駆け出し百人一首(39)袖ひちて掬びし水の凍れるを春立つけふの風やとくらむ(紀貫之)

袖(そで)ひちて掬(むす)びし水(みづ)の凍(こほ)れるを春(はる)立(た)つけふの風(かぜ)やとくらむ

古今集 春歌上 2番

訳:昨夏、私は袖を濡らして水をすくった。その水は冬の間に凍りついていたが、立春の今日、春風が溶かしているだろう。

Last summer I scooped up water, which is frozen over during this winter. Today's spring wind will melt the ice.


鑑賞するだけでなく、創る側に回ることで見えるようになることがあります。私自身、俳句に関しては、自分が結社に属して継続的に句作をするようになって、初めて実感を持って分かるようになったことが多くあるのです。
例えば、俳句は一瞬を切り取るものであること。時系列の説明や因果関係を嫌います。
それに対し、和歌(現代短歌はそこまで詳しくないので、あくまで和歌)の世界では、時の経過の中でのドラマが描かれたり、因果や矛盾を論理で考察したりすることが珍しくありません。
今回紹介した歌などは、まさにそうした和歌の特性がよく出た歌ではないでしょうか。三十一文字のうちに、夏から冬、そして春へ時が流れます。しかもそれぞれに映像が伴います。
実際には暦の上での立春(今で言えば2/4)の頃など、寒くて仕方ないのですが、暦を基準に、やや先取りで季節を味わう平安貴族らしい一首でもあります。この感じは、現代のモードファッションが実際の季節よりも先取りする感じに似ています。


古文単語

ひつ:水に浸かる、濡れる。
むすぶ:「掬ぶ」と書き、水を手ですくうこと。

古文文法

むすびし水の凍れるを:「し」は過去の助動詞「き」連体形、「る」は完了・存続の助動詞「り」の連体形
風やとくらむ:係助詞「や」は疑問の意で「らむ」にかかる(連体形)。「らむ」は現在推量の助動詞(〜ているだろう)。


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