところである。

ステージは校内の部と一般の部で異なる。それぞれ同時進行で行われ、午後には結果が発表されるらしい。もちろん私は校内の部にエントリーしている。ただ、エントリー表に連なった名前を見る限り強敵ばかり。そして一人で勝負しようという人間は私くらいのもの。自信はあるが、不安混じりの緊張も感じ始める。

(こんなとき、塁に励ましてもらえたら……)

彼が会場にきていることは確認済み。けれど、出場場所や時間が異なる上に、この人混みでは落ち合うのも一苦労だ。一人でドキドキしていると、きらびやかな格好をした「モネ軍団」が胸を張ってやってきた。モネは私を見るなり鼻で笑い飛ばす。

「あら、ミーナ。ずいぶんしょぼくれてるけど、大丈夫ぅ? ……ふぅん。その衣装で出るんだ? またまたおかしな格好ね。それで優勝を狙うつもり? それとも、はじめから勝負を捨ててるの?」

「は? 私は今、瞑想してたのよ。精神統一。あんたたちと違って、こっちは一人で勝負するんだもん。事前に心を落ち着かせておく必要があるのよ」

「何を強がっているんだか。ま、ミーナが何をしていようが、こっちには関係ないけどね。ああ、そうだ。この前言ったけど、ちゃんと服にアイロンはかけてきた?」

モネは様子を見に来たと言うより、ステージに上がる前に私の自信をなくしておこうと考えているようだ。「口撃こうげき」は終わる気配を見せない。私の方も口の悪さはモネに負けず劣らずなので、反論を続けていたらそれだけで日が暮れてしまうだろう。ここは一旦、私から引くことにする。

「モネ。勝負はステージ上でしようよ。本番の前に言い争って余計なエネルギーを使いたくはないでしょ?」

提案すると、モネはそれに対しても反論しかけたが、取り巻きが「ミーナの言うとおりだよ」と制したので口をつぐんだ。

「……ミーナのワンマンショー、楽しみにしてるわ」
 行きましょ。モネはやってきたときと同じように胸を反らしながら去って行った。

モネ率いる大集団を見送り終えて一息つく。あの容姿を見るにつけ、彼女たちの思い描く美人像は、女の性的魅力を強調したり、派手にメイクすることなのだと分かる。

私だって過去最高の厚化粧をし、朝から過去最高の「美人顔」を作ってきた。自信もある。でもモネたちを見ていたら急に「何かが違う」と感じた。

(美しいはずなのに。完璧のはずなのに。この違和感は何だろう? 何に引っかかるんだろう?)

その時、吹奏楽部の演奏する校歌が聞こえてきた。女たるもの良妻賢母であれ、気高くあれ、という内容の歌詞。これまで疑問を感じたことは一度もなかったけれど、脳内で改めて歌詞をなぞってみてハッとする。

塁と一緒に異装をするようになってからと言うもの、メイクは必須だと思い込んでいたことに気づく。確かにメイク次第では「美人」になれる。塁がいい例だ。だけど、私はメイクアップすることで「美人」になりたかったわけじゃない。

コンテスト出場の目的をもう一度思い返す。

私の目的は、私自身の美しさを見せびらかすことじゃない。女の身体を持った私でも、男性が身につけるようなスラックスを違和感なく穿けることを証明する。それが達成されればいいのではなかったか。

慌てて会場を抜け出し、水道で思い切り顔を洗う。コテコテに塗ったくった化粧があっという間に落ちていく。ウォータープルーフのマスカラを付けたマツゲだけはどうにもならなかったけど、ほぼすっぴんになった顔は、化粧をしなくたってちゃんと見られる顔だと再認識する。

(そうよ。だって、塁はこのすっぴんで笑った顔が好きだって言ってくれたじゃない。この顔に自信を持っていいのよ、ミーナ)

手洗い場に備え付けてある鏡に向かって笑いかける。散々練習した笑顔。そうだ、本当の美しさは内面からにじみ出てくるもの。そして今の私は、塁から愛されているという自信で満ち満ちている。だったら化粧でごまかさなくたっていいじゃない。

(見ててね、塁。素の自分で勝負する私を……。)

出番が迫っている。私は急いで会場に舞い戻った。

ちょうど、モネたちのグループがステージ上に登場したところだった。さっき見た、あの化粧で塗り固めた顔と、胸やおしりを強調したボディースーツみたいな衣装で統一された彼女たちは確かに美しい。でも、私は私の魅力やりかたで勝負する……!

彼女たちと入れ違いになってステージ脇にスタンバイする。チラリとモネと目が合う。驚くモネの顔を見て私はにやりと笑い、そのままステージに上がった。

***

聞いていた通りの順番でミーナがステージ上に現れる。一つ前のグループが、会場にきていた男性陣の視線を集めて大いに盛り上がる中、歩いてきたのはミーナ一人。それも、露出の少ないパンツスタイル。「あの子、女?」と、会場中がざわめき始める。

驚いたのは周りの人間だけじゃない。オレも目を疑った。予行演習では顔もバッチリ作り込んで完璧なまでに美しくしていたのに、今目の前にいるミーナはどう見てもすっぴん。いったい、何があった……?

しかし、観客の動揺など気にするふうでもなく、ミーナは笑顔を振りまきながら堂々とステージ上を歩き回る。自信たっぷりにウォーキングする姿は、次第に周囲の目を釘付けにし、どよめきが歓声に変わっていく。

ミーナちゃーん! こっち見てー!
キャー! こっちに手を振ってー!
写真より本物の方がずっと綺麗! 素敵!

そんな声が次々に上がる。そうか、ミーナは気づいたんだ。本当の自分の魅力に。美しさに。

思わず口元が緩む。化粧で整えた顔も綺麗だけど、いま目の前にいるすっぴんのミーナはもっと綺麗だ。そして何より、すっぴんになったことで身につけている服の良さが際立って見える。

一つ前のグループが肌の露出の多さで美しさをアピールしてきたのとは真反対。なのに、さっきまで鼻の下を伸ばしていた男たちも、今やミーナの、内面から輝く魂の美しさの虜になっている。

(うらやましいぜ、ミーナ。こんなにもたくさんの視線を独り占めにできるなんてよぉ……)

負けちゃあいられないな……。オレは盛り上がる会場で静かに闘志を燃やした。

***

ミーナ

どよめきが歓声に変わる瞬間も、観客の目が私に集中する様子も、ステージ上からすべて感じることができた。スラックス姿の私がどれだけ「美人」の票を集められるか未知数だけど、やることはやった。あとは結果を待つだけだ。

私のステージのあとで一般の部のコンテストに出る、と言っていた塁の姿を見るため移動する。本当に様々な年齢・格好の男女がエントリーしているようだ。私が会場に着いたときにはかなり年上の女性が、しかし年齢を感じさせない堂々としたウォーキングをしているところだった。

その女性が手を振りながら満足そうにステージを降りると、入れ違いになるように次の出場者が上がる。あれ? あの人、見覚えがあるような……。じっと目を凝らす。

(え? 飯村くん……? うっそ!)

私との交際をもくろみ、女装してこのコンテストに出ると宣言した彼。条件は優勝だから当然気合いは入っているだろうが、それにしたってレベルが高い。ぱっと見は女そのもの。にわか仕込みとは思えない完成度だ。

(誰かが指導なきゃ、あれほどまでには……。もしかして、里桜が……?)

私に向かって「大嫌い」と言った里桜なら、当てつける意味で兄の女装の手助けをする可能性もゼロとは言えない。しかしあの容貌。見れば見るほど「美人」に見えてくる……。

(もし、飯村くんが一般の部で優勝しちゃったら、私、彼と付き合うの……? 嘘でしょ?)

塁と一緒に出たいがために軽い気持ちでした口約束だが、里桜の件も含め、自分の浅はかな思いつき発言を呪う。こうなったら、塁に頑張ってもらうしかない。塁だって、いや塁こそ、ここ数ヶ月の間ずっと女装の技術を磨いてきたんだもの。それに、目立つことに関しては超一流だ。きっとなんとかしてくれるはず。

観客が大いに盛り上がる中、飯村くんがステージを降り始める。それを待たずにやってきたのは……。

(塁……!)

不安になっていた私の心が一気に跳ね上がる。いったいどんなステージになるんだろう? 固唾を呑んで見守る。ステージに立つなり、塁が元気よく手を振る。

「観客のみなさーん! 今日はオレのワンマンショーを見てくれてありがとう! 短い時間だけど楽しんでってねぇっ!」

そう言って会場に投げキッスをした。最初っから自分全開。彼らしいパフォーマンスに、周りの人たちはものすごく驚いている様子だ。

オレって言ってたけど、あの人、男?!
男であの格好?!
そういう職業の人が出てきちゃった?!

様々な疑問や憶測が飛び交う。気持ち悪がっている人も少なからずいる。が、純粋に彼の美しさを評価しようとする声も上がる。もし塁が「いの一番」だったらこうはならなかっただろう。観客の方も十人十色の「美人」を見てきたことで多様性を受け容れられる目になってきたのがわかる。

目立つのが大好きな塁。だけど、まさかのっけから地声で「男」をアピールした上で登場するとは思っていなかった。彼の想定通り、ものすごく目立っている。それが分かっているのか、塁もいい笑顔を向けている。

「声援、ありがとう! ありがとう!」

塁が両手を挙げてステージ上で飛び跳ねる。その拍子に、ブラに詰めていたミカンがぽろぽろっと落ち、観客が大爆笑する。

「うわっ、サイアク……」

まるで自分事のように思えて恥ずかしかったけど、そんなアクシデントも塁にとっては目立つための追加要素でしかないのだろう。ささっとミカンを拾って再び胸元に押し込むからさらなる笑いを誘う。さすがの私も苦笑いを浮かべた。

本当に短いステージ。だけど塁は宣言通り、最高に注目を集めて舞台を降りたのだった。


(続きはこちら(#12)から読めます)


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