SS 【ミキちゃんと夢の指輪】前編
小学校を卒業してから仲良しのタケルくんと離ればなれになったミキちゃん。
二人の距離は数百キロもあります。
魔法学校の寮に住むミキちゃんは、最近いじめにあっているようです。
あろうことかミキちゃんを苦しめているのは教師の一人なのです。
学校では魔法に関する様々な単位を取得しなければ進級できません。
一年生のミキちゃんが習うのは、詠唱基礎、属性基礎、精神、魔法道具、魔法覚醒、瞑想で、それぞれに専門の先生がいます。
二年生になると火や風など、属性別にクラス分けされ、実戦を伴ったより難易度の高い授業になります。
ミキちゃんは頑張って勉強していたので知識はありました。でも他の百戦錬磨な生徒たちと違って、魔法を使用した戦闘経験はほとんどありません。だからちょっと出遅れていました。
ミキちゃんは瞑想のネニモツ先生にいじめられています。
クラスメイトに暴言を吐くネニモツ先生に対し、「そんな言い方しないで下さい」と言ったことがあり、それからずっと陰湿な嫌がらせを受けているのです。
ネニモツ先生は他の誰も真似できない高等魔法を操ることができます。
他人の夢に入ることができるのです。
ミキちゃんは毎夜のように悪夢に悩まされていました。
ネニモツ先生は自らは姿を見せず、ミキちゃんの夢の世界に様々な刺客を送りこんで苦しめました。ある時は人間を丸呑みにする大きなカエル。またある時は血に飢えた狼たち。
ミキちゃんは毎夜のように悪夢を見るので不思議でした。
そしてある時見てしまったのです。得意な火の魔法で狼たちを追い払うと、夢の世界から去っていくネニモツ先生の後ろ姿を。
隠れて見ていたに違いありません。
ミキちゃんは校長先生に相談しました。
しかし夢の中では確認しようがないと言われました。
確かにその通りです。他人の夢に入れるのはネニモツ先生だけだからです。
それにそんなことをする心のねじ曲がった人です。問い詰めたところで本当のことは言わないでしょう。
ミキちゃんは毎夜のように夢の中でたった一人の孤独な戦いを繰り広げていました。
そんなある日、ミキちゃんは校長先生に呼びだされました。
校長先生はネニモツ先生に聞いてくれていました。やはり知らぬ存ぜぬの一点張りだったようです。
校長先生はミキちゃんの為に、ある魔法アイテムを貸してくれました。
夢の指輪です。
指輪を着けて寝ると、その人が辛い時に一番そばにいてほしい人が夢の中に現れると言われています。
校長先生はミキちゃんのために魔法オークションで競り落としたのです。
本当は自腹で痛かったのに、部屋の整理をしていたら出てきたと嘘をつきました。
ミキちゃんはその夜、指輪を着けたまま眠りました。
今夜は何が出てくるか、ミキちゃんにとっては睡眠は安らぎの時間ではありません。
でも毎夜、夢の中で繰り返される戦闘でミキちゃんは成長しています。実戦には及びませんが色々と学びがあるようです。
気がつくとミキちゃんは薄暗い森の中にいました。
どこからかいい匂いが漂ってきます。
匂いに惹かれるように森の中を進むと、食いしん坊のタケルくんが串に刺したキノコを焼いていました。タケルくんはおいしそうなキノコを見てニヤニヤしています。
ミキちゃんはそれが食べたら駄目なキノコだとすぐに気づきました。食べたり匂いを嗅ぎ続けるとニヤニヤが止まらなくなります。
「こら!! タケルくん!!」
「ん?? あれ? ミキちゃん」
「それは食べたら駄目なキノコよ!!」
「そうなの? キノコの本に毒キノコは無臭だって書いてあって、これはいい匂いがするから食べれるのかと思ったよ」
「それは食べれるけどニヤニヤが止まらなくなるの」
「そっかーー」
タケルくんはニヤニヤしています。
締まりのない顔のタケルくんに呆れ顔のミキちゃん。
後編へ続く
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