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SS【生存者ゼロ】


君に出会えて嬉しいよ。

ぼくはずいぶんと長い間ここで暮らしていたんだ。たった一人でね。

そうそう、ぼくは最近ハマっていることがあるんだ。


この絶壁からの釣りさ。


絶壁から透き通った海底を覗きこむと、ほら、魚が見えるだろ?

ここは最高に安全で快適な釣り場さ。

座り心地の良い背もたれ付きの椅子だってある。キャスター付きだから座ったまま移動だってできるよ。

この釣り竿は社長室らしき場所で見つけたんだ。

竿を振った時のしなる感じと「シュッ」という音が病みつきになっててね。


おっと、雨が降ってきた。

恵の雨だ。


実はもう一つハマっていることがあってね。

あそこに畑が見えるだろ。ネギを育てているんだ。

焼いたネギは最高だぜ。

種は誰もいないスーパーでくすねてきた。

土と肥料を運ぶのは大変だったよ。

何が大変って、ここは地上二十二階、地下一階のオフィスビル。

エレベーターは動かないし、三階から四階へ向かう階段が崩壊している。

だからロープを使って移動するしかなくてね。


隣のビルが工事中だったのは、ぼくにとって幸運だった。

武器になる道具や丈夫なロープが手に入ったからね。

何より幸運だったのは階段が崩壊しているこのビルを見つけられたこと。

ロープさえ片付けてしまえば奴らには登れっこない。

四階から屋上まではぼくのテリトリーというわけだ。


奴らはどこから来たかって?

ぼくにも詳しいことは分からない。

ただ一つ分かっているのは、この街、いやこの国の至る所を徘徊しているゾンビたちは、どこかの国の研究所で開発したウイルスの犠牲者だっていうことだけさ。それは君も知っているだろ?

ほら見て、こうして適当に釣り針にガラクタをぶら下げて奴らの近くに垂らすと、ほら!! 奴らが反応して近づいてきた。釣られてどんどん数が増えてきたよ。

奴らは遥か上にいるぼくに気づいても決して登ってこれない。

この安全な場所で見つけた最高の暇つぶしさ。


奴らに追われる君を見つけた時は嬉しかった。

まだ生きている人間が居たんだ!! ってワクワクしたよ。

君を救出できたのは、ここに住むようになってから一番嬉しいできごとだった。


本当だよ。


あれ? 大丈夫?

なんか具合悪そうだけど?


はは、こんな薄汚い男を目の前にしているんだ。無理もないか。


君の髪は長くて綺麗だね。


そうそう、ヘアゴム持ってるよ。よかったら使って。


うん、ポニーテールもよく似合う。



君・・・・・その首のキズ、いつ噛まれたの?


え? ちょっ!! 待って待って!!


うわあぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁーー!!


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