読書note|『翻訳語成立事情』


  • 柳父章「翻訳語成立事情」

  • 岩波新書1982年4月20日発行

  • 222ページ


 日本語とひとくくりに言ってもさまざまなものがある。大和言葉と漢語、外来語そして混種語。その中でも最近気になっていたのが明治の近代化にともなって西洋から新たな文化や思考が一気に入ってきた時に作られた翻訳語である。

 ほんの軽い気持ちで翻訳語について知りたいと思い適当な本を検索してこの本を見つけたが、読んで途方に暮れた。いかに言葉が流動的であるかをまた思い知らされたからだ。

 この本で取り上げられているのは「社会」「個人」「近代」「美」「恋愛」「存在」「自然」「権利」「自由」「彼、彼女」の10語で、一つの語につき一つ章がたてられ全10章で構成されている。

 この10語のうち「社会」「個人」「近代」「美」「恋愛」「存在」は幕末から明治時代にかけて翻訳のために作られた造語であり、あとの「自然」「権(利)」「自由」「彼、彼女」はもとも日本語として存在し翻訳語として新たな意味が加わったものである。

 それぞれの言葉に明治の知識人たちの格闘、そして一般大衆の流行りや誤解の歴史がある。言葉とともに西洋の価値観も入ってきてそれまでになかった考えが新たに縁取られる。最近はもっぱらカタカナ語のまま飛び交うが、明治の知識人たちは漢文の素養があったからこのような日本語が生成されていったのだろうか。

 図書館で借りたが、引用の部分などはもう一度じっくり読みたいと思ったのでいずれ買って本棚に置いておこうと思った。

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