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SS【ぼくの能力】
ぼくは七人兄弟の末っ子だ。
でも人間から生まれたのではない。
神さまから生まれた神の子だ。
母は神といっても人間の身体を使っている上に、病気がちだったこともあり、早くに本来居るべき場所へ帰っていった。
ぼくは神さま、つまり母が嫌いだ。
母は他の六人の兄弟たちに、それぞれ秀でた能力を授けた。
千里眼、怪力、韋駄天、聡明、降霊術、商才、秀でた能力を持つことで学びがある。そして必ず身を助けると母は言った。
でもそれは兄弟たちの話だ。
末っ子のぼくにはこれといって人より秀でた能力などない。
もしかしたらぼくが気づいていないだけで、才能が眠っているのかもしれないと色々なことに挑戦してみたが、何をやってもたいした成果はあがらなかった。
ぼくが母を嫌う理由はもう一つある。
ぼくに対してだけ扱いが雑なのだ。
幼い頃に雪山登山をしていたぼくたち兄弟は、雪崩に巻き込まれて生死の境をさまよったことがあった。
ぼくは一番小さかったこともあり記憶はないが、兄弟たちの話では、母は最後までぼくを助けようとしなかったらしい。他の兄弟たちを救うためにぼくを見捨てたのだ。
でもぼくは最近になって気づいたことがある。
ぼくは今まで雪崩に巻き込まれたり、猛スピードのトラックにはねられたこともあった。
仲間を守ろうとして悪い奴らに刃物で何度も刺されたこともあった。
火事の現場から逃げようと七階の高さから飛び降りたこともあった。
いじめを苦に学校の屋上から飛び降りたこともあった。
だからぼくの身体は傷だらけだ。
でも生きている。
そうだ、この、まるで不死身とも思える丈夫な身体こそがぼくの能力なのだ。
大けがを負ってもご飯を食べたらかなり楽になった。
それは普通ではなかった。
母がぼくにだけ与えた能力だったのだ。
雪崩に巻き込まれた時も、見捨てたわけではなく、助ける必要さえなかったのだ。
長男は何事もなかったように、自分で雪をかき分け出てきた幼いぼくを見て驚いたらしく、その時の光景が今でも脳裏に焼きついていると語った。
ぼくは今までたくさん傷ついた。
他人より丈夫な身体を持っていることで、無意識のうちに危険に飛びこんでいたのかもしれない。
そこでたくさんの痛みを知った。
自分や他人の心の痛みを知った。
なんとなくだけど、ぼくの持つ能力の意味が分かった気がする。
そこには確かに学びがあったし、ぼくの身を助けた。
今ではこの能力を授けてくれた母に感謝している。
親孝行というわけでもないが、これからはこの秀でた能力を、もっと世の中のために使おうと思う。
痛みを知る一人の人間として。
終
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