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SS【サバイバルセミナー】
ぼくはとあるセミナーにやってきた。
その名もサバイバルセミナー。
会場はどこかの会議室で、ぼくは一番後ろの席に座った。
過酷な状況下で役に立つ知識や技術を学ぶセミナーで、一回五千円。
講師は名前は知られてないがSNSではそれなりのフォロワーを持つ発信者で、世界中の秘境を求めて旅する冒険家らしい。セミナーは今回初めて開催するようだ。百人くらいは集まっている。
講師はずっと一人で旅してきたので、この中で誰か相棒になってくれる人はいるかと冗談半分で言った。
ぼくは内心「そりゃーーそんな物好きは中々居ないだろうね。なんせ命がけなんだから」と思った。
できればこのセミナーで、相棒を一人選びたいという。
なんとも身勝手な人だ。
参加者の大半はもしもの時の知識が欲しくて来ているはずだ。間違っても命がけの冒険に出たいわけではない。
「えーー、みなさん、暑い中サバイバルセミナーにお越しいただきありがとうございます。みなさんの机の上に用意しましたペットボトルのお茶は、先ほどまで冷蔵庫に入っていてよく冷えております。どうぞお飲み下さい」
講師がそう言うと数人がペットボトルのお茶を飲んだ。
講師は右から左までまんべんなく見渡すと、こう言った。
「貴重品をお持ちの方おられますか? あとから外へ移動して、火起こしや自然にある物を使って簡易テントを作る方法などの講習がございます。荷物は作業の邪魔になりますので私の助手が責任をもってお預かりします。ではみなさんの机の上にあるネームシールに名前を書いて、ご自分の荷物にしっかりと貼ってから前まで持ってきて下さい」
するとガラガラっとドアが開き、待機していた助手が大きなクリアボックスを三つ乗せた台車を押して入ってきた。
講師と助手は慣れた様子で次々に荷物を丁寧にクリアボックスに収めていく。
講師は助手に「講習終わる十分くらい前に持ってきて!!」と伝えると、助手は台車を押して会場を後にした。
講師はぼくのウエストポーチも邪魔になるかもしれないと言って預かろうとしたが、ぼくは断った。
「では、外での講習に移る前にサバイバルに関する動画を観ます。後から実際にする作業とまったく同じことが出てくるので、よく観ておいて下さい」
講師はそう言うと動画を観やすいように会議室の照明を暗くし、自分は会議室をあとにした。
ぼくは会議室を見渡した。
数人がテーブルに頭を伏せて寝ている。
お茶が効いたようだ。
ぼくはそっと講師の後を追った。
駐車場には先ほどのクリアケースを車に詰め込む二人の姿があった。
ぼくは大きな声を上げた。
「おい!! 待てよ!!」
ぼくが参加者の一人だと気づいた講師は、一瞬明らかに焦った表情になったが、「どうなさいましたか?」と平静を装った。
ぼくは見苦しい言い訳を聞くためにここまで来たわけではない。
とにかく返すものは返してもらわないといけない。
「あんたらが受け取ったセミナー代金と参加者の荷物を置いてけよ!! そうすれば後のことはぼくが適当にとりつくろってやる」
もちろんとりつくろう気は無い。
しかし、ぼくの予想通り二人は本性を現し、隠し持っていたナイフを手に襲いかかってきた。
ぼくはウエストポーチから素早く携帯を取り出すと、相手の攻撃を巧みに避けながら警察に通報した。誰にも真似できないぼくの得意技だ。
一分もしないうちに、すぐ近くを巡回していたパトカーがやってきた。
ぼくはセミナーの帰り道に思った。
世の中が混沌としてくると、ああいう外道が増えてくる。
そんな輩から個人で身を守るのは難しい。
だからこれからは、そんな奴らが手を出せないようなコミュニティ作りが大切なのかもしれないと。
終
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