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正月のカザフスタン#01

(2020-1)

突然沸き起こった拍手喝采。
ある人は歓声を上げ、指笛を鳴らし、赤ん坊から老夫婦まで、皆一斉にその場を湧かせます。

国際線にしてはやや短い1時間半のフライトも、旅の途中には貴重な休息時間。もう少しゆっくり寝かせてほしいと思いながら重たい瞼を開けると、滑走路の向こうに「アルマトイ」の文字が見えました。
カザフスタン最大の都市に到着です。

なぜロシア系の国々には、飛行機の着陸時にこのように盛大な拍手をする習慣があるのでしょうか。
確かネパールでも同じような経験をしたと記憶していますが、その真意は私には分かりません。雪の降り積もるこの地で無事に着陸できた喜びによるものなのか、パイロットやCAさんへの感謝の気持ちの表れなのか、はたまた一期一会のフライトを単に盛り上げているだけなのか。
私のように離陸も着陸も分からないほど熟睡してしまう乗客にとっては良い目覚ましにもなるそれにつられてとりあえず手を叩きながら、寝ぼけまなこで先日読んだあるニュースに想いを馳せます。


この1週間ほど前、アルマトイのまさに同じ空港である事故が起きていました。それは日本でも大きく報じられた、乗客乗員98人のうち12人が死亡、12人が重体という、大変忌まわしい飛行機の墜落事故。
当時の私は一人旅を目前にその惨事を知り、動揺のままに故郷の父へ電話をかけました。

私の旅行好きは両親からの影響を強く受けたものですが、1人で途上国まで巡ってしまうこの自由奔放さと、行くと決めたら曲げない頑固さのせいで、これまで幾度となく2人を心配させてきました。
今回私が行くと決めた国も、両親にとってはまるで馴染みなく、どこに位置しているかも分からないような未知の世界。また彼らを心配させてしまうだろうと、恐る恐る事故の話題を切り出します。

しかしその話を聞いた父の反応は、意外にもあっさりしており、こちらが拍子抜けしてしまうほどでした。
「まぁ事故はどこでっちゃあっとやけん。そいでも行きたかってことやろう。」
その言葉で、それまでの不安がみるみると解消されていくのを感じます。そして大学卒業後初となった今回の旅行において、思わぬところで「私も社会人になってしまった」と実感したのでした。


そんな、多くの方が命を落とされたわずか1週間後に、私たちはそれぞれの事情でこの地に降り立ちます。
この国際線にしては小さな機内に響き渡る拍手には、少なからず無事に着陸できた安堵の思いや、この地で命を絶たれた事故被害者への追悼の意も込められていたように私には感じられました。
こうして安全に旅行をさせてくださった多くのスタッフの方に対しても有難いと思います。


さて、カザフスタンへの入国はとてもスムーズに終えることができました。とはいえ、入国の目的はわずか半日間のトランジット。夜までの限られた滞在時間でこの街を最大限に満喫しなければなりません。
にも関わらず、当の私は年末の忙しさと1人きりの旅行であることを言い訳に、相変わらずのノープラン。この街のことを殆ど何も調べないまま入国してしまいました。

何の宛てもなしに、とりあえず空港の出口へ向かいます。
ゲートに座っていた警備員が私に何かを話しかけましたが、それは私には到底理解できないカザフ語、もしくはロシア語。一度聞き返すも全く同じことを言われてしまったため、何となく耳に残っている彼の言葉の余韻とその表情から「どこから来たの?」と聞かれたのかもしれないと根拠なく推測し、とりあえず満面の笑顔で「JAPAN!」と答えてみました。

、、彼の表情が「ポカン」から「おいおい勘弁してくれよ〜」に変わります。残念、山を張ってみたけどやっぱり違いました。仕方なく苦笑いしながら彼への次のアクションを考えます。
その時です。

「No no, 彼は君のその荷物を台の上に乗せてって言ってるだけだ。そこに置いてごらん。」
後ろから救いの声が聞こえてきました。それが、この後お世話になる若きジェントルマン、アハメドとの出会いです。


彼の第一印象はクールなポーカーフェイス。
ウズベキスタン人の彼にとってもこれは初めてのアルマトイで、私と同様に夜までのトランジットを予定しているようでした。簡単な挨拶を終えた後、これから市街地までのタクシーでいくから乗り合わせようと誘ってくれます。

個人的に、こういった初めての国に来たときに1番苦労するのが空港・市街地間の移動問題。(それと国によっては何より恐ろしい野犬)
一度市街地へ出てしまうと道を散歩するだけでも充分に楽しめますが、一般的な空港は市街地から離れた場所にあるため、その移動が1番の難点です。
しかも空港からの料金は相場と比べて高いことが多く、特に「1人きりのアジア人女性観光客」という比較的立場の弱い私は、ぼったくりの標的にもなりやすい。ある程度の注意が必要です。

その為、アハメドのように現地の共通言語であるロシア語を話せて、少しピリッとしたオーラのある男性とのタクシー乗り合わせは、私にとってもとても心強いこと。彼の優しい心遣いをありがたく受け止め、乗り合わせを快諾しました。


空港では20ドル分を現地の通貨であるカザフスタンテンゲに両替すればどうにかなるだろうとのアハメドの助言を信じ、彼と一緒に両替を済ませてタクシー乗り場へ向かいます。
先程まで「俺はタクシーの運転手を信用しない」と言っていたはずの彼ですが、空港を出て最初に声をかけられた運転手になんの躊躇もなく付いて行きました。

あれ、この人大丈夫かな、、?

側から見るとまるで以前から知り合いだったかのような自然なやりとりをする2人を見て、少し不安がよぎります。しかしアハメドに確認しても「この人は多分大丈夫。知らんけど。」の一言。


2人を疑っても仕方ないので、とりあえず足早で駐車場へ向かう2人に付いて行き、そこに止めてあったタクシーという名のただの車に乗り込みました。



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