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SS【水を求めて】


雨が降らなくなってどれくらい経つだろうか。

数年前の夏は馬鹿みたいに雨が降り、あちらこちらで道路が冠水していた。

まさか雨の降らない未来が待っているとは想像すらしていなかった。

それだけではない。

この国は今まさに侵略されている。


時折、乾いた大地に投下されるミサイルの衝撃は、ぼくたちの住んでいる地下世界にも伝わってくる。

地下神殿などと呼ばれるこの場所は、大雨などで中小河川の水があふれ出す前に、地下水路に取り込み安全に大きな河川へ放流する施設で、普段は水が無い。

巨大な柱が並ぶその姿は一見すると神殿のようでもある。


地下神殿は地上の戦火を逃れた人々の道路であり、住処でもある。

ここは日中の尋常ではない陽射しと暑さから逃れることができるし、敵兵もやってこない。

日中は地下で過ごし、夜になると一部の人たちが食糧や水を求めて外の世界へ出た。

夜は敵兵が少ないし、暗闇の中なら見つかりにくい。


今日は水が見つからなかった。

代わりにわずかな食糧を見つけ神殿に帰ってくると、何やら騒ぎが起きていた。

聞けば備蓄していた貴重な水が大量に無くなっているという。

水は何よりも貴重で、みんなが生き残るために一人が一日に飲める量を決めている。


ぼくは無性に腹が立った。

ぼくなんて今まさに異常なほどに喉が渇いている。

今すぐにでも飲みたいというのに、みんなが寝ている間に誰かが持ち去ったようだ。


ぼくはふと思った。

ぼくはなぜこんなに喉が渇いているのだろう? と。


その時、近くに居た娘が叫んだ。


「ちょっとお父さん!! ここに置いてあった私の水飲んだでしょ!!」


周囲の人たちの視線がぼくに集中した。


「え? え? いや、飲んでないよ!! ぼくが飲んでいたのは・・・・・・」



ぼくはみんなの冷たい視線を浴びながら世界が薄れていくのを感じた。

夢だった。



娘がさげすむような表情でぼくを見下ろしている。

どうやら娘の声で目が覚めたようだ。



昨夜ぼくが飲んでいたのはウイスキーだ。

娘がいつも飲んでいるのは水晶の間欠泉とかいうミネラルウォーター。

その水でウイスキーを割って飲んでいたが、気がつけば眠っていた。

だから喉が渇いて変な夢を見たんだ。


ぼくは娘にこう言った。


「水を一杯くれないか?」


「はあ? だから、ここに置いてあった私の水飲んだでしょ!!」



人間は食べなくても一週間以上生きられるが、水が無ければ数日しかもたないという。

だからもしもに備えておいた方がいい。

ミネラル豊富な天然の塩も備えてあればなおいい。


ぼくは自転車をこいでスーパーへ出かけた。


「おいしい水、おいしい水が飲みたい・・・・・・」


遠くで娘が叫んでいる。


「私の分も買ってこいよ!! それと、じゃがりこ!!」




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