落ち葉の上で 転げ回る、獣の 気配を 追いかけた先には 人影 森の奥に 刺さっている、鏡の前で 息を切らして 脱ぎ捨てたクリーチャーの鱗に、映る私を 照らしている光が 溶け込んでいく声をつないだ 来た道で、風に吹かれて瞬くように 光る糸、声は 初めて 歌になって背後に流れた、まだもう少し先へ 行けるような気がしていた夜の、帰り道を 任せた花たちが 分岐点で開く、季節を違えたような顔をして ちゃんとこの時代に生まれて来た きみに知らせる、 どちらの手を選んでも、選ば
貫通するか どうか ぎりぎりのところで、 背に走った亀裂を光らせている空が 目の奥でつながっていると 知らないまま、零さずに 待っていた、 あたたかくなる ここから見える 人たちを ひとくくりにしてきた、千切れない 言葉に 宿ることのなかった人影は 雨の森に煙る、額に当てた手には冷たい 微熱を視界に放して 振り向いている、いつかここに、 目の前に現れる人 空へ 真っ直ぐに伸びて行った 大きな木のそばで 見つめていた冷たい空気に残した 本を開いて会いに来る人、ここで私は
消えていく蠟燭の火、 その息で、指で 横たわる 巨木に腰掛ける人影は、 架空の愛情が よそ見している間に、封じ込めていた、歌を 歌おうとしている、 小さな 箱を開くように 最初の躊躇いが鳴らす緑の ひとりごとに付き合っている背中
無音の 一拍目から 滑りだした、核心を 台詞で伝えようとする映画に うつむいて、ボトルの底を回している、無数の 気泡がコルクを押し上げるまでの時間、 だれの 頭の中にも流れていない星のように 過去を 見つめる未来の瞳が 今の私に触れている、この世界に 素直に傷ついたページの灰を、私も心に 撒いている 見えない花の匂いを追って 森に、消えた 人影、 あのとき 入れ替わるように、この街に 何を追ってきたのか、そのことを忘れて 開く 花たちの季節が来るよ
短い 言葉で なにかいいことを 伝えておいてほしい夜の 原本に封をして待っていた、蝙蝠の 羽を模したなつかしい光、詩人が 語れなくなった世界で飛んでいた 空を隠さずに広げた光沢 この指にも赤く残る 切り口から飛び立つ 真っ赤な花が咲いたよ、 誰の教えからも護られた 引き出しを開くように燃やした背後の 冷たい風と躍って 今夜
一瞬で 切り替えられる軌道が 無数に見えている高い空から 届く言葉に身構えている、眠りに 落ちもせず、目覚めもせずに、 夢からも、うつつからも、 遠ざかって行くまで、 枕に 耳をしずめて 私が信じたひとかけらを信じて ほしいと思っていた過去が、瑞々しい 言葉と いっしょに喉の奥へ 落ちて行く約束でもしていたみたい 不意に 優しさと名づけられた私をそれでも 連れて生きている、もうひとりの 私に言わせてあげたいことが まだたくさん あるから
いくつも空に 解き放った 花が、 大きく 滑るように降りて来る、小さく 鳴らした お祝いの名残を 生きているみたいに、 どれかを踏まなければ動けなくなると 思い込んでいた夜は 手の中で 月を隠して 開いた 分裂から はじまった世界に、その手をかけてゆっくり 運ぶ ガラスの光 ひとつの 目的は今も伏せられたまま 飛び交う夜空の火に、断たれた 日々を逃がして 遠い昔に 用意されていたような惨い 命の終わりを見つめた眼で、 最後まで 地上に 残されていた真っ直ぐな空白に
名付けて 切り離して 刻めば 手に取れると知って、言葉の 底で 炉がむせぶ 囲い込んだ 戦いの名で 生まれた 永遠に消える地続きの道、空に 視線を 逃がして、 見えていないことに しても、しなくても、呼吸したり 死んでいったり できるようになった、きみも 私も今日 祈りの奥から人間を連れ戻す 終わっても燃え残る、愛した言葉が 照らしている
血が巡り 結ぶ雨音に連れ出されたのか 落ち着いて よく 見れば 一度だって あなたの好みは訊いていない、 流れている 縦書きの 真っすぐに狂い始めた刻印が、 夏の雨に 溶け出して育った イバラは、動かない文字の狭間を縫うように 息継ぎをしている 歌い上げるように 後ろへ、前へ、高く、低く、滑空する 幾千の張り詰めた棘が太陽を抱きしめて回る 抱腹の 影に生まれた緑の細部で 枝分かれした骨格の流線を慕って、 焦げた部分で光る水滴 冷たく 口元まで流れる、次の時代まで眠
きのうの 街に届いていた、サイレンが今 吐き出した この息に乗る、 寂しさについて 歌ってきた シンガーのそばで 幽かに あしたから追いかけて来る カノン 畏れていた闇から生まれる、忍ばせておいた 黒いルージュを滲ませて 夜に映した 時間の 表情 いつか思い出す 疲れ切った 今日の私を連れて、遠慮なく 人間に触れようとするものたちから眼を 逸らさずにいるとき、 立ち上がる この景色の中から 遠く 流れて行くと 決めた 星が、閉じた 空にも映っている、どこまでも
両手を広げて 包み込んだまま動かない 怒りの涙が 降る世界を 知らずに走って行く あなたの頬にも 通じた道で、知らない 誰かが 見上げるはずだった空へ 飛んだ たくさんの視線が、 突き上げている 雲の狭間に昇って行く、 私には 見えなかった希望から 離れて 遥かな 遠くを目指せば帰って行く、目の前で重なり ゆれる 人間に 帰るまで、触れれば崩れる幻のままで あなたが、追いかけた色も こぼれる 輪の 光に、赤く焼かれた翅音が響く祈りの 奥で、 開こうとする造花の棘を肌で悼む
葉陰で 消えたページをめくっていた、両手を 見えるところへ置いた、 あなたが 本当のことを知るつもりのなかった街で 浮力に変わる痛みで包んだシェルター、 ゆらりと青に 染まって 見えない 光だけを放つ夜の入口が可視光の なぐさめを抜けた一筋で浮かび上がる、枕元の 声、雨の照らす 飛沫の翅模様、ガラスの惑星から 飛び立とうとして、 残されたフィラメントが 焼け落ちる瞬間、動かした手の 流れるような表情、 ここから見えているのは 黄金の 薬莢が跳ねている水たまり 映し出してい
押し開いた窓から吹き込む 風に似たアカウントさえ 消せずに消えた星の 光を 連れ出そうとしている、この世にはもう ないものに 奪われている視線が 赤く美しいと知ってしまった、 どうか生き残ってくださいと 書いた日のことをきみは忘れても続いて行く、 きみが思う人間と僕が思う人間の 隔たりを回る いつか砕けた無数の信念が銀色に舞い上がる 闇の中で会いましょう、言葉が 追いつく前に、 結び合わない星たちの中で、胸の内から 抜いた視線が冷たく 宇宙を横切る
赤いまつ毛の下で 空を破って繰り返しているサンバースト、瞳の 周りを 指輪のように冷たく燃やす時間です、何もかも 言葉にできなかった頃の きみが笑うのは 伝えなければ なかったことになると 思っているみたい、こちらに向けてくれた 表情に開いている 穴の中で、言葉にしなかった方の世界が 呼吸をやめない、シューシューと掠れて 消え残る夏のほころびから駆けだす涙を砕く 夕焼けに流れる、 知らされていないことの幸福に 擬態した翅を震わせた 音が 聞こえる方へ、走らせた視線
信じる心に 振り下ろされている 見えない手をつかむ 知らされないことが あふれて、 知らされずに 断ち切られた あした。 つくられた本当を引き受けて、散らばった 人間が スローモーションで落ちてゆく 真ん中で 黒い眼の沈黙を見ている、裁かれることなく 生きて、 行き場のない あしたが、いつまでも あしたのままで浮かんでいる、焼けた 道路の陽炎が ちらちら 眩しい この時代からも跳ね上がる 日々を 越えて行く 真っ赤に擦れた唇の稜線で 頬を押し上げて固めた 私を 覆せな
光に 透かしてなぞっていた 真っ直ぐな視線からズレて行く鉛の温度、 閉じた牢を破る 手掛かりに 置いた手のふるえが 鼓動のように砂粒を落とす、名を 持たない星たちの流れる群れが一瞬、赤く鳴る 夢なら 煙を焚いて 隠した身体 影だけは深い 亀裂から、 ここまで伸びて来ると知っていた、星のように 欠けた視点の輝きを呑み込む言葉も、 あしたには 覆される言葉も抜けて、逸れて行く 事実を ひとつまた繋ぐ、 きみが 本当のことを言えなくなる街で鳴いて 触れれば崩れる灰の花びら、