雨宮優/体験作家
フェスの下書きとなる小説を更新していきます
梅雨の間、雨が降るたびに「雨」にまつわる言葉を題材にした約3000字の小説を更新します。雨にまつわる言葉は『雨のことば辞典』を参照に、五十音順に1つずつ題材にしていきます。
思いつき方など。How to系
”人が植物に輪廻する世界”を描いた体験小説「RingNe」についてのマガジンです。2024年は秋分の日に南足柄市 夕日の滝で野外フェスティバル「RingNe Festival(リンネフェスティバル)」が開催されます。
「平等であろうとすることは、人の病のようなものなんじゃないかって」 広告代理店で働く真面目なサラリーマン、水前寺。旅行会社で働く環境アクティビスト、前田。インフルエンサーに憧れる青年、山岡。パンデミック禍、人々が発症していた病とはなんだったのか。寿町を舞台に、無常な世界で交差する3人の視点から平等を描く、著者初の現代小説。 #水前寺清人 スティック型の掃除機を振り抜く。棚の上に陳列された三つの花瓶が吹き飛んだ。空を割る雷鳴のような音がオフィス中に響く。同調するように
地球表面には年間平均1000mlの雨や雪が降るらしい。 しかし、現在大気中に存在するすべての水蒸気を一斉に雨にして降らせると、わずか25mlにしかならない。 つまり降った雨や雪が解けて流れて蒸発して水蒸気として大気中に戻り、再度雲となり、雪や雨となって降ってくることを年間に40回はしていることとなる。平均すると約9日間で、大気中の水は全て別のものになるのだ。 ちなみに人間の血液は約120日間で全て入れ替わるので、人体より何倍も大きい空の方が、人体より約13倍ほど代謝が早い
6月24日はUFOの日、ドレミの日、イギリスがBREXITした日、そして弊社Ozoneの誕生日。 2016年に誕生し、早8歳となりました。 Ozoneは”そうぞう機会を最大化”するイマジネーションカンパニーです。 身体感覚を共有する体験芸術としてのフェスティバル各種や、問いをつくるコンセプトデザイン、どこでもだれでもいつでもできる新たな音響装置のリースや、見渡す限り真っ白なBarの営業、あたらしくなるためのイマーシブ生前葬、などなど 遍く皆さんへ、そうぞう機会を開いて
はじめに 2024年、6月21日。関東が梅雨入りしました。 梅雨のあいだ、雨が降るたび毎日、約3千字の”雨のことば”を題材にした小説を書き続けるプロジェクト「雨ことば三千世界」を昨年から始めました。 雨に関連することばは「雨のことば辞典」を参照に「あ」から五十音順に1つずつランダムに選び、雨が降っている間に即興で書き上げます。 昨年は「き(狐の嫁入り)」で終わったので、今年は「く」から。 本文 1989年に起きた”かの事件”の投稿にlikeを送り、小花 (Xiǎo
本記事は表題の通り、予算はないけれどイベントを成功させたい!という方々に向けて、できるだけ具体的で汎用可能なTodoリストをマニュアルとして執筆するものです。 なるべく簡潔に、わかりやすく、誰でもできるように、書いていきます。 なぜ本記事を書くのか まず最初に、簡単に執筆背景だけ。 イベント全般における汎用的なマニュアルというのは、実は書くのがとても難しいのです。 というのも、イベントは種類や目的によって作り方は千差万別。1人でやるのか、チームでやるのか、それは何名規
《第一章は下記より聴くこともできます》 第3章/④はこちら #渦居 朝。まず、光があった。その後に、卵が焼ける香り、包丁がまな板を叩く音。一杯の水を飲み、居間に行くと、円が朝食を作っていた。 「おはよう」を交わした。レースカーテンを通して半減された太陽の白い光が部屋に溜まる。そこにエノキが気持ち良さそうに寝ていた。円は朝食を済ますと、そそくさと荷物をまとめ、玄関の扉を開けた。純粋な陽光が玄関に差し込み、目を眩ませながら手を振って見送った。今日は冬休み明けの最初の登校
《第一章は下記より聴くこともできます》 第3章/③はこちら #佐藤③ 祝祭は夜通し三日三晩続いた。足が棒になるまで踊って、笑い皺が消えなくなるまで笑って、あるもの全てを分かち合って過ごした。長らく続いた持続可能な生活というコンセプトから解放され、ただこの三日間を存分に惜しみなく生きた。そしてこれは生命を祝う祝祭であり、終わりを受け入れる儀式でもあったから、祭のあと、多くの人々が三三五五に生命を引越し、あるいは卒業した。 それはエノキも同じだった。三日前から家を彷徨
《第一章は下記より聴くこともできます》 第3章/②はこちら #佐藤② 三人はこれからの自分の選択を考えながら、言葉も交わさずに駅まで歩いていた。電車で待っていた運転手は、無言で乗り込む三人を確認すると、発進した。春は電車内で何度も短くうたた寝して、細切れに夢を見た。何の示唆でもない脳の情報処理としての、純粋で無意味な夢を。渦位は車窓から夕暮れの空を、風に流れる雲をただ見つめていた。葵は前方の座席の緑の色を訝しむように目を開いて見つめ、いつかの夢の断片を思い出していた。
《第一章は下記より聴くこともできます》 第3章/①はこちら #佐藤 葵は今日三度目の目覚めだった。PE事件以降長時間眠ることができず、中途覚醒を繰り返す癖がついてしまっていた。雨水タンクに溜めた雨水でシャワーを浴び、歯を磨きながら窓を開け、外の様子を確認した。 ナイフとメタルマッチ、ドクダミで作ったチンピを入れた小物袋、作業着やタブレットをトートバックに入れて家を出た。 葵は最乗寺の集会へ向かっていた。毎度足を運ぶのは仕事の進捗報告や共有もあったが、集会場
《第一章は下記より聴くこともできます》 第2章/③はこちら #葵田葵 暗闇。上下の黒い大地に色とりどりの花が咲いている。キキョウ、スミレ、ヤエザクラ、タンポポ、マリーゴールド、ヒヤシンス。そして一本のカーネーションが中空から大地と平行に、重力を無視して真っ直ぐに、私の方に向かって咲いていた。根は触手のように蠢き、花は心臓のように脈打っていた。私はこれが歩だと思って話しかけていた。 「ねぇ……電話、出てよ」 カーネーションはぐるぐると茎を動かし円を描き、何か準備
《第一章は下記より聴くこともできます》 第2章/②はこちら #渦位瞬② 会場は土還の儀で使われている森を選んだ。世界中の会員に届くように、式の模様はオンラインでライブ配信される。式はダイアンサス、つまりナデシコ属を表す学名の言葉の由来となったギリシャ神話の神、ジュピターの名前をそのまま採用した。 円形に結ばれた垂と風鈴が木々に吊るされ、長い枯れ枝が何本も地面に杭のように刺され、辺りとの境界をつくった。中央には創木された木材で作られた円形のステージが施工され、周囲を
《第一章は下記より聴くこともできます》 第2章/①はこちら #三田春 講演の帰り道、合成樹脂の網目でできた橋を渡る。イタドリやメマツヨイグサなどの植物達が網目に届きそうなほど生長していた。外壁沿いのガーデンに生えたツユクサは、変わらず凛々しく咲いていた。ガーデンの担当の職員達が前方で、軽トラの荷台に直接盛られた堆肥と思しき土を撒いていた。定期的にどこからか運ばれ、追肥しているようだった。 社内に入り研究室の扉を開く。緑の陰、緑の音、緑の文字。デスクに座ると、誠也く
《第一章は下記より聴くこともできます》 第1章/⑥はこちら #渦居 あの日の夢を見ていた。或いは、思い出していた。どこまで現実で、何が創りものだったのか判然としない、曖昧模糊とした記憶。 春さんの母親の耳裏に繋がれたケーブルは三十センチ四方の白い正方形の筐体と繋がれて、それから更に伸びたケーブルを春さんは自身のBMIに装着した。僕が病床に入ると既に準備は終わっていて、春さんは緊張した面持ちでいた。 僕は立ったまま、出来るだけ視界に入らないようにこっそりと、その
《第一章は下記より聴くこともできます》 第1章/⑤はこちら #田中 研究室に戻り、PCを開いた。アルビジアのタスクリストを確認して、テロメアの再生に関する最新研究の論文要約に取り組む。アルビジアのタスクリストには不老不死関連の研究開発タスクが並べられていた。現在はBMI経由で右半球下前頭皮質に時間感覚を遅くさせる信号を発信し、一日を二千四百時間に引き延ばし体感覚的に不老不死を得る「TiME」というプロダクトのリリースが迫り、チャットが盛り上がっていた。 アルビジア
《第一章は下記より聴くこともできます》 第1章/④はこちら #葵田葵② 透明なソファーが配置された白く広々とした空間に、数台のカメラが設置されていた。そそくさと腰をかがめてやってきたディレクターに別席へ案内されると、既に三田さんがそこにいた。 「葵田さん、はじめまして。三田と申します。今日はお会いできること楽しみにしていました」 三田さんは実際にお会いしてみると、歳の割にかなりお若く見えた。 「葵田です。こちらこそ、今日はよろしくお願いします」と会釈した。
《第一章は下記より聴くこともできます》 第1章/③はこちら #三田春② テレビ局から会社への帰り道、近くの自然公園へ母の墓参りに行った。アジサイの横に生える、2メートルほどのガマズミ。追い越したはずの身長は再び抜かされていた。 灰褐色の樹皮に、広卵形の鋸葉を繁らせ、ナンテンの実に似た小さな赤い実を実らせている。子どもの頃から母とよくここに来て、顔がねじれるほど酸っぱいこの実を摘んで、互いのリアクションを笑いながら食べていた。 この樹の下に葬ることは、まだコミュニケ