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SS【吸血鬼】850字


私のお父さんはトマトジュースが大好きです。

大きめのペットボトルでも、あっという間に飲み干してしまいます。

ある時、私はそんなお父さんに言いました。


「まるで吸血鬼みたいね」


するといつも何を言っても反応の鈍いお父さんの顔色が変わりました。

明らかに動揺しています。


「知っていたのか?」


「え? 何を?」


私はすぐにピンときました。

今まで隠していたけど、実は吸血鬼だったなんていうくだらないことを言おうとしているに違いありません。


私はボランティア精神でその話に乗ってあげることにしました。


「ねえねえ、お父さんはなんでトマトジュースが好きなの?」


「単純にうまいからさ。それに赤い食材は若さを保つんだ」


「へえ」


「トマトジュースに含まれるリコピンは強力な抗酸化作用があるし、ギャバは血圧を下げる効果があるんだ」


「へえーー 私はてっきり何かの代わりかと思った」


その時です。

目出し帽をかぶり、手に刃物を持った強盗数人が押し入ってきました。

そのうちの一人が家にある金と貴金属をぜんぶ出せとお父さんを脅しています。


危機感も緊張感もまるで無いお父さんは、ペットボトルのトマトジュースのフタを開けるとグビグビと喉を鳴らして飲んでいます。

それを見て激高した強盗がナイフでお父さんの顔を切りつけました。


そこへタイミング悪くお母さんがやって来ました。

お母さんは何やら鼻をクンクンとさせています。

そして顔から血を流すお父さんに気づくとニッコリして言いました。


「あら、おいしそう。トマトジュースのおかげで質が良くなっているわね」


私にはお母さんが何を言っているのか理解できませんでした。

お母さんはお父さんの顔を流れる血をペロペロと舐めています。


それからしばらくして私が呼んだ警察の人がやってきました。

現場には首元に傷のある全身の血を抜き取られた強盗たちと、すでに顔の傷が消えているお父さん。

その横にはゲップをしながら満足そうな顔のお母さんがいました。

事件は迷宮入りしました。



事件からしばらく経って、ついに私に彼氏ができました。

彼の趣味は献血です。


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