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楽しい一日

 今日のそう太は落ち着きません。落ち着くことなんてとてもできません。幼稚園の黄色い肩かけかばんと、お母さんの刺しゅう入りの手さげかばんを持って、そう太は家を元気に飛び出しました。手さげかばんの中には、中身が空のお弁当箱が入っています。今日は幼稚園のもちつき大会なのです。一年に一度のもちつき大会。そう太は年長組なので、昨年に続き二度目です。そして、年長組は、見ているだけではなく、もちつきを手伝うことができるのです。そのことだけでも、そう太は空を飛べそうなくらい、舞い上がっていました。
 幼稚園の送迎バスまでは五十メートルくらいです。飛ぶように歩くそう太は何人かのお友だちを追い抜き、一番に並びました。
「おはようございまーす」
「はい、おはよう。そう太くん、今日も元気ねえ」
 そう太のお母さんもやっと追いつきました。
「先生、今日はよろしくお願いします」
「お母さん方は午後からでしたね。お待ちしていますね」
 そう太たちを乗せたバスは、幼稚園めざして走り出しました。

 午前中はいつもどおり、お絵かきとダンスの時間です。でもみんなそわそわしています。気持ちは午後のもちつき大会にいってしまっているのです。教室の前においてある大きなテーブルの上には、空のお弁当箱がずらりと並んでいます。そう太のお弁当箱もあります。ねずみのキャラクターが描かれたアルミのお弁当箱です。
 やっとお昼になりました。そう太たちのそわそわドキドキがピークを迎えました。庭に飛び出すと、そこには大きな「うす」が置いてありました。子どもたちは、「うす」を取り囲むように敷かれたござにクラスごとに座りました。その後ろには、子どもたちのお母さん、お父さん用のいすが置かれています。そう太のお母さんも来ていました。

 もちつき大会が始まりました。今年のトップバッターはそう太です。そう太はお母さんにピースしてから、「うす」のところに行きました。
「そう太くん、ここ持ってね」
 子ども用の小さな「きね」を渡されたそう太は、先生のかけ声とともに、思いっきりおもちをつきました。五回ついたところで、次の子に交代です。そう太は五回とも、きっちり「うす」の中のおもちをつくことができました。大満足でござに戻ると、お母さんも嬉しそうにそう太を見ていました。
 子どもたちのもちつきが終わると、大人がしっかりと最後について、もちつき大会は終わりました。みんな笑顔です。これから、つきたてのおもちを食べるのです。教室に入って待っていると、さっきは空だったお弁当箱に、つきたての、まだ湯気が出ているおもちが入れられて運ばれてきました。おいしそうな匂いがしてきました。そう太はお弁当箱が並べられたテーブルに駆け寄り、背伸びしてお弁当箱をのぞき込みました。きなことあんこがかけられたおもちがきれいに並んでいます。
「あれっ」
 そう太は気が付きました。そして大きな声で言いました。
「せんせー、せんせーのおもちにだけ、たくわんが付いてるよー」
 先生はあわてて言いました。
「みんなには、ジュースを付けるよ」
 そう太は、たくわんよりもジュースの方が好きなので、先生にだけたくわんが付いていることはすぐに忘れて、
「ジュースだー、嬉しいー」
 とにこにこ顔になりました。教室の後ろには、お母さんたちもいました。そう太のお母さんは、少しだけ赤い顔になっていました。
 子どもたちにおもちが入ったお弁当箱とジュース、お母さんたちには、きなことあんこのおもちが置かれたお皿が配られ、みんなでご飯の時間になりました。教室の中は、大変な騒ぎです。そう太はお母さんと一緒に食べました。おいしくて、楽しくて、ずっとおしゃべりしていたそう太は、お母さんのお皿にも、たくわんが乗っていたことに気が付きませんでした。
 今日はもちつき大会が終わるとお母さんと一緒に帰ります。そう太もお母さんと手をつないで飛び跳ねながら帰りました。もちつき大会のため、お昼寝の時間がなかったので、はしゃぎ過ぎて疲れたそう太は、いつもより早く寝ました。楽しいもちつき大会の一日が終わりました。