マガジンのカバー画像

短編

4
青い瓦屋根の家  コロナ禍の空気感を感じながら、一緒に旅をするように読んでいただけたらと思います🚃
運営しているクリエイター

記事一覧

青い瓦屋根の家④

青い瓦屋根の家④

翌日、大洗駅に付いて改札口の上にある時刻表を見上げると、鹿島神宮方面の下りの次の出発時刻は九時二十七分だった。ホームに上がると、出発の前に車両の上から黒煙を上げて二両の車両を一両にする切り離し作業をしているところだった。まだ見たことのない景色に出会えることに久しぶりに心が踊った。ホームには一眼レフカメラを首から下げたカップルや男性がホームからの景色や車両の写真を撮っている。車体にはアニメのキャラク

もっとみる
青い瓦屋根の家③

青い瓦屋根の家③

「水澤さん、海外へ留学したことあるっておっしゃってましたよね?」
「はい」
「その時は何か変わりましたか?」

大学を卒業して三年ちょっと勤めた会社を辞めて、自分の好きなことをしようと思い切ってアメリカのコミュニティカレッジへ留学をしたのだった。
開放的な気持ちになって、初めてアメリカを訪れた自分はとても興奮していたし、気持ちが大きくなっていた。一歩踏み出した自分が何者かになれる気持ちでいっぱいだ

もっとみる
青い瓦屋根の家②

青い瓦屋根の家②

秋は大きく深呼吸をする。
海辺で屈んでいるひかるの側に行くと、ひかるが様々な形の貝殻を並べていた。

「きれい」と秋が言葉にすると、ひかるはそのうちの一つの巻き貝を秋に差し出す。
秋がその貝を手に取ると、ひかるが自分の手に持つ貝を片耳に当てて目を瞑る仕草をしてみせた。それを真似るように秋は貝を耳に当てた。風の音のような、潮風のような音が貝の中から聞こえてくる。

自転車をカフェのガレージに返すと、

もっとみる
青い瓦屋根の家①

青い瓦屋根の家①

白い外壁に青い瓦屋根の家が太平洋の海を眺めるようにそびえ立っている。石垣の上に建つその家は、白くて高い塀で囲われていて庭の様子も家の窓も見えない。一階のガレージには、少し色褪せた白と赤の太めのストライプ柄の店舗テントが大きく張り出している。

海開きにはまだ早く、繁忙期を過ぎた観光地にある喫茶店のような佇まいだった。土産物屋と喫茶店が併設されているつくりで、正面に向かって左側に石段があり、門柱にあ

もっとみる