見出し画像

人魚



その
ピアノの
音だけで、海の底まで
思い出せるうちに、
仕立てられた冬の
嫉妬を鞘に収めて跳ねていたかった、
だれも
まだ触れたことのない一枚が
光を跳ね返して沈んで行く、
本当は、波の向こうまで
押し流したかったものが
クリスマスの街で、手の届かないところへ
消えようとする、鱗が
また降って来る、雪のような顔をして
痛い胸の奥へ
だれの手も擦り抜けて、
劇中劇の台詞を
ぼくに被せている間に、脱ぎ捨てられた
渇いた輪郭、きみの
降り積もった手掛かり、
思い出せないものも
いっしょに
光っている季節のはじまりは
いつも、
レコードから流れて






この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?