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[導入事例:玉川学園高等部] 「生徒の頭の中を混乱させたい」 高校国語でのユニークな活用事例

学校現場におけるInspire Highの活用は、「総合的な学習/探究の時間」や、キャリア・進路学習という目的で導入されている事例が多数を占めていますが、実は、工夫次第で様々な教科で活用することができます。この記事では、実際に高校の教科でInspire Highを副教材として授業を実施している先生に取材を行い、授業での活用方法から、生徒たちの反応、学びの効果までをお話いただきました。

今回は、東京にある私立の伝統校のひとつ、玉川学園高等部における1年生の授業事例を紹介します。1929年に創立し、幼稚部から大学・大学院までを有する同校は、国際バカロレアに認定されているほか、2008年から15年にわたって「SSH(スーパーサイエンスハイスクール)」に指定されています。高校1年生の「現代の国語」での授業事例は、Inspire Highを副教材として活用した非常にユニークな授業となっています。

「全人教育」を教育理念に掲げる玉川学園では、小学校から高校までを「5・7」に分けた独自の一貫教育「K-12」を2021年度よりスタートしました。小学5年生までを「プライマリーディビジョン」、小学6年生から高校3年生までを「セカンダリーディビジョン」と区分しており、今回お話をうかがった稲石先生はセカンダリーディビジョンの国語科主任を務めています。

「高校3年生向けの学校設定科目『理系現代文』では、理系の生徒に向けて、理科と国語の教員が一緒に現代文の授業を行います」と稲石先生が話すように、独自な手法を取り入れており、そのひとつが国語科における「スクラップ」の活用です。

稲石先生が担当している高校現代の国語では、教材にあわせて世間の記事やニュースを生徒が各自で集めて、集めた情報に対して関連性を持たせて、考えさせたり書かせたりする授業を数年前から行っています。Inspire Highはその教材のひとつとして、活用されました。

【学校情報】
学校名:玉川学園高等部
所在地:東京都町田市
実施コース:高校1年生

1. 導入の背景:Inspire HighはBYODの1人1台端末をいかした活動ができる


――最初に、玉川学園高等部にInspire Highが導入された経緯を教えてください。

現在、同校の高等部では、公民と国語の授業でInspire Highを活用しています。私がInspire Highを知ったのは、進路主任で社会科担当の先生から「おもしろい教材がある」という話がきっかけでした。

国語では元々動画教材を使っており、動画自体に抵抗はありませんでしたが、最初は「他の動画サービスと何が違うんだろう……」と思っていました。でも、Inspire Highの説明を聞いて、次年度に計画している国語の授業設計にも沿っており、本校では進めている「BYOD(Bring Your Own Device)」の端末をいかした活動ができると確信しました。そこで、学校へ具体的な教科活用の意見を出し、導入に至りました。

玉川学園高等部 国語科教科主任の稲石陽平先生

――授業で使う際に、操作などで苦労したことなどはありますか。

最初のログイン操作にはややとまどいましたが、それ以降はとてもやりやすいと思いました。高校の50分の授業で、40分ほどの動画は時間的にもちょうどよかったですね。

――動画の選定はどのように行ったのでしょうか。

動画の選定については、教科書で扱うテーマから近いものを選びました。前期のテーマは「教育」と「自立」でしたので、この2つをキーワードにして、「アフガニスタンの学校設立者と考える 学校の意味ってなんだろう?」と、「メキシコの失敗研究者と考える 失敗ってこわいもの?」の2つを選びました。

アフガニスタンで学校を設立したシャバナ・バシージ=ラサ氏のセッション。

教科書の教材を選んだ段階で、教科書とは違う切り口やゴールを提示してくれるものがあればと思って探したのですが、今回選んだ2つのセッションはピッタリで、まさにインスパイアしてくれるものでした。

例えば、教育を例にとると、今回選んだ教科書教材だけでは、日本の教育しか考えられませんでした。けれど、動画で海外の教育について知ることで、日本の教育と比較して思考を深められると期待できました。

ビジネスを2度失敗したペペ・ヴィラトロ氏。

また、「自立」のテーマにおいては、教科書本文では「いざというときに助け合う」というようなことが書いてあるものの、それだけでは生徒が「いざというとき」のイメージを持つことができません。「失敗」というところに正面きって突っ込んでいる教材は少ないため、セッションを通じて生徒の視野を深めるという意味では、とてもよかったと考えています。

2.授業事例:
アウトプットは生徒が「主観を吐き出す場」として活用する


――それでは、実際の授業について具体的に教えてください。

高校1年生の現代の国語の授業では、教科書の中から関係する文章を読み、Inspire Highの活動としてのアウトプットと、授業におけるテーマに即した作文のアウトプットの2つを行いました。

高校の国語の一つの目標は、大学入試に対応できる「客観」的で正確な読みの獲得ですが、自分の興味関心を広げて深める探究的学習、あるいは大学進学後の研究においては「主観」で物事を見つめる姿勢も大事です。高校1~2年生の段階では、「客観」「主観」のどちらも大いに伸ばしていきたいと私たちは考えています。

InspireHighは、「主観」と「客観」をつなぐ活動、つまりアウトプットで吐き出した「主観」がフィードバックで「客観」を与えられる活動となっており、とても意義があると感じます。

高校1年生現代の国語の授業風景。Inspire Highを各自の端末で視聴している。

――非常に興味深いですね。Inspire Highは「総合的な探究の時間」などに活用されることが多く、その場合は主観や、自由な発想が大事にされています。今、お話いただいたことは、Inspire Highの新しい活用方法だと感じました。夏休みの課題にもご活用いただいたのですよね。

はい、今年度の夏休みには、「スク活(スクラップ活動)」という課題を出しました。教科書の4本の教材とInspire Highの2本の動画それぞれについて、最低1つずつ関連する記事をインターネットで探し、記事の紹介、共通点と相違点、意見や疑問点などを、Googleスライドでまとめるという宿題です。

――生徒さんの提出物を拝見しましたが、記事の選択や疑問点などがとても面白いですね。

そうですね。「選ぶ」ことに個性があり、それぞれまったく違う記事を持ってきていたところが面白かったです。この活動は、現代の国語のねらいにも設定されている「情報を整理する」「他者との交流を考える」などにも通じます。また物事を俯瞰的に捉える力、メタ認知能力も養えると考えています。

生徒の夏休みの課題提出物。
「失敗」に関して生徒がピックアップした記事。

3.教科におけるInspire Highの活用:
「生徒の頭の中を混乱させたかったんです」

――現代は沢山の情報にふれる機会がありますが、書かれていることの奥や広さを想像できることが大切ですよね。

ええ、いくらでも情報にふれられるようになった時代において、生徒はわざわざ情報を探さなくなり、「自分にないもの」にアクセスすることが苦手です。「スク活」という課題は、生徒たちが自分に興味のないニュースにアクセスさせられる仕掛けになります。この活動は、いわば「インスパイアされる」という理念にも合っており、まさにInspire Highが目指すものと近いなと考えています。

――稲石先生が、Inspire Highを、現代の国語の教材のひとつとして使う際に、一番期待していることはなんでしょうか。

生徒の頭、つまり固まってしまっている見方・考え方を混乱させたいです。(笑)

Inspire Highを見て、「頭を混乱させられて」考える生徒たち。

――なるほど。今回は高校1年生を対象にした授業でしたが、中学生からでも可能でしょうか。学年ごとに、Inspire Highの活用のアドバイスがあれば教えてください。

抽象概念を学んでいく際のトレーニングの段階で、自分の殻を突き破るツールとしてInspire Highを取り入れるのは有効な手段だと考えています。教科書の抽象レベルからすると、中学2年以降、やはり高校1年ぐらいが妥当ではないでしょうか。

4. 生徒の反応と今後の展望:
「Inspire Highが楽しみ」という生徒のモチベーションにも

――Inspire Highを使った授業について、生徒さんの反応はいかがでしたか?

予想していた通り、反応も評価もとても良かったですね。私は、毎回の授業の最後に「振り返りシート」として、3行ずつ感想を生徒に書かせています。Inspire Highのセッションを実施した時の感想を見て見ると、「次回、Inspire Highだから頑張ろう」といったメッセージもあり、生徒が楽しみにしている様子が伺えました。

7月21日にInspire Highを使った授業を実施。

また、失敗研究者のペペさんの動画は、生徒たちにすごく響いたようで、失敗について考え直している生徒が多かったですね。「絶対、失敗しちゃいけないんだ」と思っていた子は多く、特に真面目な子ほどそう思っています。でも、動画を見て「失敗から始まる何かがあるんだ」と、固定観念を疑って見直すきっかけになったようです。

失敗してはいけないって思っている人に、大丈夫と言っても通じないし、実感として思ってくれない。Inspire Highのような教材をはさんだことで、価値観が変わったと思います。だから、頭の中を混乱させたうえで再構築させるという狙いは、ある程度達成できました。

――最後に、今後の予定を教えてください。後期もInspire Highを活用した授業を実施されるのでしょうか。

はい。後期では、まず「広告」をテーマにしていますが、広告というのは生徒からすると毎日のように目にしていても、作り手や発信する企業側の視点を持つことはほとんどないので、またInspire Highの動画によって広告の発信側の視点を伝えたいと考えています。

――後期の授業も楽しみですね。今回は、ありがとうございました。 

***

玉川学園では、国語の副教材として、Inspire Highの動画を活用する授業事例をご紹介いただきました。現代を生きる多様な経歴のガイドが自分の主観を語るセッションは、教科書とは別の視点を獲得する情報として、生徒さん一人ひとりの心に大きく響きそうです。「教科では使いづらい……」と考えていらっしゃる先生方も、ぜひ一例としてご参考にしていただければ幸いです。