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自分の悩みは他人からするとちっぽけ。「天国はまだ遠く」読書感想文

あらすじ

主人公の千鶴は、保険会社で働く23歳の会社員。仕事も人間関係もうまくいかず、またそれを誰に相談することもできずにひとりで抱え込み思いつめた彼女は、縁もゆかりもない田舎町で自殺することを決意する。
当てもなくタクシーを走らせて辿り着いた人生最後の宿泊先で、大量の睡眠薬を服用して自殺を図るも、致死量に至らず、自殺はあっけなく未遂に終わる。
幸か不幸か生き残った彼女は、その宿泊先の主人である田村さんや村の人々との交流を通じていくうちに、彼女の日常を次第に取り戻していく。

感想

自分の悩みは他人からするとちっぽけ。

いつだか、思い出したくないくらい辛い頃、私も同じように仕事で思い悩んでいて生きるのが辛かった頃、タイトルに魅かれるようにして手に取った。

あらすじの通り、冒頭から自殺志願者の苦悩や自殺に至るまでの試行錯誤が延々と書かれており、精神正常者が読むと思わず「うっ」とくるのだろうが、当時精神に異常を来していた私は、千鶴への共感の嵐で、涙が止まらなくなった。
しかしよくよく読むと、失礼だが千鶴の悩みが実にしょうもないものだと気づく。故郷から上京し、苦手な営業職に就き、叱責される日々。ここまではまだ同情の余地がある。それから、彼氏と上手くいっていない、それも彼女の悩みのうちのひとつである、とのことだが、「ちょっと待って、彼氏いるんかーい!」と思わずツッコミを入れてしまい、そこから、「いや、仕事辛ければ転職すれば良くね?」「家族とか第三者に相談すればいいのに」とか色々不信感が募ってきた。
そう、自分の悩みって他人からするとめちゃくちゃシンプルで些細。
金が無くて食って行かれないわけでもない、解雇されたわけでもない、彼氏からDVを受けているわけでもない、なんなら23歳ってめちゃくちゃ若い!色々踏んだり蹴ったりの当時の私としては、なぜ彼女がそこまで死にとりつかれているのか理解に苦しんだ。
そう思ったとたん、私の悩みもきっと第三者から見たら、もしくは今これを書いている未来の自分からしたら、些細なことなのだろう、そう気づいた。自分では、「奈落の底に落ち込んだのだ」と信じて疑わないような絶望の状態と錯覚しているだけで、実は、今その抱えている問題は意外にもシンプル&ライトなものだったりするのかもしれない、と。
作者の意図するところであったかは定かではないが。

睡眠薬の致死量すらよく把握できていない彼女に運が味方して、なんとか生きながらえたわけだが、宿泊先の主人である田村さんや、村の人々との交流を通じ、徐々に体力を回復していき、村の居心地の良さを感じるとともに、彼女は自分の居場所がここにないことにも気づき始める。
意外にあっけなく日常に戻っていったので、人の不幸を見て快感を味わうタイプの変態である自分としては、千鶴には申し訳ないがもっと奈落の底まで落ちてみてほしかったので少々物足りなかったが、死を決意する程に追い詰められていた人間でも意外にすぐに日常生活に順応できるものなのだな、というよくわからない感想を抱いた。というか実際はそこまで彼女は追い詰められていなかったのかもしれない。

おまけ

つい最近、この小説が実写化されていることを知りました。
主人公の千鶴は加藤ローサ、田村さんはチュートリアルの徳井さんだそうですが、個人的にはもっと地味な顔をした千鶴、もっと素朴で田舎臭い田村さんを想像していので、2人とも美男美女過ぎやしないか?と思い、まだ観る気になれません。

では、また。


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