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アイリスの小説集

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これまでに書いた幻想小説をまとめています。短編なので、通勤・通学時に是非。
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2021年9月の記事一覧

廃墟とピアノ

廃墟とピアノ

とある秋の日、わたしはある人を訪ねる為に無機質なコンクリートで覆われた道路を歩いていた。先程まではいかにも都会だと言わんばかりのビルが乱立していたが、この道路にはいつの間にか木々の木漏れ日が差している。陽が遮られた木陰にいた私は、冬を思わせる冷たい風を感じていた。いや、冷たいと言っては語弊がある。どこか暖かく、柔らかい風でありながら肌を冷やす風といった方が正しいだろうか。道路の舗装も段々と崩れてき

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ヒトという存在を定義するのは可能なのか?統一した自我は存在するのか?いま、問い直す。

ヒトという存在を定義するのは可能なのか?統一した自我は存在するのか?いま、問い直す。

そもそもヒトとは何なりや?私たちのこの体を構成している細胞一つ一つだろうか?いや、感覚的に正しい定義かもしれないが、違うだろう。というのも、私たちの細胞は日々更新を繰り返し、剥がれ落ちていっている。「私」という統一されたアイデンティティを託すにはあまりに頼りない。いや、本当に私という存在は一貫しているのか?ニーチェは、『脱皮できない蛇は滅びる。意見を脱皮してゆくことを妨げられた精神も同じことである

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砂になった街

砂になった街

6時27分。私が起きるのはいつもその時間だ。いつもこの時間に目が覚める。いつも通り7時間睡眠。淡々と、毎日のルーティンをこなしていく。トイレに行ってそのあとシャワーを浴びて、朝ごはん。決まってトースト1枚。バターを塗って食べる。バターの付け方も決まっている。食パンの手前から奥へ、左から右へとバターを交差させて塗っていく。この塗り方でしか出せない味があるのだ。家族に言ったら不思議がられたけども。もし

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