見出し画像

ニュースを刺激的に解体する 【Deconstructed】('20/4/2)

「緊急事態宣言」から最初の日曜日('20/4/12)

我が家ではお互いが特に干渉することなく各々の時間を自然と過ごせるようになってきた。
犬は毛布にくるまり、娘はPC画面の中の塾の先生の講義を視聴し、息子はTV画面の中の小さな探偵に夢中になり、妻はスマホの画面の中で星野源さんの歌声に耳を傾けながら紅茶をすする一国の宰相の姿にズッコケていた。
僕はAmazon PrimeかNetflix でアメフトのドキュメンタリーシリーズでも見ようと色々サーチしていたところ、目に止まったのが、2016年に製作された「全ての政府は嘘をつく(All Governments Lie)」というドキュメンタリー映画だった。

錆びついた英語力のサビを落とすべくポッドキャストで海外のニュースを聞くことが日課になっている今の僕にとって、海外の政治ネタは関心ごとの一つになっているし、ということで、本来であれば一番の関心ごとであるはずのNFLドキュメンタリー[ ALL OR NOTHING ] は一旦お預けに...

新たなポッドキャスト番組の発掘

ここまでの流れでいくと、僕は今からこの「すべての政府は嘘をつく」について、長々と感想を書くことになるのだけれど、この映画に関するレビューは、note の中ですでに別の方がまとめている記事があったので、そちらに譲ること(本稿の最後にリンクを貼っておきますのでそちらをご参照ください)とする。
この映画が光を当てるのは、大手メディアとは一線を画し、市民・国民の知る権利を守るために奔走するフリージャーナリストや独立系メディアの存在なのだけれど、僕はこれを観ながら、彼らが今現在、この新型コロナのパンデミックの影響で世界が混乱している中、どのような報道をしているのかが非常に気になった。
映画を観終わった後、それぞれのジャーナリスト、独立系メディアについていろいろと調べたのだけれど、ここでは独立系メディアThe Intercept ]が配信しているポッドキャスト番組・[ Deconstructed ]を紹介したい。

オークションサイト生みの親からジャーナリズムの救世主へ

[ The Intercept ] は、ebayの創設者・Pierre Omidyarが立ち上げた First Look Media という独立系メディアカンパニーが運営する独立系メディア。
First Look Mediaの会社概要を説明するページでは、Omidyar氏の以下の言葉がトップで紹介されている。

“Our nation is stronger when we protect the rights of individuals to speak their minds, associate with whomever they please and criticize their government and others in power.”
各々が自分の思いを(自由に)語り、(自由に)人と付き合い、政府や権力者を(自由に)批判する権利を守れば、我々の国はさらに強くなる。
— First Look Media Founder, Pierre Omidyar

First Look Media 自体が本格的に動き出すのは2014年に入ってからなのだけれど、そのコンセプトはとても野心的で、スマホネイティブの若い層にも届けたい、という思いが見て取れる。コンセプトムービー自体はとてもポップだが、そこに込められたメッセージは熱いもので溢れている。

Omidyar氏がこの動画の最後に語るこの言葉だけでもこのメディアをフォローし、応援したいという気持ちが強く湧いてくる。

”Journalism is more than telling stories.  It is about telling stories that make a difference.”
ジャーナリズムは物語をただ伝えることではない。  ジャーナリズムは違いをもたらす物語を伝えることである。
— First Look Media Founder, Pierre Omidyar

忖度一切ナシ!の超刺激的ポッドキャスト

前置きからの前置きがずいぶん長くなってしまったが、この First Look Media が運営している独立系メディア [ The Intercept ] のポッドキャスト番組 [ Deconstucted ]の最新エピソード ('20/4/2 配信)のタイトルは "Is Donald Trump Criminally Responsible for Coronavirus Deaths? (ドナルド・トランプは新型コロナウイルスの死者に対して刑事責任があるのか?)" となっている。


約35分のこのエピソードでは、番組ホストの Mehdi Hasan に対し、元連邦検察官であり、現在MSNBCの法律アナリストを務める Glenn Kirschner が、ドナルド・トランプがホワイトハウスを去った後、法的責任を問われる可能性が大いにあることを舌鋒鋭く指摘する。
トランプ氏のこれまでの発言や行動、現在の国内の被害状況を根拠に、司法制度の仕組みに照らしあわせながら、総合的に判断すると刑事事件で立件するに値し、立件は可能である、という。

- 大統領は新型コロナの存在やその致死性にたいして責任があるわけではないが、故意の過失致死を問われる可能性がある
-新型コロナの脅威を過小評価し、国民を欺き、アメリカ国民の命と生活を脅かし、結果的に多くの犠牲者がでることになった
-韓国とアメリカでは同じ日に最初の感染者が発見されたが、その後の国としての対応の違いが被害の大きさの差に繋がっている
-共和党が支持基盤の州と民主党が支持基盤の州で国からの支援内容に差をつけている
-道徳的にも政治的にも彼の対応のせいで多くの国民が危険にさらされている
-民事訴訟ではなく、刑事訴訟での立件も可能である
-現時点での予想死者数(20-22万人)はベトナム戦争で亡くなった米軍兵(約6万人)と第二次世界大戦で亡くなった米軍兵(29万人)の間に位置する(※すでに9/11やハリケーン・カトリーナの被害者数の数は上回っている)

(全内容に興味がある方は上記リンクに書き起こしが掲載されているので、翻訳ツールなどを使えば内容はほぼ網羅することができる)

上記はエピソードの中で語られていたことのごく一部だが、今回僕が特に興味を覚えたのは、配信された内容そのものではなく、その切り口と演出の手法にある。

Look & Feel で心を掴む

サイトのデザイン、使いやすさ、コンテンツの演出(頻繁に実際のトランプ氏の記者会見や取材の受け答えなどの音声もインサートされる)、などエンターテインメントのコンテンツとしても十分に成立しているのだ。
UIに関して言うと、トップページは黒背景にテキスト白、といったダークモードをベースに紫などのビビッドな色で世界観を統一している。
一見すると、Spotify やNetflix などのエンタメ系サブスクサービスのサイトと見間違えるほどだ。
また、記事のテキストの中に、細かく元ネタになっている大手メディアの報道内容などのリンクが張り巡らせており、その記事の内容が、思い込みや憶測に基づいた無責任なフェイクニュースや根拠のない陰謀論ではないことが示されている。
あくまで 1ユーザー の視点で語ることしかできないが、「やっぱり見た目(第1印象)が大事やな」というところに行き着いてしまう。
いくらスクープを入手して、伝えたいことが真実であったとしても、まずは振り向いてもらうことが必要になる。
この First Look Media はそれを熟知している。
そして、その上で、ストーリー自体がコンテンツとして面白いものに仕上がっている。
このエピソードも、「トランプを過失致死で訴えることができるかも!?」ということ以上に「どれだけ現職の大統領が今回の新型コロナの対応をいい加減におこなってきたか?」を大手メディアと別のアプローチで深掘りすることで知る権利を持つ国民に今の問題点を周知させることを試みている。
それでもなお、膨大な数の情報が渦巻くこの世の中で存在感を発揮するのは並大抵のことではないし、どれだけ多くの人がこのエピソードを聞いているのかわからないけれど、今の世の中、真正面から正義をぶつけても、多くの人は気に留めてくれない。
それこそ陽の目を見ることなく消えていった真実や正義はごまんとあるのではないだろうか。

イケてない日本の正義

最後に、日本の現状に目を向けてみたいと思う。
日本で世間の注目を集めるスクープとなると今や 文春砲の一人勝ちといった状況だ。
しかし、その砲口は多くの場合、エンタメ方面に向けられることが多く、政治など、本当の意味で国民の生死に関わる問題に向けられることは残念ながらほとんどない。
いくつかの独立系メディアの中で「日本の聖域」といったタブーに切り込む連載や記事を数多く発表している 選択出版 などは、忖度もなく、本来であれば国を揺るがすような記事もコンスタントに発信しているのに、いかんせん閉じられた空間の中での発信に留まっており、かつターゲットが隔たりすぎ(購読者:約6万人、主に男性・経営者層、定期購読のみ、書店流通なし)ているため、存在感を発揮できないでいる。

「政治」が足りない...

デジタルメディアとしては唯一、Newspicks は、他のメディアと一線を画し、First Look Media と同様のアプローチを取っていると思われるが、経済・テクノロジーに寄りすぎており、政治や弱者への視線が弱いように感じる。
大手メディアの数歩先をいくようなオリジナルの記事も数多くあるのだけれど、「まだ気づいていないバカは放っておいて、今のうちに勝ち組になろうよ」という囁き声が聞こえるのと同時に、大きな権力に対して忖度が含まれている気配が見え隠れする。

それでも現時点でThe Intercept に近い日本の報道メディアはNewsPicksなのではないかと思う。
ここが「経済を、もっとおもしろく。」から「経済を、政治を、もっとおもしろく。」と進化し、J-Popに耳を傾け、紅茶をすすりながら自宅でくつろぐ宰相の法的責任を追求するような記事が掲載される日が訪れれば、日本のジャーナリズムも新たな局面を迎えることができるのではないだろうか?
今ほど国民の目が政治に向けられている時はないのだから、進化するなら今だ。

"The only kinds of fights worth fighting are those you’re going to lose, because somebody has to fight them and lose and lose and lose until someday, somebody who believes as you do wins."
戦う価値のある戦いは、負ける戦いだけだ。なぜなら、誰かがそれらのために戦わなくてはならない。負けて、負けて、負けて、いつの日かあなたと同じように信じる者が勝つまで...
-I.F. Stone

画像1


↓ 「すべての政府は嘘をつく」に関するnote ユーザーの投稿↓


↓ [ First Look Media ] & [ The Intercept ] ↓




この記事が参加している募集

新型コロナウィルス関連で今後様々な社会貢献の動きが出てくると思います。 いただいたサポートは、全額社会貢献活動に還元させていただきます。