あくつ
詩の集合
いわゆるエッセイをまとめたものです
氷で薄まったサイダーのような
夢日記です
こんな月夜に雨が降る インクの滴り滲むよう ぽつぽつ、 ぽつぽつ、 月だって涙するんだと驚いた だってボクのそれと変わらない ぽつぽつ、 ぽつぽつ、 キミは此処にはいないけど 形は分かるし色も分かる だからこそなおいっそう 今がずっと哀しくなる ぽつぽつ、 ぽつぽつ、 ぽつぽつ、 ぽつぽつ、 ちゃんと生きている気もしないから キミに会いたいよ ぽつぽつ、 ぽつぽつ、 キミは鏡のよ
朝 当然の朝に絶望した命に、 柔らかな光が差し込んでくる 神様みたいに大きくて本当に優しくて、 生きるを余儀なく掴まされた 月 今日が昨日みたいにただ滑る 昨日みたいな眠気と怒り 昨日みたいな恐怖と懈怠 昼に浮かんだ満月だけはよかったな 雨 無邪気な雨が空から落ちる 熱を帯びてこの身を穿つ (私はどうしてここまで生きた) 凍えそうに熱い眼差しが 夜 私を終える行為が眠り 待ち望んだ介錯みたいで 本当に安心する 安心する… 千の夜に散らばった心 触れると、哀しく光る、微
今ここに生きているのは あの夜と同じひとつの体と あの夜を無くし忘れた 薄光放つ秋の朝 それでも曇天が好きなのは きっと始まりを呪うから それでも曇天が嫌いなのは きっと健康になりたいから この夜に死が燦然と佇んで そこに行きたくなって これが最期と思うとき どうして、あなたの命を思う いつかあなたが遠い場所から 懐かしさと温かさを携えて この虚空を見つけてくれるだろうか それだけが救われる理由な気がして 命で積み上げた夜も 魂の理由も 穏やかに消えてしまうなら きっ
奪われた私を私のまま取り戻せるか 殺されかけた私を私のままで 朝ぼらけ目覚めゆくのは世間で 幸せをぼんやり眺めてる かたや私は夜に残され 命の仕組みに呪われている 奪われた私を私のまま取り戻せるか 「生きる」に疑われた私のままで 手が届くのに届かないのは私の心 あの月のようにぽっかり浮かぶ 銀色に手を伸ばせば案外掴めて でも掴んだのは虚 なおさらで 奪われた私を無くした私は何を見る 凍えそうに熱いこの胸は何を知る 例えば零れた心が夢の色した蝶になって 私を忘れた
読んでいる物語の味がしなくなったから、ページを破る前にすぐ閉じる。そうして現実の音が戻る。匂いが戻る。 命の底からふつふつ湧き上がる言葉たちを、私はどうしてもすくってしまう。それらは、そこらへんの言葉と同じはずなのに。 例えばとぼとぼ歩いていて、黒い気持ちを押し付けるように路上の石ころを蹴るとする。それは何でもよかったはずだけど、蹴り始めたら何だか旧知の友のような、古びたお守りのような、愛着と信頼をその石ころに覚え始める。私が蹴ると、石は前に進む。私の行きたい先に石はいる
祈りが届くまで夜に住み キミの形を月にみる、 亡者のごときこの夜に 音は無く匂い無く、 ひなたに微睡む老犬のように 期待と諦めの眼差しで沈む、 去り際の笑顔、風になびく勿忘草 呪いにも似た空色の日々は、 夜に煌めき、泡と消える 幾度も捨てた道はまだ 夜を穿つ光となり 幾度も諦めた道はなお 夜を彩る影となり 幾度も信じたこの道は 何より本当に夜を往く 夢に現れるキミは誰? 本当のキミは今何処 火照った夢は燃え尽きる 夜の底へと降り積もる… 祈りが届くまで夜に
それは遠い冬の出来事 誰も知らない私の記憶 誘われるように不意に目覚めた午前3時 あて先知らずの手紙のような、 首輪の持たない子犬のような、 大きな世界の迷子の時間に、 私の色を塗ってやろうと考えた カバンから畏まった宿題を引っ張り出して、 絡まった毛をほぐすようにちょっとだけ。 縁側に落ち着いて、 外は夜の黒、雪の白。聞こえるのはそれだけ。 生きているのはきっと私だけ、 そんな誇らしさを感じちゃったのは、 私が子どもなんだと、知らなかったから。 ・ 今となっては遠すぎ
触れる度にこぼれていく鮮やかな貴方よ 夏のような貴方を産み落としたあの日 貴方は幼く煌めいて、形を持たない絶対の勇気 貴方をあの夏の青にそっと仕舞って、ずっと信じていた 貴方に会えたからきっと存在を赦されたよ 「生きてるよ」に疑われる時には貴方をなぞる 貴方はいつだって正しい笑顔だから、 命測る巨大な現実に目を向けたんだ そんな貴方がこぼれてく、 雨に打たれる子犬のように 勝手に枯れる花のように やっぱり生まれたことは間違いだったのかな かろうじて、「生きてるよ」と 真
天青の微睡みにもたれ せつない透明をキミは眺め いつか生まれる夏の朝にて「生きてるよ」の応答を待つ 遠い暗闇から間違いのように生まれ落ち ぼろぼろ零れる体に (それでも) 在った灯り これまでとこれからを慰めるように、 ボクを本当に抱きしめたら あまりに脆く はじまりの朝に疑われてしまう ふわふわと強がりのボクはどうしてここにいるのかな 冬がお似合いのボクはどうして今も生きてるの 本当に抱きしめたせつない思い出を、 もう壊れた思い出をずっと抱きしめて 1000
変わらない太陽の確かさに照らされ 空っぽになった場所がひどく冷えてるの 立派な青空の誇らしさは 空っぽを痛く響かせて 残光残る空き教室にひとりいつ間にか ひとりでは歩けない体にされたこと 出会ったことにごめんなさいするから (生きてることにごめんなさいするよ) もうどうしようもない たったこれだけさようならを さようならは再会 さようならは再会、かな たったそれだけを夏の青空に奪われて 夕暮れのロスタイム迷子の雲が 遠くなった夢を思わせて 無関心虫たちのBGMが あなた
ひとつの貴方が此処にいるよと呼んでいる それですべての理由になるのなら 鉛のような青空に呼吸を奪われて、 生暖かい風に背中を撫でられて、 最早 (あぁ…) 終わりが遠いこと 命の数ほど始まりを呪う、呪う ひとつの私が此処にいるよと呼んでいる それがすべての理由になるのなら 月影滲むデジャブの夜 生きていることに殺されかけて、 畢竟 (おや?…) この身は止まらないなら これからも絶望の延長だろうと、 貴方が私の命なら ひとつの貴方が此処にいるよと呼んでいる それをすべ
あたたかな陽だまりのなか スロウに眠る老いた犬の 穏やかな春の流れをわすれてしまうなら ほんとうのやさしさに包まれながら 最後の花束みたいに眠る犬の 夢はいったいどんなだろう だんだん古びゆく生活にも 1粒のよろこびと一滴のかなしみを だんだん薄れゆく景色にも 切ない希望ととっておきの絶望を
あんなに遠いお月様 この夜は自慢げに満月 貴方といっしょになれたなら 貴方の白光に私の呼吸を重ね 揺れて滲む仮初のワルツ これが世界なら 大きな夜の空ろに迷子の犬 例えば貴方のつくる私の影 そこに私はいるの? 鏡のように遠い貴方の声をきかせて こんな願いもきっと叶わず ひとりでなくの 欠く日も満つる日も貴方は貴方を続けている 貴方を続ける貴方の意味はどこ? ・ 貴方の光は強すぎて私をどうにも弱らせる 殺されかけた私のなかの私の光 そこに私を見つけられる? 仮初の
こんな夜にぽつぽつ泣いているあんな遠くのお月様に、ボクはまるで鏡をのぞくようにそっと触れた。 熱く凍える心を、古い風のノスタルジアに忘れてしまったみたい。 どうしようもないよお月様。 ボクらずっと置いてけぼり。 失ったかなしみを夜にそっと仕舞うように、ボクは空っぽを抱えて眠ったんだ。 そしたらおはようって朝がやってきた。 友だちみたいにあまりにも朗らかで切なくて、 ボクのいのちの全部を奪いさろうとしてくるような、そんな心地になったんだ。 ここがどこか分からなくなって、 ボク
しずかにねむる月夜を洗う雨の音 閉じ込められた花の名 響く行方なく 何もかも何もかもぜんぶ赦していない ずっとずっとこのまま多分きっと 増えて重なり沈みゆく増えて重なり沈みゆく 幽霊みたいないたずら抱えて深く しずかにねむる月夜を洗う雨の音 闇に揺れる花の影 見ゆる術なく ゆえんなくおちた底で泣きそうな顔 そばに居た友だちみたいに霞む 赦さずに赦されず赦さずに赦されず 簡単な言葉に身を投げうつ勇気など 窓の遠くに雨音うたう 朧にうたう 誰にも知れず朽ちるのか
──何千回も繰り返す ──ずっとずっと何千回も きっと今回が無事の舞台ならよかったのに ほらやっぱり笑顔の裏側のような雨雲が 撫でるように母親のように撫で襲う だから今回も頽廃、きっとずっと 何でもない石にあからさまに躓いて立ち上がり方など知らなくて 何か壊れたような何か零したような 転がるように転がるように 見えない夜終わらない夜だから 訪う者のない夜だから あなたにその凍えるあなたに聞こえるうたを確かにつぶやいてくれ 明日が懐かしい明日が懐かしい光を思い出すための