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〈intoxicate 150特別版〉『Bud Powell In The 21st Century』レヴュー&ライナーノーツ翻訳

現代屈指のピアニスト、イーサン・アイヴァーソンがラージ・アンサンブルで描くバド・パウエル・トリビュート作品

text & translation :高見一樹

■この記事は…
2021年2月20日発刊のintoxicate 150〈お茶の間レヴュー〉に掲載された「Bud Powell In The 21st Century」レヴューに加筆したもの、オリジナルライナーノーツを独自に翻訳した記事です。

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〈CD〉〈輸入盤〉
Bud Powell In The 21st Century

イーサン・アイヴァーソン(p)
ウンブリア・ジャズ・オーケストラ
[SunnySide SSC1619] 2/20発売


Review

これはバド・パウエルの降霊会だという。その主催者はイーサン・アイヴァーソン。ピアニスト&作曲家。彼のブログ“Transitional Technology”に上がっているエッセイやインタヴュー集は、一読に値する。この降霊会は、ウンブリア・ジャズフェスティヴァルから彼が委嘱受けて実現、18年のステージがこうしてライヴレコーディングとして発表された。降霊会というだけあって、バド作品のアダプテーションに加え、書き下ろしの自作品などで御霊と交信を試み、コラール・スタイルのコンポジション、ストレートなビッグ・バンドスタイルの編曲を交えて盛り上げる。途中、フレンチホルンの奏でるカーラ・ブレイ風のバラードにハッとさせられて、すっかり魂を抜かれてしまった。

Original Liner Notes

21世紀のバド・パウエル by イーサン・アイヴァーソン

天才、ビーバップの重要な音楽家の一人、優れた作曲家。彼に続く者たちにとってインスピレーションの尽きることのない泉、バド・パウエル ( 1924-1966 )。

バド・パウエルの、ホーン・プレイヤーとの傑出したオリジナル作品の唯一のレコーディングは、あの名高い1949年のセッションからの4曲。メンバーはファッツ・ナヴァロ(tp)、ソニー・ロリンズ(ts)、トミー・ポッター(b)、そしてロイ・ヘインズ(ds)。トランペット、サクソフォン、ピアノ、ベース、ドラムスという、古典的なジャズのクインテット。この“21世紀のバド・パウエル”の核となるのは、導く灯りを供給するクインテット、つまりイングリッド・ジェンセン、ダイナ・ステファンズ、(イーサン・アイヴァーソン本人)、ベン・ストリート、ルイス・ナッシュだ。

全ての即興を演奏するのはクインテットだが、バンドのメンバー全員が、《Un Poco Loco》の締めくくりのひと騒動の中で、一言( a breif say )程度に即興する。ある程度の数の新作が、このようなプロジェクトに、ある意味を持たせるのには必要だと思う。

私のオリジナル作品《21世紀のバド・パウエル》、《Nobile Paradiso》には、スタンダード形式での《チェロキー》、《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》のパウエルの即興演奏を組み込んでいる。1949年からのクインテットの四曲(パウエル3曲とセロニアス・モンクの“52番街”)では、短時間の演奏の中にオリジナルの78回転版の演奏( format )を手本にしているのが聞こえる。

プログラムに散りばめたのは、5つのオリジナル作品《Spells (呪い)》。私たちバンドは、墓に眠るパウエルと交信を試みる降霊会を主催しているのだ。

演奏中に、我らが師は、呼びかけに答えてアルバム《Inner Fire》ー《The Genius of Bud Powell》* に収録されてる短い曲を歌う。「僕はクラシックの気分だよ。」(このCDでは著作権により割愛)。」クラシックの気分? その通り、バド! 我々バンドは、ジョヴァンニ・ホッファーによるフレンチホルンのための、華やかなノクターンへと装いを新たにしたパウエルの有名なバラード《I ‘ll Keep Loving You 》で応える。

残りの曲、《Celia》、《Tempus Fugit》、《Un Poco Loco 》は比較的ストレートな、ディジー・ギレスピーやギル・フラー ( https://en.wikipedia.org/wiki/Gil_Fuller) のビッグ・バンドスタイルのチャートだ。バドのオリジナル作品に精通しているのなら、メロディー、ハーモニー、編曲家が新たな領域を掴み取る瞬間も含めて、その基本的な正確さが気にかかるだろう。

大きい編成のためにバド・パウエルを再創造する私の最初のスケッチを開始した時、参考にしたのは《Thelonious Monk Plays Duke Ellington 》、イゴール・ストラヴィンスキーの、バレエ作品《プルチネッラ》のための古いイタリア音楽の編曲、カーラ・ブレイが、チャーリー・ヘイデンのリベレーション・ミュージック・オーケストラのために手を加えたスペイン民謡だった。Carlo Pagnotta、Enzo Capura、Manuele Morbidiniに、私の大好きなピアニスト、作曲家を探求する機会を与えてくれたことを感謝する。

そしてルイス・ナッシュには、最大の謝意を表したい。“ビッグ・バンドのビバップ・ドラミング”が、ビバップ・ドラミング自らが確立した一つのジャンルであることに、そしてナッシュの目を見張る臨機応変な演奏に。

* 訳註:前者はアルバム最後に収録されたインタヴュー中のハミング、後者はアルバム最後“The Last time I saw Paris”のテーマのことだろうか?
記:ここに録音されたコンサートプログラムは、ウンブリア州ジャズ・フェスティヴァルからの委嘱作品。録音は18年12月29-31日に同フェスティヴァルでのライブ。

※オリジナル・ライナー・ノーツは、読みやすいように改行を加えています

【レビュー掲載号】

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intoxicate 150(2021.2.20発行)



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